じじぃの「ノーベル化学賞2020・ゲノム編集技術・デザイナー・ベビー誕生の可能性が高まる?クリスパー」

「化学賞」はゲノム編集の女性2人 きっかけは日本人研究者の発見

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=6EvZK49H914

Cas9による遺伝子編集法

「基礎科学、強力な技術に」 開発の女性研究者ら―ゲノム編集

2020年10月08日 時事ドットコム
2012年の論文発表以来、瞬く間に生命科学の世界を一変させたゲノム編集技術。ノーベル化学賞の受賞が決まったエマニュエル・シャルパンティエさん(51)とジェニファー・ダウドナさん(56)は17年の日本国際賞受賞で来日した際、「基礎研究が強力な技術につながった」と意義を強調しつつ、予想を上回る発展に「この技術が採用されたペースには驚かされている」と戸惑いも口にしていた。
ゲノム編集「人類の生活変わる」 遺伝子配列発見の石野九大教授。
感染性疾患の基礎研究に取り組んできたシャルパンティエさん。「なぜ感染し、発症するのか。メカニズムを明らかにする中で見つかったのが『クリスパー・キャス9』だった」と明かす。ダウドナさんも「科学に関する好奇心からスタートした研究が、結果として興奮を呼ぶ結果をもたらした」と話し、画期的な発見の背景には地道な基礎研究があったことを強調した。
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シャルパンティエさんは「ライフサイエンス(生命科学)の世界がどこまでこのような強力なツールを求めているか、承知していなかった」と振り返る。論文の発表直後から、世界中の科学者から大きな反響が寄せられ、農産物の改良や遺伝子治療創薬などにも利用可能性が広がっている。

一方で、親が生まれてくる子の容姿や能力を自在に改変する「デザイナー・ベビー」誕生の可能性も高まり、倫理面から懸念が強まった。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020100701148&g=int

『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』

ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ/著、櫻井祐子/訳 文藝春秋 2017年発行

高校生が数日でできる より

CRISPR研究が爆発的に前進した理由は、CRISPRが多様な能力を有しているからでもあり、応用範囲が驚くほど広いからでもある。CRISPRのツールボックスが拡大するうちに、DNAのどの塩基であれ、どの遺伝子やその組み合わせであれ、ゲノムのなかで私たちに手の届かないものはなくなった。これからの章で説明するように、人類はこの力を利用することで、がんや遺伝子疾患の治療法を刷新し、動植物への応用により食料生産を増やし、特定の病原菌を根絶し、絶滅種を復活させることさえできるかもしれない。CRISPRを使った遺伝子編集が初めて報告されてから数ヵ月後に、この技術はバイオテクノロジーを永久に変えてしまうだろうと「フォーブス」誌が予言したのも不思議ではない。
しかし、CRISPRがあれほど爆発的な勢いでバイオテクノロジーの世界に受け入れられた真の理由は、低コストと使いやすさにあった。CRISPRの登場により、すべての科学者がとうとう遺伝子編集を利用できるようになったのだ。ZFNとTALENなど従来型のツールは、設計が難しく、コストが法外に高かった。この理由から、私の研究室を含む多くの研究室が、遺伝子編集を必要とする研究への挑戦をためらっていた。だがCRISPRがあれば、ほんの数日間で、外部の助けをまったく借りずに、任意の遺伝子を標準化し、必要なCas9タンパク質とガイドRNAを準備し、標準的な手法を使って、自ら実験を行うことができるのだ。ベーシックなCRISPRが組み込まれた人工染色体(プラスミド)さえあれば、だれでも始めることがことができる。便利なことに、非鋭利団体のアドジーンがこのニーズに幅広く応えている。アドジーンはプラスミド保管機関(リポジトリ)およびプラスミド流通サービスとして、大きな成功を収めている。
アドジーンは、プラスミドを扱うネットフリックスのようなものだ。マーティン・イーンックと私もいったんCRISPR論文を投稿すると、プラスミドをアドジーンに寄託した。ちょうど映画会社がネットフリックスに映画の使用許可を与えるようなものだ。CRISPRプラスミドを作製するほかの多くの研究室や研究所も、同様に寄託している。
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このようなCRISPRの特性のおかげで、今日では基礎的な化学の知識しかもたない科学者の卵でさえ、ほんの数年前には考えられなかった離れ業ができる。「先進的な生物学研究所で数年かかったことが、今では高校生が数日間でできる」とは、この若い分野で古い格言のようになった言葉だ。最新のツールを使えばだれでも2000ドルでCRISPR実験室を立ち上げられるという専門家もいる。また独学のバイオハッカー、つまり自宅でCRISPRを使って遺伝子編集のまねごとをする熱心な技術オタクが増えるという予測もある。CRISPRはクラウドファンディングでも人気を集めた。DIY遺伝子編集キットを生産、販売するという触れ込みのベンチャーが、5万ドルを優に超える金額を集めた。130ドルの寄付で、「自宅で高精度なゲノム編集を行うために必要なすべて」が得られるという。
CRISPRによって誰でも遺伝子編集を利用できるようになったことで、かつての奥義が、やがてビールの自家醸造のような趣味や工芸になるかもしれない(ちなみに、私がこれまでに聞いた中で一番面白くて意外なCRISPR利用法の一つが、酵母ゲノムを編集して新しい風味のビールをつくるというものだ)。これはいろいろな意味ですばらしいことだ。しかしこれほど強力なツールの急速な普及には、どこか不穏なところもある。
CRISPRの民主化は、この章で説明した研究開発のプロセスを加速させるだろう。だがそれだけでなく、私たちがまだ受け入れる用意のできていない利用法や、研究室の枠を超えて幅広く影響がおよぶ利用法を促すこともまちがいない。すでに世界中の科学者が、想像を超えるような方法でCRISPRを多様な生物種に使い初めている。ヒトゲノムが同じ対象になるのも、そう遠いことではない。