じじぃの「歴史・思想_414_社会はどう進化するのか・神話を一掃する」

Social Darwinism Charles Darwin

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=biRPAbxQ2Ag

On the Origin of Socialist Darwinism

On the Origin of Socialist Darwinism

This View Of Life
Socialist Darwinism is the idea that natural selection promotes societies that cooperate as moral communities.
This concept actually predates Social Darwinism, which later emphasized competition and individualism. Socialists throughout the 1860s-70s praised Darwin’s theory as promoting progressive social change.
https://thisviewoflife.com/on-the-origin-of-socialist-darwinism/

『社会はどう進化するのか――進化生物学が拓く新しい世界観』

デイヴィッド・スローン・ウィルソン/著、高橋洋/訳 亜紀書房 2020年発行

社会進化論をめぐる神話を一掃する より

進化論の世界観を肯定的に確立するためには、まず問題に満ちた社会進化論の歴史を振り返らなければならない。ダーウィンの名のもとで、貧困の放置、不妊手術の強制、人種差別、ジュノサイドなどの由々しき社会不正義がなされたのであれば、進化論の領域はまぎれもなく危険地帯であることになる。しかしその種の社会進化論の描写はほとんどが神話であり、真の歴史ははるかに興味深く複雑だ。

ダーウィンの理論を正しく理解すれば、協調に焦点が置かれていることがわかるだろう。ダーウィンらは、最初からその点を明瞭に述べていた。

ヒトラーダーウィン

著名な科学史家のロバート・リチャーズは「ヒトラーダーウィン主義者だったのか?」と題する論文でその点(影響を受けたという証拠はない)を明確にしている。
ダーウィンに焦点を絞ることは、人種差別一般、個別的にはとりわけ西洋思想における反ユダヤ主義の深い起源を無視するにつながる。ヨーロッパ人を頂点として人類を階層化してとらえる見方をとらなかった主要な人物を見出すのはむずかしい。植物と動物を分類した偉大な学者カロルス・リンネウス[カール・フォン・リンネ](1707~1778)は、ホモ・サピエンスを、アメリカ人(銅褐色、胆汁質、慣習に支配される)、アジア人(暗色、黒胆汁質、評判に支配される)、アフリカ人(色黒、粘液質、気まぐれに支配される)、ヨーロッパ人(色白、楽天的、法に支配される)という、独自の気質によって定義される4つの分類項目に分けた。リンネウスは創造論者だったので、それらの差異が神によってさだめられたのだと考えていた。
ダーウィン自身は、人種の階層を自明なものと考えていたが、ユダヤ人に関してはほとんど何も書き残していない。ドイツ人のエルンスト・ヘッケルは彼が唱える人種の階層にユダヤ人を含めていたものの、ドイツ人や他のヨーロッパ人と同じレベルに位置づけていた。1890年代に行なわれたインタビューで、ヘッケルは次のように述べている。「私は、洗練された高貴なユダヤ人をドイツ文化の重要な構成員と見なしています。彼らが啓蒙と自由のためにつねに勇敢に闘ってきたことを、忘れるべきではありません」。ということでmヒトラーがヘッケルの影響を受けていたという考えは捨てるべきだ。

ブギーマンの創造

ジェフィリー・ホジソンの緻密な分析に見たように、「社会進化論」という用語は、歴史家のリチャード・ホフスタッターが1944年の著書『アメリカにおける社会進化論』によって広めるまでは、めったに使われていなかった。第二次世界大戦中は、冷静な学問的分析が顧みられる時代ではなかった。ホジソンが述べるように、「偉大な歴史家の能力は、ファシズムやジュノサイドに対抗するための、イデオロギー的な戦争努力につぎ込まれた」のだ。ホフスタッターの本では、人種差別主義、国家主義、競争的な争いを擁護する見方は何であれ、社会進化論の範疇に括られている。
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かくして進化論は、人間以外の生命、人間の身体、いくつかの基本的な生存本能を説明する一方で、協力ではあるが人間の行動や文化の多様性については何も語らない理論として広く見なされるようになった。またその過程で、人間の持つ変化の能力は進化の軌跡の埒外にあるとされ、進化と「生物学」は、(遺伝子に釘づけにされていることに起因する)変化の能力の欠如に結びつけられるようになったのだ。
社会進化論」という言葉は、ひとたび澄んだ目で見れば子どもじみているとしか思えないようなあり方で、この異様な考え方を強化したのである。それに関して、ジェフリー・ホジソンは次のように述べている。
  森は危険な場所にもなる。だから私たちは、森に住む野獣やブギーマン[伝説上の怪物]が登場する物語を子どもたちに語って聞かせ、森に近づかないよう警告する。同様に、世に普及している「社会進化論」の何たるかを説明する物語は、生物学という暗い森に近づかないよう社会科学者に警告するための、ブギーマンの物語として考案されたものだ。私たちは、社会科学で生物学に由来する考えや類推(アナロジー)を使うのは、どんなものでも危険だと教えられる。いつももように怖ろしいことが起こるから、生物学という領域に足を踏み入れてならないと警告される。だが、科学者を子どものように扱うべきではない。(……)歴史の捏造はやめて、ものごとをそれにふさわしい名前で呼ぶようにしようではないか。

最大の犠牲者

ダーウィンの理論は誤用され得るし、実際にされてきた。しかし同じことは、どんな理論にも、それどころかほとんどいかなる種類の道具にも当てはまる。ダーウィンの理論が特に誤用されやすいという証拠はどこにもない。したがって「社会進化論」という言葉をブギーマンに仕立てることは、まっとうな学問や科学の分野ではまったくの見当違いである。これまで社会進化論に結びつけられてきた政策は、実際にはダーウィンの理論の正統な解釈や理解とはほとんど何の関係もない。
この烙印行為の最大の犠牲者は誰であろうか? 私たち全員である。進化論は生物学の内部では大きな進歩をなし遂げてきたのに、社会科学や人文科学、そして実践面への実践面への応用に関連する多くの分野からほぼ完全に除外されてきた。さて、ブギーマンとしての社会進化論という神話を一掃した今や、集合的な未来を意識的に進化させるために、進化論の世界観を肯定的に活用する方法を探究する準備が整った。