じじぃの「科学・地球_91_水の世界ハンドブック・バーチャルウォーター」

What is Virtual Water?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yqqOrNkTmBE

日本は“バーチャルウォーター”輸入大国!!?

2016.01.31 ラボ ~水ラボ~水とくらしの研究所~
例えば、ある日の夕食に外国産の牛肉のステーキが並んだとしましょう。
肉牛が育つまでにどれだけの過程があるか想像してみると、飼料を作るのに必要な水+牛の飲み水など、最終的に食卓に届くまでに大量の水が必要になっていることが考えられます。
つまり食料の輸入は“間接的な水の輸入”と捉えることができます。
この見解に基づいた仮想の水のことを「バーチャルウォーター(仮想水)」と呼びます。
これはアンソニー・アラン氏(ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授)が初めて提唱した概念です。
https://ysgv.jp/waterlab/1753

『地図とデータで見る水の世界ハンドブック』

ダヴィド・ブランション/著、吉田春美/訳 原書房 2021年発行

6 はじめに より

水問題はいたってシンプルである。世界で6億人以上の人々が飲料水にアクセスできず、世界の農業生産の40パーセントが灌漑農業に依存している。
水辺の生態系は自然のプロセスに欠くことのできない役割を果たしているにもかかわらず、きわめて脆弱である、ということである。

133 21世紀への挑戦 より

150 バーチャルウォーター

水が経済的価値をもつなら、グローバルに取引きすることも潜在的に可能である。しかし、「リアル」ウォーターの市場がグローバル化するのは技術的に非常にむずかしく、文化的に強い抵抗を受けるだろう。いっぽう、大量の水が「バーチャル」な形で消費財に組みこまれ、毎日やりとりされている。バーチャルウォーター(仮想水)の取引きはしばしば、水のとぼしい国に解決策をもたらすといわれている。だが、水をただ経済的に見ることは、とくに主権や食の安全の観点から限界がある。

「バーチャル」ウォーターとはなにか?

バーチャルウォーターの概念は1993年、ジョン・アンソニー・アランによって導入された。それを水問題に対するアプローチを一新するものだった。農業財や工業財を生産するには、ジャガイモのキロあたり250リットルから牛肉の1万5000リットル以上まで、かなりの量の水を消費する。
この「リアル」ウォーターの一部は生産地で蒸発するなどして失われる。だが、水が実際に消費されるのは別の場所である。バーチャルウォーターとリアルウォーターは、視点と分析レベルの違いによって区分される。「バーチャル」ウォーターとよばれるものは、ある場所で輸出可能な財を生産するために使われ、別の場所で「バーチャルに」消費される水である。こうしたバーチャルウォーターのやりとりは非常に重要である。経済協力開発(OECD)諸国の平均の水消費量は、1日に1人あたりの約120リットルだが、1日の食をまかなうには2000リットル(アフリカ)から5000リットル(ヨーロッパ)の水が必要だと見積もられている。
世界レベルで見ると、国家間でやりとりされるリアルウォーターの量はごくわずかだが、バーチャルウォーターは莫大な量にのぼる。それは年間1300立方キロメートル近くに達しており、急速に増加している。バーチャルウォーターはとくに食品と関係が深いので、バーチャルウォーターのおもな輸出国は世界の「穀倉」でもある。すなわちアメリカ、カナダ、オーストラリア、フランスといった国である。いっぽう、おもな輸入国は中近東や中国など、農産物が不足している国である。エジプトはおもにアメリカとオーストラリアから、小麦の形で、3.5立方キロメートルに相当する水を「バーチャルで輸入」している。バーチャルウォーターの概念は慎重に扱う必要があるが、水に足りない国が農産物を輸入して「バーチャルな形で」水を手に入れることにより、自国の水不足をカバーしているとみることができる。

水から金へ

バーチャルウォーターの収益性の計算においてもっとも重要な要素は、1キロあたり、1立方メートルあたりの生産量でも、栄養値でもなく、世界市場における価値である。相手より優位に立つことで、最高の評価を得るのである(more cash per drop = 水1滴のあたりの収益を増やす)。水のとぼしい国の多くは、日照が非常に多く、北の競争相手に比べて低コストの労働力に恵まれている。理論的には、小麦のかわりに柑橘類をつくれば、ほとんど雨の降らない国の農民でも水1立方メートルあたり1ドル近くを稼ぐことができる。
いくつかの国には水の地域市場がある。そのため財力のある者が生産性の高い投機的な農作物の生産にのりだし、力のない農民から耕作権を買いとって生産量を増やすことにより、自国の水「全体」により高い価値をあたえることができる。

水をただ経済的に見ることの限界

バーチャルウォーターの考え方をとりいれれば、とくに西アジア北アフリカにおける水不足の問題を解決できると考えられてきた。理論的には、このようなかぎられた資源しかもたない国は、少ない水でつくられるが価格の高い食品を輸出し、価格は低いが多くの水を必要とする農産物を輸入すべきである。地中海沿岸の南と北では、北で栽培される穀物と南から来る柑橘類で理想的な交換が行なわれるはずである。実際に、第2のナイル川に相当する水が、バーチャルウォーターという形で、北アフリカ西アジアの国々へ流れている。こうした見方によれば、理論上、水の価値をより高めることができるし、コストのかかる河川の整備など行なわずに環境を守ることができるのである。
しかしながらバーチャルウォーターは、そのような地域の水問題に対する奇跡の解決策とはほど遠い。実際、農産物市場は完全な市場ではない。関税障壁や非関税障壁(品質規格)が存在し、南の諸国が自国の農産物を輸出するのをさまたげている。それに、世界の相場は変動する。2006年から2008年にかけて起こったように穀物価格が急騰すると、代替作物の栽培はそれほど利益を生まなくなる。さらに、穀物栽培をやめてしまうと、国家の主権と食の安全が脅かされることになる。世界規模で穀物が不足すれば、生産国は当然ながら、国内の消費を守るために輸出品に高い関税をかける。バーチャルウォーターを選択した国は苦境におちいり、「飢餓暴動」が起きるだろう。こうした事例は、水をただ経済的に見ることに限界のあることを示している。かけがえのない、生命に不可欠な水は、貨幣的評価をはるかに上まわる価値をもつのである。