じじぃの「歴史・思想_506_日本の論点2021・世界の半導体サプライチェーン・TSMC」

半導体世界大手TSMC 日本拠点の姿【Bizスクエア】

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ptlGwri606M

台湾積体電路製造(TSMC

TSMC: At The Heart Of Semiconductor Supplies

Feb. 16, 2021 Seeking Alpha
●The supply chain
In addition to Volkswagen (OTCPK:VWAGY), Toyota (OTCPK:TOYOF) and Ford, the company’s fabless customer base includes the likes of AMD, Apple, NVIDIA (NASDAQ:NVDA), and Qualcomm.
These companies are the leaders in cutting-edge tech and behind the acceleration in demand for TSMC’s 5nm process and sustained demand for 7nm technology.
https://seekingalpha.com/article/4406319-tsmc-at-heart-of-semiconductor-supplies

『これからの日本の論点2021』

日本経済新聞社/編 日経BP 2020年発行

論点17 異形のグローバリゼーションとどう向き合うか より

【執筆者】太田泰彦(編集委員論説委員

コロナ禍で加速した自国第一主義

こうした変容(マスクの買い占めなど)が、街のなかの個人レベルだけでなく、世界の国々のあいだでも起きた。国同士の信頼が薄れ、自国第一主義が横行した。
マスクやゴーグル、防御服、グローブ、消毒薬など、感染防止対策に必須の医療資材だけでなく、食料や石鹸、トイレットペーパーなどの日用品にまで囲い込みが起きていたことがわかる。何らかの輸出制限を実地したケースは世界の80ヵ国・地域にも及ぶ。
これらは、企業が自主的な判断で実施した措置ではない。各国の政府が政策として強制的に打ち出した法的な施策だ。1例を挙げれば、欧州連合EU)は2020年3月、マスクや防護服などを対象に輸出許可制度を導入した。5月末には解除されたが、EU域内の企業は2ヵ月以上にわたり、政府の許可なく非EU諸国に製品を輸出できなかった。同じ欧州域内の近隣諸国でも、EUに加盟しているか否かで公然と差別が認められたわけだ。
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国どうしで仕事を分担して、それぞれ自分の得意分野に専念する。すると、経済全体のコストが下がり、双方が豊かになる。こうした国際分業をするために、互いに貿易障壁を下げる――。この考え方こそがグローバリゼーションの基本だが、コロナ禍がもたらしたのは正反対の論理だった。
たとえば、人工呼吸器を生産できる「先進国A」を考えてみよう。自国の国民の命を守るために「先進国A」は「途上国B」に人工呼吸器を輸出しない。一方で、農業が豊かな「途上国B」は、「先進国A」が食糧不足に陥っていても、小麦やコメ、大豆を供給しない。国内の食を満たすという目的もあるが、人工呼吸器を輸出してくれない「先進国A」に圧力をかける材料として農産物を使いたいからだ。

寸断されるサプライチェーン

貿易自由化といえば、コロナ危機以前ではモノやサービスを輸出したい国が、相手国の輸入障壁を撤廃させることを意味した。通商交渉で輸出を伸ばすことができれば「勝ち」であり、国益にかなっているとみられた。
米国やEUなど国際社会で政治力が強いプレーヤーは、時には力ずくで相手国の市場をこじ開けようとしてきた。繊維、鉄鋼、牛肉、オレンジ、自動車、半導体をねぐる1980~90年代の日米の貿易摩擦はその典型である。世界の自由貿易の歴史は、新興国の市場開放の歴史でもある。
言い換えれば。国や地域が結ぶさまざまな自由貿易協定は、「輸出したい」という価値観を土台として構築されていた。お互いの「輸出したい」という願望をバランスよく調整するのが、通称交渉の役割だったといえる。
コロナ危機が世界に突きつけたのは、逆転した価値の基準だ。緊急時には、輸出拡大ではなく「輸入したい」あるいは「輸出したくない」という政策が国益にかなう。この新たな価値基準に関して、現行の自由貿易の体制は、まったくと言っていいほど機能しない。
その象徴ともいえるのが、1995年に設立され「自由貿易の番人」とされたWTOの、コロナ危機での右往左往ぶりだ。

本丸TSMCを陣営に引き込めるか

ファーウェイにとって決定打となったのは、2020年5月15日にトランプ政権が打ち出した制裁強化策だ。規制対象がそれまでの直接取引だけでなく、米国の技術を使って製造された外国製品にも拡大された。前年の5月にファーウェイなどを制裁対象にしたものの、第3国経由で規制逃れが横行したため、対象を外国企業に広げてのだ。
たとえば、半導体を開発・製造する際に米国由来の設備や部品、技術、ソフトウェアなどを付加価値ベースで25%以上使った場合、外国企業であろうとも、ファーウェイとその関連企業(世界に114法人)に輸出することができない。
一見、複雑な規制だが、米国が照準を向けているのは、実は台湾である。とりわけ半導体の受託製造企業(ファウンドリー)の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)を、中国ではなく米国の陣営に引き込むことを目論んでいる。
1990年代以降、世界の半導体産業は、製造ラインを持たないファブレス生産が主流になった。高度なクリーンルームの建設には数千億円の設備投資が必要となるため、高コストの製造工程は外部のファウンドリーに任せて、自らは半導体の開発や設計に専念する。この流れに乗り、世界の半導体メーカーから大量に生産を引き受け、2000年代にかけて着実に技術力を高めていったのが、TSMCである。研究開発に資金を惜しみなく注ぎ込む経営戦略が実り、いまでは世界で最も技術力が高い半導体企業となった。

当初はコストを下げるために台湾企業に製造を委託していた米国の半導体メーカーだが、次第にTSMCの技術力なくしては製品をつくれなくなった。TSMCを下請け企業と考えるのは大きな間違いである。むしろ世界の半導体メーカーの側がTSMCに依存しているのだ。

英国のアームが開発した基本設計は、ライセンスのかたちで米国のクアルコムやアップルなどに給与される。これに基づいて各社が開発した製品の製造を、TSMCがほぼ一手に担う。上流から下流まで自社内で賄うインテルはやや特殊な立ち位置だが、ほとんどの半導体サプライチェーンは、最終的にTSMCに流れ込む。
半導体においては、開発だけでなく、製造に高度な技術力を擁する。超微細な加工は誰にでもできるわけではない。鴻海(ホンハイ)精密工業など台湾には何社もファウンドリーがあるが、TSMCの技術力は突出して高い。米中貿易戦争が高まるなか、最も重要な位置にいる企業がTSMCだといってよい。
TSMCの顧客は米国企業だけではない。米国企業向けのチップも中国企業向けのチップも、同じ場所にある生産ラインでつくっている。なかでもとりわけ大きな受注先が、ファーウェイの半導体部門である海思半導体(ハイシリコン)だ。
米中のサプライチェーンが交差する台湾は、米国から見れば、技術が流出する「抜け穴」と映る。だが、反対にTSMCをファーウェイのサプライチェーンから外せば、ファーウェイを干し上らせることもできる。高度な半導体が手に入らなければ、ファーウェイは5G機器を生産できなくなるからだ。
TSMCは2020年初めまでは、なんとか米国の制止をかわしてファーウェイへの供給を続けることができた。だが、2020年5月のトランプ政権による規制強化で、ファーウェイにつながる経路はほぼ断たれたとみてよい。米国からの脅しと、米国の補助金に引きつけられるかたちで。TSMCは最先端の工場を米国内に建設する予定だ。中国内で生産していた現地工場は、撤退か縮小しか選択肢が残されていないだろう。