じじぃの「科学・地球_07_炭素物語・身のまわりの製品」

第5回 京都大学 ? 稲盛財団合同京都賞シンポジウム「生命とは何か?それは動的平衡」福岡 伸一 2018年7月22日

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8vsIsHl_qEI

アミノ酸とは

東邦大学
●アミノ基を持つ酸,アミノ酸
アミノ酸は「アミノ基」と「カルボキシル基」をもちます。これらはα-炭素に結合していますが、この炭素原子にはもう一つのかたまり「側鎖(そくさ)」も結合しています。こうしたアミノ酸の一般的な構造を図1に示しました。
●私たちのまわりにあるアミノ酸
側鎖(Rと略します)には、いくつもの種類があり、これがアミノ酸の種類(必須アミノ酸は20種類)を分けています。
たとえば側鎖にカルボキシル基をもった『L‐グルタミン酸ナトリウム』(図2)は化学調味料(味の素)の代表です。L‐グルタミン酸は1908年に池田菊苗博士により昆布から抽出されました。博士が、グルタミン酸をナトリウム塩にしたとき、昆布から取り出したのに昆布以上に旨みが感じられる事に自ら驚いたと、いうエピソードがあります。また、フェノールを側鎖にもつL‐チロシンから誘導されるドーパミンノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニンは私たちが怒りや喜び、不安やどきどきを感じる時に分泌される脳内ホルモンの一種です。(図3) そのほか「焼いか」「焼とうもろこし」「焼肉」「コーヒーの香」など我々の間近にある「香の成分」にもアミノ酸は、かかわっています。
https://www.toho-u.ac.jp/sci/chem/column/amino_acids/amino_acids_2.html

交響曲第6番「炭素物語」――地球と生命の進化を導く元素』

ロバート・M・ヘイゼン/著、渡辺正/訳 化学同人 2020年発行

「火」――暮らしの炭素 より

素晴らしき材料の世界

「土」と「空気」だけで私たちは生きていけない。食品や衣料、住宅や工場、車や飛行機、テレビやスマホなど、さまざまな製品もいる。生活必需品のほか、アウトドア製品、おいしいワイン、座り心地のいい椅子、強いバンパー、肌にやさしい下着、動作の確かなコンピュータ、おいしいケーキ、丈夫なリュック、軽いシュース、きれいな風船、偏向サングラス、フワフワの枕、寝心地のいいベッドもほしい。先端素材のマジックテープやバンドエイド、ポストイット、瞬間接着剤、リキッドレンチ、リップクリーム、テフロン鍋、グミベアも使うだろう。どれも炭素の化学が生みだす。
材料をつくるには、原子を順々につなぐ。原子がつながって集合体や平面分子、まっすぐな分子、枝わかれした分子になる。分子のサイズと形もさまざまで、鎖状や環状、立方体や球、筒状の分子がある。材料の性質も、絹の手触り、丈夫、透明、香り、吸水性、カラフル、絶縁性、研磨能、廃水性、不透明、粘着性、生分解性、UVカット、スパイシー、磁石、不燃性、高密度、もろさ、熱伝導、電気伝導、甘味、塩味、柔らかさ、安全性……と果てを知らない。
社会のニーズが、すぐれた材料を要求する。化学者は原子レベルで材料を設計し、望みの性質と機能をもたせる。材料の性質は、ひとえに、どんな元素の原子をどう結びつけりかで決まる。

炭素ほど、原子の結びつきが多彩な元素はない。炭素化学の豊かな世界は、有機化学者とよばれる人たちが研究する。世界に研究者は100万人ほどいるだろうけど、数では有機化学者が群を抜く。

絹の手触り

化学分野が盛り上がるなか、若い化学者ウォーレス・カロザースが大戦果をあげる。イリノイ大学で博士号をとり、ハーバード大学で1年の教員生活を経た1928年、デラウェア州ウィルミントンの巨大企業デュポン社から誘いがかかる。収益の根元を基礎研究とみる同社は、高分子化学「先導研究」のリーダーとして彼に白羽の矢を立てた。カロザースらはたちまち1930年に合成ゴムの第1号「ネオプレン」をつくる。ネオプレンはすぐさま伸縮性の膝プロテクターやウェットスーツに使われた。
カロザースの最高傑作、1935年2月に発明したナイロンは、熱すると融け、繊維にもフィルムにもなる画期的な高分子だった。1938年に歯ブラシの素材となり、翌39年にはニューヨーク万博で女性用のストッキングが発表される。同じ年に勃発した第二次大戦のさなか、ナイロンは軍事用途(パラシュートの素材など)に使われた。デュポン社はナイロンで数十兆円の収益をあげている。
だがカロザースはナイロンの世を見ることなく他界する。妹が死んで鬱(うつ)になり、発想の枯れていく人生を失敗と感じたらしく、41歳を2日後に控えた1937年4月29日に青酸カリで自殺した。
彼はだいぶ前から青酸カリのカプセルを腕時計の鎖につけていた。むろん毒性は知り抜いている。三重結合のシアノ基C=Nは、生命の必須元素(炭素Cと窒素N)からできるのに、細胞内で酸素を使えなくし、心臓と中枢神経をダウンさせる。酸が青酸カリの効きを速めると知っていたカロザースは、カプセルをレモンジュースで飲んだ。

命にかかわる重合ミス

タンパク質は、アミノ酸という小分子がつながった生体高分子でつながる順序(アミノ酸配列=一次構造)が最終形(三次構造)を決める。アミノ酸の鎖は、シート状(軟骨)や繊維状(毛髪、腱)、からみ合うランダムな姿になれる。20種のアミノ酸が数百~数千個つながり合ったタンパク質分子は、サイズと形に果てがない。
アミノ酸147個のタンパク質で、1個だけのミス(6番目が正しいグルタミン酸ではなくバリン)が、大差を生むとは思いにくい。だがタンパク質の動きは分子の絶妙な形がかもしだすため、どのアミノ酸も昨日に効く。1個でもアミノ酸が変ると(いまの場合赤血球のベータ・グロビンで6番目のグルタミン酸がバリンになると)、鎖の形が微妙に変わる。そのせいで発症する重篤な鎌状赤血球貧血は、アフリカ住民の500人にひとりがかかる。変形した赤血球が酸素を運びにくくなるうえ、半月形になるから細い血管に詰まりやすい。貧血や慢性疼痛、脳卒中なども併発する。
そんな点変異(アミノ酸1個のミス)が起こす遺伝病はほかにも多い。嚢胞(のうほう)性線維症は粘液沈着を起こして慢性の肺感染症につながる。テイ・サックス病は脊髄と脳の神経細胞を壊す。色覚異常になる遺伝病も少なくない。
遺伝性でも生後の物理・化学的損傷でも、タンパク質のアミノ酸配列が狂えば、発がんの恐れも大きい。タンパク質の狂いは、加齢とともに起こりやすくなる。