Human cloning: Are we a step closer? | ITV News
Human cloning
Scientists can almost build a human from scratch
https://www.fromthegrapevine.com/innovation/scientists-can-almost-build-human-scratch
『人工培養された脳は「誰」なのか』
フィリップ・ボール/著、桐谷知未/訳 原書房 2020年発行
おぞましい子孫――ヒト培養の未来 より
知能が高い、あるいは見た目がよい子どもが欲しいのなら、なぜ適切な遺伝子の獲得を期待して生殖でのゲノム組み換えという宝くじに懸けるのか? すでに必要な遺伝子構造を持っている知り合いの賢い、あるいは魅力的な人を複製すればいいのでは?
先に触れたように、クローニングは、ひとつの細胞――成体の体細胞でもよい(体細胞核移植、略してSCNTの場合)――から完全に形成されたひと組みの染色体を採取し、核を取り除いた卵子に移植して行う。次にその卵子になんらかの方法で刺激を与え――化学的あるいは電気的刺激でも効果がある――新しい染色体の導きのもとで胚に発達させる。
動物のクローニングは、ヒツジのドリーで始まったのではなかった。先述のとおり、1920年代にハンス・シュペーマンが、最初はイモリの胚を細い輪で分割し、次はSCNTを行なって成し遂げた。1952年には、ブリッグズとキングがヒョウガエルで成功させた。ヒツジが初めて初期胚をつかう方法でクローン化されたのは、1984年だった。ドリーについて重大なのは、移植された核が成体の体細胞に由来することだ。2005年、韓国のファン・ウソクとそのチームは、初めて犬のクローン化に成功し、そのイヌをスナッピーと名づけた。ファンはその後間もなく、ヒトクローン胚から幹細胞を生成したという主張が虚偽データに基づくものだったことが示され、信用を失墜した。
生殖目的でのヒトのクローニングが可能かどうかはわからない。確認する唯一の方法は試してみることだが、ほとんどの国でそれは禁じられている。2005年の国際連合による宣言では、「人間の尊厳および人間の生命の保護とは相容れないもの」として、あらゆる国に禁止を呼びかけた。しかし、一種のヒトクローニングは、1993年にすでに行なわれていた。ワシントンDCのジョージ・ワシントン大学医療センターの科学者たちは、対外受精で生成されたヒト胚を人工的に分割した。ある意味で、人工的に胚を一卵性双子になるようにしたわけだ。細胞は初期胚まで育ったが、子宮に着床させられる段階まで達しなかった。この研究は、適切な倫理上の許可を得ていたのかははっきりしなかったので、大きな論争を巻き起こした。
体細胞の核移植によるヒトクローニングは、また別の話になる。これまでのところ、それが可能かもしれないと考えられる最大の理由は、その技術が他の霊長類に有効であるという2017年の実例があるからだ。上海の神経化学研究所のムーミン・プーと同僚たちは、SCNTを使って2匹のカニクイザルのクローンをつくり、ホウホウとチョンチョンと名づけた。ドナー細胞はカニクイザルの成体ではなく胎児に由来していたが、研究者たちは成体でもいずれうまくいくと確信している。なぜなのか完全には解明されていないが、霊長類はクローン化が特にむずかしい哺乳類なので、この結果はヒトクローニングに向けた重要な一歩になった。研究は、それ自体を目的としてではなく、アルツハイマー病の遺伝的な根源を探る研究に焼く立てる目的で、一連の遺伝的に同一の猿をつくるために行われた。
もっと幅広い倫理上の問題はさておき、安全上の懸念から、ヒトクローニングを試みるのはまだあまりにも軽率だろう。ホウホウとチョンチョンは、21匹の代理母に79個のクローン胚を移植したあと、6例の妊娠で唯一正常に生まれた子どもだった。じつは、成熟細胞でつくったクローン胚からも2匹の赤ちゃんが生まれたが、1匹は体の発達障害、もう1匹は呼吸不全で、どちらも死んでしまった。
とにかく、クローニングがヒトの生殖にとって価値ある選択肢だという筋書きをつくるには、かなりの創意工夫が必要になる。
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異端の医師やカルトからの要求はあるものの、これまでのところヒトは一度もクローン化されていない。しかしわたしの意見では、いずれは実行されるだろう。その見通しを、歓迎はしない。(対外受精とは違って)それを行う正当な根拠が何もなく、苦痛の緩和とその方法でつくられた人の幸福だけを動機にしているようにはは思えないからだ。それでも、もし実際に事が起こったら新たな”ルイーズ・ブラウン誕生の瞬間”を予期しなくてはならないだろう。自分とそっくりの人間をつくれるらしき技術でヒトをつくる。なじみのない過程に対する不安感と折り合いをつける努力が必要だ。
ロナルド・グリーンが2001年に、今後10年から20年のうちに、「世界じゅうで毎年、あまり多くない数の子ども(数百人から数千人)が体細胞核移植クローニングで生まれるだろう」と指摘したのは、時間の尺度については誤っていたとしても、原則として正しかったのかもしれない。グリーンによれば、数十年以内に「クローニングが、利用されているたくさんの補助生殖技術のなかのひとつにすぎないと見なされるようになる」ことは大いにありえる。わたしとしては、もしそれが行なわれるのなら、辺鄙な場所で、依頼人の動機や幸福さえろくに気にかけない異端の医師と利益に飢えた企業に任せるより、情報が公開され、管理されたやりかたで、適切な安全対策を講じて行われるほうがいい。ヒトクローニングを警戒しているからといって、この方法でつくられたヒトを警戒すべき理由は少しもないのだから。