じじぃの「科学・芸術_449_魔法の杖・クリスパー(ゲノム編集技術)」

Your Guide to Understanding How CRISPR Works 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Ft-160cAx38
Cas9による遺伝子編集法 (eurekalert.org HPより)

クローズアップ現代+ 「驚異のテクノロジー“生物工場” いきものが薬も燃料もつくる!」 2018年5月22日 NHK
【キャスター】武田真一、田中泉 【ゲスト】五十嵐圭日子(東京大学准教授)
植物や微生物などに有用な物質を作らせる“生物工場”に注目が集まっている。
遺伝子組み換えで、イネに花粉症予防成分、イチゴに歯周病治療薬を作らせるのだ。世界で開発競争が激化する中、日本の切り札はカイコ。5千年にわたる交配の結果、他の生物を圧倒する高いタンパク質合成力を持ち、抗がん剤やワイヤーより強い糸など、複雑な物質も生み出せるという。養蚕農家とタッグを組んだ研究も始まっている。日本の戦略に迫る。
酵母が燃料を作り出す
生物工場で最も注目されているのがカリフォルニア州にある「アミリス社」。
車オイルやタイヤ素材、ビタミン、化粧品成分など数百種類の製品がある。酵母を生物工場にしてすべての製品を作らせており、タイヤ素材の場合はグリップ性能が高く劣化しにくい。
DNA配列は1200万に及び、どの部分にどんな遺伝子を組み込むのか組み合わせは無限大。そこでこの企業では人工知能を導入、最適な組み合わせを予測させている。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4133/index.html
厚労省 遺伝子治療の臨床研究、ゲノム編集も対象に  2018/3/12 日本経済新聞
遺伝子治療は患者の細胞に病気に関係する遺伝子を入れて治療する。臨床研究については国の指針で技術内容などが決められている。ゲノム編集を利用してがんやエイズを治療する研究は米国や中国が先行しており、今回の指針の見直しで、国内でも臨床研究が実施できるようになる。
今後、同省の再生医療等評価部会で承認されれば、告示を経て解禁となる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28008310S8A310C1000000/
『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』 ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ/著、櫻井祐子/訳 文藝春秋 2017年発行
高校生が数日でできる より
CRISPR(ゲノム編集技術)研究が爆発的に前進した理由は、CRISPRが多様な能力を有しているからでもあり、応用範囲が驚くほど広いからでもある。CRISPRのツールボックスが拡大するうちに、DNAのどの塩基であれ、どの遺伝子やその組み合わせであれ、ゲノムのなかで私たちに手の届かないものはなくなった。これからの章で説明するように、人類はこの力を利用することで、がんや遺伝子疾患の治療法を刷新し、動植物への応用により食料生産を増やし、特定の病原菌を根絶し、絶滅種を復活させることさえできるかもしれない。CRISPRを使った遺伝子編集が初めて報告されてから数ヵ月後に、この技術はバイオテクノロジーを永久に変えてしまうだろうと「フォーブス」誌が予言したのも不思議ではない。
しかし、CRISPRがあれほど爆発的な勢いでバイオテクノロジーの世界に受け入れられた真の理由は、低コストと使いやすさにあった。CRISPRの登場により、すべての科学者がとうとう遺伝子編集を利用できるようになったのだ。ZFNとTALENなど従来型のツールは、設計が難しく、コストが法外に高かった。この理由から、私の研究室を含む多くの研究室が、遺伝子編集を必要とする研究への挑戦をためらっていた。だがCRISPRがあれば、ほんの数日間で、外部の助けをまったく借りずに、任意の遺伝子を標準化し、必要なCas9タンパク質とガイドRNAを準備し、標準的な手法を使って、自ら実験を行うことができるのだ。ベーシックなCRISPRが組み込まれた人工染色体(プラスミド)さえあれば、だれでも始めることがことができる。便利なことに、非鋭利団体のアドジーンがこのニーズに幅広く応えている。アドジーンはプラスミド保管機関(リポジトリ)およびプラスミド流通サービスとして、大きな成功を収めている。
アドジーンは、プラスミドを扱うネットフリックスのようなものだ。マーティン・イーンックと私もいったんCRISPR論文を投稿すると、プラスミドをアドジーンに寄託した。ちょうど映画会社がネットフリックスに映画の使用許可を与えるようなものだ。CRISPRプラスミドを作製するほかの多くの研究室や研究所も、同様に寄託している。
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このようなCRISPRの特性のおかげで、今日では基礎的な化学の知識しかもたない科学者の卵でさえ、ほんの数年前には考えられなかった離れ業ができる。「先進的な生物学研究所で数年かかったことが、今では高校生が数日間でできる」とは、この若い分野で古い格言のようになった言葉だ。最新のツールを使えばだれでも2000ドルでCRISPR実験室を立ち上げられるという専門家もいる。また独学のバイオハッカー、つまり自宅でCRISPRを使って遺伝子編集のまねごとをする熱心な技術オタクが増えるという予測もある。CRISPRはクラウドファンディングでも人気を集めた。DIY遺伝子編集キットを生産、販売するという触れ込みのベンチャーが、5万ドルを優に超える金額を集めた。130ドルの寄付で、「自宅で高精度なゲノム編集を行うために必要なすべて」が得られるという。
CRISPRによって誰でも遺伝子編集を利用できるようになったことで、かつての奥義が、やがてビールの自家醸造のような趣味や工芸になるかもしれない(ちなみに、私がこれまでに聞いた中で一番面白くて意外なCRISPR利用法の一つが、酵母ゲノムを編集して新しい風味のビールをつくるというものだ)。これはいろいろな意味ですばらしいことだ。しかしこれほど強力なツールの急速な普及には、どこか不穏なところもある。