じじぃの「科学・地球_205_スパコン富岳後の日本・AI・カスタム半導体」

#Supercomputer #Fugaku #Japan

Japanese Fugaku Supercomputer Is Now World's Fastest, Twice Faster Than IBM Summit
動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=BqebM9SoAlk

「富岳」 富士のように高く、広く

ぶっちぎり1位です。スパコン世界ランキングにARM採用の富岳が堂々初登場

2020.07.01 GIZMODO
●4部門同時首位は世界初
理化学研究所富士通が共同開発した「富岳」は2011年世界No.1の「京(K)」の後継機。48コアSoCのA64FXプロセッサを15万8976個搭載しており、その処理速度は415ペタフロップ! 4期連続首位をひた走るIBM「Summit」に2.8倍の大差をつけてのトップ交代劇となりました。
https://www.gizmodo.jp/2020/07/fugaku-arm.html

中公新書ラクレ 「スパコン富岳」後の日本――科学技術立国は復活できるか

小林雅一(著)
はじめに――日本の科学技術が世界を再びリードする日
第1章 富岳(Fugaku)世界No.1の衝撃
第2章 AI半導体とハイテク・ジャパン復活の好機
第3章 富岳をどう活用して成果を出すか――新型コロナ対策、がんゲノム医療、宇宙シミュレーション
第4章 米中ハイテク覇権争いと日本――エクサ・スケールをめぐる熾烈な国際競争
第5章 ネクスト・ステージ:量子コンピュータ 日本の実力

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『「スパコン富岳」後の日本ー科学技術立国は復活できるか』

小林雅一/著 中公新書ラクレ 2021年発行

第2章 AI半導体とハイテク・ジャパン復活の好機 より

世界的な半導体メーカーの米インテルが有名な「インテル入ってる(Intel inside)」の広告キャンペーンを始めたのは1991年頃と言われる。
このキャンペーンを通じて、同社は「インテルのCPUさえ入っていれば、どんなパソコンを買っても性能は同じ」というメッセージを消費者に伝えた。これによりパソコンの「コモディティ化(値段の安さでしか勝負できないこと)」が進み、PCメーカー各社のブランド価値は破壊された。以降インテルマイクロソフトと並んで世界のパソコン産業を半ば支配することになった。
しかし近年、その状況が大きく変わりつつある。私たちが普段使っているスマートフォンスマホ)は大分以前からインテルx86ではなく、ARMアーキテクチャに従うCPUを搭載している。

GAFAがカスタム半導体を自主開発

さらに最近では、GAFAに代表される米国の巨大IT企業がインテル製品を脱して、スマートフォンクラウド・サーバーに搭載されるプロセッサなど半導体チップを自主開発するようになった。
前章でも触れたように、その先駆けとも言えるアップルは2010年から、アイフォーンとアイパッド用のAシリーズと呼ばれるSoC(System-on-a-Chip:CPUや周辺機能などをIチップ化したもの)を独自開発してきた。きっかけはインテルとの交渉が不成立に終わったことだ。当時、アップルはインテルに「アイフォーン専用のCPUを開発してくれないか」と打診したが、インテルがこの要請を却下したためにアップルはチップの自主開発に踏み切ったのだ。
また20年にマックに搭載されたSoCのM1を自主開発し、今後数年をかけてマックの製品系列をインテル製のCPUからMシリーズのチップへと切り替えていく方針を示した。A/Mシリーズのいずれも、ARMアーキテクチャのチップだ。
一方、グーグル(アルファベット)は16年に発表した「TPU(Tensor Processing Unit)」と呼ばれるプロセッサを自主開発し、これを自社のデータセンターに置かれる多数のサーバーに搭載している。TPUはディーププラーニングの処理に特化したプロセッサだ。最近ではIoTなど、身の回りの情報端末に搭載される「エッジTPU」と呼ばれる推論用プロセッサも独自開発した。
グーグルの後を追うフェイスブックもまた、これらと同様のAIチップを開発中と見られている。
さらにマイクロソフトも自社のクラウド・サービス「Azure」用のサーバーやパソコン「Surface」に搭載される半導体チップを自主開発する計画であると、ブルームバーグなど米国メディアが報じている。
が、おそらく最も注目されているのはアマゾン(.コム)の動きだろう。アマゾンは言うまでもなく世界最大のEコマース業者だが、実はその収益の大半は自社のクラウド・サービス「AWSAmazon Web Services)」によって稼ぎ出している。
同社は18年頃から、「グラビトン(Graviton)」や「インファレンシア(Inferentia)」と呼ばれるプロセッサを自主開発し、これをAWS用の巨大データセンターに設置される多数のクラウド・サーバーに搭載し始めた。いずれもARMアーキテクチャに従うチップで、機械学習や推論などのAI処理に適している。
アマゾンは世界全体で数百万台ものクラウド・サーバーを稼働されていると見られるが、過去にはその大多数がインテル製のCPUなど既製品のチップを搭載していた。しかし今後数年をかけて、それらをグラビトンなど独自開発したチップへと切り替えていく方針だ。

スパコンの頂点・富岳の裾野に広がる新たな基幹産業

富岳で復活したベクトル演算と同様の技術は、日本のAIスタートアップ企業「Preferred Networks(PFN)」が開発したスパコンMN-3も採用している。このスパコンも搭載されている「MN-Core」は、大規模なSIMD型演算ができるカスタム・プロセッサだ。
第1章でも紹介したように、MN-3は2020年6月に発表された世界スパコン・ランキングのGreen500部門で1位にランクされ同年11月のランキングでも米エヌビディア製のスパコンに次ぐ2位につけた(本来、半導体メーカーのエヌビディアはスパコンも自主開発している)。
11月の世界ランキングでは、1位のエヌビディア製マシン「スーパーPOD」が1ワット当たり26.195ギガ・フロップス(毎秒261億9500万回の浮動小数点演算)、2位のMN-3が同26.039ギガ・フロップスとまさに紙一重の僅差だった。
ちなみにTOP500やGreen500をはじめ世界ランキングは、スパコン・メーカー各社が自社工場などで開発した実機の各種性能を測定して、この結果の順位付けを担当する米独の研究者らに報告する自己申告側で決まる。
エヌビディアやPFNなどライバル同士は日頃から互いに相手の実力をかなり正確に把握しているので、特に僅差で順位が決まりそうな場合少しサバを読むなど不正申告の恐れもあるように思われる。が、実際には測定結果が妖しいと見られる時には、ランキングの担当者がメーカーの測定現場まで足を運んで、あらためてその目で確かめることになっている。このため過去に不正申告が起きたことは一度もないという。
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「パーソナル・コンピュータの父」と呼ばれる米パロアルト研究所の伝説的な科学者、アラン・ケイ氏は「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」など秀逸な警句で知られるが、エンジニアのような専門家向けには「ソフトウェアに対して本当に真剣な人は独自のハードウェアを作るべきだ」という発言がある。
AI用のスパコンを自主開発したPFNは、まさにケイ氏の教えを実践したことになる。ソフト開発を起点にしてハードの領域へと攻め込んでいく姿勢は、従来のハードを得意としてきた日本メーカーとは対照的なアプローチだ。
PFNのように下は計算機(ハード)の部分から、上は顧客企業に届けるソフトウェアやソリューション・ビジネスまで全部カバーできる会社は世界的にもなかなか見当たらない。ここに勃興する日本のハイテク企業が再び世界市場に進出していく可能性が感じられる。
富岳やMN-3の開発プロジェクトを通じて、日本の半導体技術はロジックLSIでも世界のトップレベルへと復活したことが見て取れる。ARMとの連携により、その技術は単にスパコンのようなHPC分野に止まることなく、スマホやIoT、クラウド・サーバーなどIT産業全般への応用が可能だ。
本章の冒頭で紹介したGAFAの動きに見られるように、こうした先進の半導体技術は今後さらなる発展が期待されるAIビジネスでも競争力を育む中核的なテクノロジーになる。
日米半導体協定など「電子立国」崩壊後の長い雌伏期間を経て、日本のハイテク産業界にようやく復活の兆しが見え始めている。