Lapland, Finland - A Travel Film
Map of East Eurasian Admixture in Europe
Sami people of The Nordic Areas
Rare and fascinating photos of indigenous Sami people of The Nordic Areas
フィンランド人の起源――「アジア系」という神話 より
アジア系起源説の背景
フィンランド人のアジア起源説は、19世紀にヨーロッパの言語学の世界で主張された説が流布したものである。言語学の分類上、フィンランド語はウラル=アルタイ語族に属すとされ、このグループには他にもハンガリー語、トルコ語、モンゴル語、朝鮮語、そして日本語といったヨーロッパからアジア、すなわちユーラシア大陸をまたがる地域を網羅する語族が属していた。日本ではハンガリー語学者であり、フィンランド語古典も編纂した研究者の今岡十一郎氏が戦中から主張し、戦後にこの説を広めた。
だが国際的にはこの主張は第二次世界大戦後に下火となり、現在ではウラル語族とアルタイ語族を結びつける説は否定されている。つまり、フィンランド人のアジア起源説も学問的には否定されている。
ちなみに、4~6世紀のゲルマン民族大移動の原因となったフン族をハンガリーのマジャール人の起源とする説も日本でいまだに流布しているが、これも現在は否定されている。しかし、ヨーロッパとアジアがつながっているとされるウラル=アルタイ語族という考えは人々のロマンをかきたてるものであり、時折注目されている。
ここで、言語学的な分類におけるフィンランド語について簡単に説明したい。
ウラル語族に属するフィンランド語は言語的に「アジア系」ではない。ウラル語族のフィン・ウゴル語系にはフィンランド語の他にエストニア語、ハンガリー語、カレリア語(カレリア地方の言語)からロシア連邦内にあるウドムルト共和国の公用語であるウドムルト語などが属すとされる。フィンランド語はエストニア語に最も近く、ハンガリー語には最も遠い言語とされる。
また、北欧4国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド)の言語がインド・ヨーロッパ語系に属しているのに対し、フィンランド語のみがフィン・ウゴル語に属するため、フィンランド人は北欧諸国、ひいてはヨーロッパとは異なる民族であるという印象が強い。
しかし、フィンランド語話者のみがフィンランド陣ではないことに留意しなければならない。現在のフィンランドでは、人口のやく90%がフィンランド語を母語とするが、スウェーデン語、サーミ語(ラップランドに住む少数民族サーミ人の言語)、ロマニ語(ジプシーと呼ばれていたロシア人の言語)も話されており、一言語のみ話されているわけではない。また、歴史的にフィンランド語が公用語的扱いを受けるようになったのは19世紀後半からであり、それまではスウェーデン語が公用語であった。
もっとも、フィンランド人のアジア起源説は、言語学以外の要因もある。すなわち「未開人」という認識からである。「先進的」なヨーロッパに対する「後進的」なアジアという歴史的偏見が関係している。1917年の独立以降もフィンランドはほかの北欧諸国と比較して経済的発展が遅かった。そのため、実際、独立以前のフィンランドには未開を含んだ「アジア」として揶揄された歴史がある。
フィンランドの歴史学者アイラ・ケミライネンが指摘しているように、フィンランド人自身も第二次世界大戦前までは「アジア系」であるという劣等感を持ち、ヨーロッパに憧れを抱いていた。現在の先進国の先端を走るようなフィンランドの姿からは想像しにくいが、「ヨーロッパ」の外に置かれた存在であったのである。
どこから祖先は来たのか
では、フィンランド人の祖先はどこから来たのだろうか。
フィンランド人起源説に関する論争は長い間続いてきたが、1980年代になって、西フィンランドのポホヤンマー(オストロボスニア)で考古学j上の大発見があり、フィンランドに居住した最初の人類はネアンデルタール人で、少なくとも4万年前に生存していたとされた。
この発見はフィンランド人の起源説に大きな変化をもたらしたかに見えたが、発見されたネアンデルタール人は現在のフィンランド人の祖先ではないという説もあり、いまのところ定まっていない。たしかに、現在のフィンランドにあたる地域は3万年から1万年まで厚く氷河に覆われ、氷河時代の終わり頃にようやくフィンランド湾から地表が徐々に姿を現わしたとされる。フィンランドの祖先がいつ、どこから到来したのか見極めるのはいまだ難しい
19世紀から20世紀にかけての学説では、フィン・ウゴル語の広がりに関連してフィンランド人は東から到来したという考えが主流だった。しかし、現在の考古学によると、フィンランドおよびカレリア地峡で発見された最古の遺物は紀元前8800年から8500年頃のもので、南東や南から来た人のものであると推測されている。紀元前7000年頃から気候が穏やかになり、フィンランドにあたる地域も人が居住しやすい環境になったため、人びとが多方面に移動し、定住していったと言える。
一方で、近年、遺伝子解析によってフィンランド人の起源に言及する新たな説が登場した。米マサチューセッツ総合病院を中心とする大規模研究チームが、2016年8月に学術雑誌『ネイチャー』に5大陸に住む6万706人の遺伝子情報を分析した論文を発表した。それによると、フィンランド人の遺伝子は他のヨーロッパ人と異なるという結果が導き出されたという。