じじぃの「科学・地球_177_太平洋とはどんな海か・高い水圧から身を守る深海魚」

Bathyscaphe Triest: The Quest to Actually Dive 20,000 Leagues Under the Sea

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=XfYWfKQ3gPE

トリメチルアミン-N-オキシド

世界最深の海で極限飢餓環境をバネに進化する「カイコウオオソコエビ」 (1)

2012/12/19 TECH+
マリアナ海溝に棲息する伝説の小エビを捕獲
海の表層を浮遊する植物プランクトン光合成して生産する有機物が、海洋生物のエネルギー源になる。
つまり海洋では、太陽光が届く水深200mまでの表層だけが生物生産の場。そこより下に棲む生物は、表層まで餌を取りに行くことができなければ、落ちてくる死骸や糞などの有機物をベースに生きていく。当然、落ちてくる有機物は、水深が深くなればなるほど、中層の生物に消費されて減っていく。したがって、水深6000m以深の超深海は、海洋の中で最も貧栄養で、生物が飢餓と隣り合わせに生きる場所だ。
化学合成生物が棲息する熱水噴出孔が近年注目されているのは、この海洋生物の大原則の稀有な例外だからである。

それでは、世界最深10,911mに位置するマリアナ海溝チャレンジャー海淵には、どんな生物が棲むのか。1960年有人潜水船トリエステ号」で初めてそこに潜ったジャック・ピカールは、ヒラメのような平たい魚や小エビを見たと報告した。

「魚については、何かの間違いではないかというのが、大多数の研究者のコンセンサスです。ナマコの一種を魚と思ったとも言われています」(JAMSTEC小林英城主任研究員)
https://news.mynavi.jp/article/20121219-jamstec_hirondellea_gigas/

太平洋 その深層で起こっていること

蒲生俊敬 (著)
世界最大の広さを誇り、世界最深点をそのうちに秘める太平洋。人類最後の秘境=深海底はどんな世界なのか? 水深1000mにひそむ火山の正体とは?
第1部 太平洋とはどのような海か
第2部 聳え立つ海底の山々
第3部 超深海の科学――「地球最後のフロンティア」に挑む

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『太平洋 その深層で起こっていること』

蒲生俊敬/著 ブルーバックス 2018年発行

第3部 超深海の科学――「地球最後のフロンティア」に挑む より

第7章 躍進する超深海の科学

超深海や海溝に関する海洋科学的な知見の積み重ねは、いまなお、きわめて限られています。率直にいえば、ほとんど何もわかっていないのが現状です。
観測例が少ないのは、なんといっても1万メートル以上という尋常ならざる深さと、現場における猛烈な水圧が障壁となっているからです。

超深海魚の生息限界は8200メートル?

水圧に対抗して生き抜いていかなければならない深海魚たちは、その体内になんらかの「圧力調節物質」を備えているといわれます。いったい、どのような物質なのでしょうか?
いま注目されているのが、「TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)」という有機化合物でし。化学式では(CH3)3NO(図.画像参照)。TMAOは、深海魚に限らず、ほとんどの海産魚介類が体内で合成している物質のひとつで、水によく溶け、魚たちの体内と海水とのあいだの浸透圧の調節に寄付しています。ちなみに、腐敗した魚類の発する臭気の一因は、TMAOが分解して生じるトリメチルアミン((CH3)3N)です。
このTMAOが、深海魚が高い水圧から身を守るうえで、重要な役割を果たしていることがわかってきました。高い水圧によって水が魚の体内に侵入し、タンパク質を壊そうとしますが、TMAOは、水分子がタンパク質内部に入るのを阻害し、同時にタンパク質を折りたたんで安定化させるはたらきを担っています。
実際に、いくつかの硬骨魚類の筋肉組織を分析してみたところ、生息深度の深い魚ほど、TMAOをたくさん体内に保有していることが確認されています。
しかし、このTMAOによる圧力防御機能にも、限界があります。深さ8200メートルくらいがその境界線であろうと推測されています。
TMAOの増加とともに、魚の体液の浸透圧は増加していき、深さ8200メートルあたりで海水の浸透圧と等しくなります。もしそれ以上TMAOを増やすと、魚の体内の方が増やすと、魚の体内のほうが海水より浸透圧が高くなってしまい、魚は正常な生命活動(鰓(えら)や内臓による浸透圧の調節)を維持できなくなってしまいます。
海に棲む魚の体液の浸透圧は、必ず海水の浸透圧より低くなければならないのです。
したがって、およそ8200メートル以深の超深海には、もはや魚は棲めないだろうと、多くの深海生物学者は考えています。
いや、ちょっと待ってください!
それでは、トリエステ号に乗船したジャック・ピカールとドン・ウィルシュが、1960年に深さ1万913メートルのチャレンジャー海淵で目撃した平たい魚とは、いったい何だったのでしょうか? 事実なのか、それとも誤認なのか、たいへん気になりますね。今後の情報が待たれます。