じじぃの「科学・地球_192_宇宙の終わりとは・真空崩壊・真空の泡」

The Most Efficient Way to Destroy the Universe - False Vacuum

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ijFm6DxNVyI

「偽の真空」状態をもつヒッグス場のポテンシャル

Sabine Hossenfelder: Backreaction: Dear Dr B: What are the chances of the universe ending out of nowhere due to vacuum decay?

June 07, 2017
In the currently most widely used theory for the Higgs and its properties, the vacuum expectation value is non-zero because it has a potential with a local minimum whose value is not at zero.
We do not, however, know that the minimum which the Higgs currently occupies is the only minimum of the potential and - if the potential has another minimum - whether the other minimum would be at a smaller energy. If that was so, then the present state of the vacuum would not be stable, it would merely be “meta-stable” and would eventually decay to the lowest minimum. In this case, we would live today in what is called a “false vacuum.”
http://backreaction.blogspot.com/2017/06/dear-dr-b-what-are-chances-of-universe.html

神の粒子「ヒッグス粒子」の研究が宇宙を崩壊させる?

2014.10.06 GIZMODO
理論物理学スティーブン・ホーキング氏は物質に質量をもたらす「ヒッグス粒子」の研究を続けていくと、最終的に宇宙が崩壊すると警告しています。
そして今回、スティーブン・ホーキング氏がこのヒッグス粒子を準安定状態することによって、真の真空状態となり、よりエネルギーの低い真空が光速で広がって、膨張していく破滅的な真空崩壊が起こる可能性があると危険視しております。
しかし、実際には地球よりも大きな高エネルギー加速器を用い、膨大な資金が必要となるので、このような事象が近い将来起こる可能性は低いとのこと。
https://www.gizmodo.jp/2014/10/post_15607.html

宇宙の終わりに何が起こるのか

ケイティ・マック (著)
この宇宙は必ず終わる。―いつ、どうやって!?「万物が究極的に破壊される」瞬間を描く5つのシナリオ。19ヵ国で翻訳!話題の最新宇宙論に待望の邦訳登場!
第1章 宇宙について大まかに
第2章 ビッグバンから現在まで
第3章 ビッグクランチ―終末シナリオその1 急激な収縮を起こし、つぶれて終わる
第4章 熱的死―終末シナリオその2 膨張の末に、あらゆる活動が停止する
第5章 ビッグリップ―終末シナリオその3 ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる
第6章 真空崩壊―終末シナリオその4 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死
第7章 ビッグバウンス―終末シナリオその5 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す
第8 未来の未来
第9章 エピローグ

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『宇宙の終わりに何が起こるのか』

ケイティ・マック/著、吉田三知世/訳 講談社 2021年発行

第6章 真空崩壊―終末シナリオその4 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死 より

物理学者はつねに用心深いとはいえないが、「もしも~なら」というシナリオを頭の中であれこれ試すのは私たちの本業だし、究極の破壊の可能性を示唆する仮説の背後にある本物の物理学について深く考える機会は見逃しがたい(間違いないですよ。当事者の私がいうのだから)。
実際、2000年に4人の物理学者(そのうちの一人は、のちにノーベル賞を受賞する)が、『レビューズ・オブ・モダン・フィジックス』誌に「憶測されたRHICにおける『破滅のシナリオ』の再考察」という28ページに及ぶ論文を発表した。RHICとは、LHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)に先立って稼働していたブルックヘブン国立研究所の相対論的重イオン衝突型加速器(Relativistic Heavy Ion Collider)の略称だ。
この加速器は、金などの重元素の原子核を高エネルギーで衝突させる目的で建設された。それ自体が先駆的な実験だったRHICもまた、地球(あるいは宇宙)を危険にさらす予期せぬ影響を生むのではないかという不安をよんだ。この論文は、そういうたぐいの噂を徹底的に検証し、できれば払拭する目的で書かれたのだった。

真空崩壊とは何か

再考察の結果は明るいものだった。論文を書いた研究者らは、理論的な考察だけに基づいて、ストレンジ物質やブラックホールができる可能性はきわめて低いと結論しただけでなく、それを支持する実験データが存在することを示したのだ。その実験とは、具体的には月の存在である。
衝突型加速器が誘発した奇妙な現象が私たちを破壊するという議論はどれも、これらの加速器で起こる超高エネルギー衝突はまったく予測不可能なので、何が起こるかわからないという認識に基づいている。だがこれは、重要な事実を1つ見落としている。
RHICやLHCが到達するエネルギーは、われわれちっぽけな人間には未踏の世界かもしれないが、宇宙の中を旅している宇宙線はしょっちゅう超高エネルギー状態に達しているし、他の物体や宇宙線どうしで衝突を繰り返している。件(くだん)の論文の著者たちの言葉を借りれば、「宇宙線が、RHICのような『実験』を、大昔から宇宙のいたるところでおこなってきたのは明らかである」。
地球上の加速器が到達しうるよりもはるかに高いエネルギーにおける衝突が、宇宙の全域で数十億年にわたって起こりつづけているのだから、もしそれが宇宙を破壊できるのなら、私たちは間違いなくすでに気づいていただろう。
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高エネルギー粒子の衝突が、近傍のふつうの物質をストレンジ物質に変えうるのなら、もうずっと以前に月でそれが起こっているはずで、私たちの空には、あの月とはまったく違うものが存在していることだろう。同様に、小さなブラックホールが月にできていたら、夜空は見るからに様相を異にしていたに違いない。
しかも人類は、実際に月に行き、月面を歩き回り、ゴルフボールを何個か打ち、資料を持ち帰っている。月はなんら問題なく存在している。ゆえに、RHICがわれわれ全員を殺すなどという事態は生じないだろう。再考察の著者たちはそう論じた。
しかし、間違いだとはっきりした宇宙終焉シナリオは、ストレンジ物質とブラックホールだけではない。やはり宇宙線のエネルギーのほうがはるかに高いことをふまえて却下されたもう1つの終焉シナリオは、十分に強力な衝突は「真空崩壊」という、宇宙を破壊する量子事象を引き起こすかもしれない、というものだ。
真空崩壊という概念そのものが、私たちの宇宙にはそもそもの初めから一種、致命的な不安定さが組み込まれているという仮説に基づいている。ごくわずかな可能性としてだけであったとしても、恐ろしく聞こえるかもしれないが、RHICが作動しているあいだ、そのような欠陥があるという信憑性の高い証拠が出たことはなく、そのため、時に真剣に受け止められることはなかった。
しかし、2012年にLHCヒッグス粒子を発見すると、その状況は一変した。

量子的な「死の泡」

残念ながら、素粒子物理学における標準模型のすべての測定結果と辻褄が合う現時点における最善のデータは、ヒッグス場は現在、ちょうどそのようなくぼみにはまっているのだと示唆している。この準安定状態は、谷底の「真の真空」に対して「偽の真空」とよばれている。
偽の真空の何が悪いのだろう? おそらく、すべてが。
偽の真空はせいぜい、最終的な破壊を一時的に猶予するだけだ。偽の真空の中では、粒子が存在できる能力そのものも含めた物理法則が、不確かなバランス調整に依存しており、それはいつ転覆してもおかしくないのである。
その転覆が起こることを、「真空崩壊」とよぶ。それは素早く、徹底的で、痛みをともなわず、完全に万物を破壊することができる。
真空崩壊が起こるためには、「きっかけ」がなければならない──ヒッグス場がくぼみから十分遠くまでさまよい出て、ポテンシャルの「真の真空」にあたるところを見つけて、むしろこちらにいようと思わせるものが何か必要だ(もちろん、ヒッグス場は選り好みなどせず、そのポテンシャルによってのみ支配されている。しかし、可能なら真の真空に即座に転移してしまうようすには、どう見ても熱意がうかがえる)。
超高エネルギー爆発やブラックホールの蒸発といった破壊的現象、あるいは、不運な量子トンネル現象が、その「きっかけ」になりうる。宇宙のどこであれ、これが生じると、停止することは不可能な破壊的なことが連鎖的に起こり、それに耐えられるものは、宇宙の中に存在しない。
そして、それは「泡」から始まる。
真空崩壊がどこで起ころうが、そこには、真の真空の微小な泡が生じる。この泡の内部には、まったく異なる空間が含まれている。

真空崩壊を怖がらなくていい理由

真空崩壊は、あなたが心配すべきことがらではない。ほんとうだ。
理由はいくつかある。もちろん、すぐわかる理由がある。起こっているなら止める手段がないということ。そして、起こりそうだというのも知りえないこと。さらに、痛くはなさそうだということも、心配する必要がないことの説明となるだろう。
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不安になったときはいつでも、宇宙で起きている粒子の衝突では、大昔からLHCやその他の装置に可能であるよりもはるかに高エネルギーに到達しているという事実をあらためて思い出せばいい。したがって、私たちがまだ消え去っていないかぎり、石と石をぶつけて石の中身を知る目論見の現代版であるLHCの高エネルギー粒子衝突実験は、実際にはなんの脅威でもない。
真空崩壊を直接的に起こすことの困難さは、煎じ詰めれば、偽の真空と真の真空を隔てるポテンシャルの障壁の高さに起因する。くぼみにはまった小石の描像に戻ると、ポテンシャルの障壁とは、くぼみをポケット形に見えるようにしている、土地の隆起部に相当する。
ヒッグスポテンシャルのほんとうの形はどうなっているのかに関する、私たちの現時点での最善の推測によれば、このくぼみはれっきとしたくぼみで、いっそう深い真の真空の谷から、きわめて高い尾根で隔てられている。その尾根を越えて小石を飛び出させる(あるいは、ヒッグス場にそのポテンシャルの障壁を越えさせる)のに必要なエネルギーは非常に大きいので、思い悩むだけの価値はほとんどない。
ただし……、私たちは、このようなルールに従わない宇宙に存在している。私たちの宇宙は、根本的に量子力学に基づいており、量子力学では、もしもあなたが原子以下の尺度に存在しているなら、ある場所から別の場所にあなたが移動するときに、きわめて稀ではあるが、堅牢な物体を、なんの問題もなくまっすぐ通過する経路をとることがある。
壁の前に立つあなたは、壁を跳び越えるだけのエネルギーをもっている必要はないかもしれないのだ。すんなりと、壁の中を通り抜けることができるかもしれないのである。とりわけ、あなたがヒッグス場であったなら。