じじぃの「科学・地球_08_炭素物語・生命への道」

炭化水素⑤ アルケンの名称と性質

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yiXa33SEJxE

リナロール二重結合

二重結合って何?

さてさて、精油の成分について過去に様々お伝えさせていただきましたが、その多くが二重結合というのを持っています。
二重結合って何でしたっけ?
リナロールを構成する炭素10個と水素16個、そして酸素1個を全て書いてみました。(C:炭素、H:水素、O:酸素)
炭素は手を4本、酸素は2本、水素は手を1本持っています。
1本ずつの手を出し合って手をつなぐと「結合」が出来上がります。
https://aroma-select.jp/blog/3712

交響曲第6番「炭素物語」――地球と生命の進化を導く元素』

ロバート・M・ヘイゼン/著、渡辺正/訳 化学同人 2020年発行

「水」――生命の炭素 より

原始の地球

誕生から1億年後、およそ45億年前の地球を想像しよう。宇宙から岩の爆撃をしじゅう受け、熱い溶岩と熱水がブクブク噴いて、若い太陽の強い紫外線を浴びる地球だ。生命の気配さえない荒れ狂う世界。ただし生命の元素はみなそろっていた。
水はどうか? 生命には水が欠かせない。細胞は重さの大半が水だし[訳注:成人は体重の約60%が水]、生命はたぶん水中で(数億年後に)誕生した。そんな細胞が働き、増殖する。
エネルギーは? 生命は必ずエネルギーを使う。食物の化学エネルギーでも、太陽の光エネルギーでもいい。原始の地球では、2つともまだ使えなかったが、深部からつくる地熱や、落雷のエネルギー、放射壊変の核エネルギーはあった。
炭素はどうだろう? 原始の地球で、生命に使えそうな炭素系の分子は、降り注ぐ炭素質の隕石がたっぷり含んでいた。むろん、大気と海、岩石の含む炭素はずっと多かった。
こうして生命誕生の舞台は整っていた。どこかの時点で「土」「空気」「火」「水」が、いわば自己組織化して生命を生むことになる。

なぜ炭素が生命をつくる?

炭素は鉱物を生み、地球上をめぐり、身近な製品をつくる元素だった。固体や液体、気体が含む炭素原子は、暮らしのあらゆる面で数えきれない役割をする。そんな無生物界ではなく、構造や機能がずっと複雑な生命でも、主役が炭素になるのは必然なのだろうか?
生命をつくる元素は、何はともあれ、地殻や海水、大気に量が十分なければいけない。また、化合物が化学反応しやすい元素でなければいけない。ただし、反応性があまりにも高く、燃えたり爆発したりするのはまずい。
反応性がほどほどでも、単純な反応だけでは役に立たない。丈夫な膜や線維(生命のレンガとモルタル)をつくり、情報や記録・コピー・解釈する反応も欠かせない。また、その元素を含む物質には、化学変化でエネルギーを生み、あるいは太陽の光エネルギーを吸収するのも必要だ。エネルギーを蓄えるしくみと、必要な時とエネルギーを放出するしくみも欠かせない。そんなふうに生命のコア元素には、八面六臂(ろっぴ)の活躍が要求される。
以上を頭に、候補となる元素を考えよう。1番元素の水素と2番元素のヘリウムは宇宙にたっぷりあるけれど、生命の基礎になれるだろうか?
1個の相手原子とだけ結合する水素は、できる仕事の範囲がせまい。水素が活躍するシーンは多く、たとえば弱い糊のような「水素結合」で生体分子の形を整えるし、酸素と結ぶつけば生命に必須の水になる。だが、生命化学の土台にはなりえない。
2番元素のヘリウムは、反応性がまったくない。気位の高い上流階級に似た「貴ガス」だから、よほど特殊な条件を除き、どんな原子とも結びつこうとしない。
3~5番(リチウム、ベリリウム、ホウ素)は天然に少ない。地殻の原子100万個あたり数個しかなく、海水中や大気中ならもっと少ないため、候補から落ちる。
6番の炭素こそが、生命化学のヒーローになれる。

炭素のチカラ

炭素は万能に近い。生命の機能に役立つ多様な分子をつくる。分子の形も生命機能に大きくからみ、とりわけ立体構造が効く。単純な構造が望ましいこともあり、靭帯や腱、血管、植物のひげ、クモの糸、ヒトの毛髪などの成分は、1方向に結合が伸び、ロープや繊維の形になってほしい。鎖状の高分子にある炭素はそれができる。
柔軟な細胞膜や、関節を支える丈夫な軟骨、平たい皮膚の素材には、平面層をつくれる炭素系分子を動員する。もっと複雑な構造の分子で、たとえば細胞の内外に分子やイオンを通すトンネルのような「チャネル」、細胞内で養分を運ぶコンベア構造、体液を導く配管、卵子に向けて精子を発射するミクロな分子モーターなどもつくる。
また生命はさまざまな「道具」も使う。酵素とよばれる分子群は、爪切りやハサミの趣で、食べた高分子を切り刻む。胃や小腸の酵素は、タンパク質や油脂や炭水化物など大きな分子を切り、腸壁から吸収しやすい小分子にする。2個の小分子をつなぐツールや、分子の群れを仕分けするツール、標的分子に働いて構造化させるツールもある。酵素は、数百~数千個の原子が複雑きわまりない形につながってできる。酵素1個の構造や機能の解明でノーベル賞がいくつか出た例もある。
炭素だけが、そういう複雑で精妙な分子の骨格をつくれる。秘密は、炭素原子の化学的柔軟性にある。マジックナンバー(2と10)の中間にある6番元素だから、電子4個をだしたり受け入れたり、ほかの2~4個の原子と電子を共有したりして、安定な状態になれるのだ。
生命現象は「電子の操り」だといえる。順々と進む反応の群れが生命を保ち、エネルギーをとりこみ、蓄え、利用して体の組織をつくる。化学反応とは、結合の組み換えと電子のやりとりにほかならない。だから体内で電子の動きを制御すれば、生命を制御したことになる。

炭素は数十種の元素と結びつき、多彩な化学環境をつくって生命の目的にかなう。

炭素原子の結合は、電子1個を供出する「単結合」だけではない。2個の電子を供出すると、酸素原子や炭素原子との「二重結合」ができる。二重結合した炭素原子は、3個の原子に囲まれる。ときには電子3個を供出し、窒素原子や炭素原子と「三重結合」もつくる。三重結合した炭素は、残る1個の原子を使って4本目の結合をつくる。
    ・
炭素原子は多芸多才だ。電子をもらい、与え、共有して、ほか数十の元素と単結合・二重結合・三重結合をつくり、鎖状や環状、枝分けれ構造になる。一酸化炭素COや二酸化炭素CO2、メタンCH4など水分子のほか、数万~数十万原子がつながった巨大な構造もつくれる。
それほど多彩な分子を生む炭素だから、化学研究の90%が炭素にからむのも納得できる。大学の化学科や生物学科で教える内容も、有機化学と高分子化学、薬化学、生化学、分子遺伝学、農芸化学、食品化学、環境化学など、炭素の話が多い。コンピュータ支援薬剤デザインや、タンパク質の分子構造、土壌の微量成分、ワインの成分など、セミナー類の話題にも炭素がらみのものが多い。豊かな化学の世界を炭素が生むからだ。