じじぃの「歴史・思想_172_地球に住めなくなる日・人新世」

Anthropocene - Official U.S. Trailer

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=ikMlCxzO-94

日経サイエンス 2016年12月号

特集:人新世を考える

日経サイエンス 2016年12月号
人類が地球環境や生態系,気候に大きな影響を与えるようになった現在,地球は新たな地質時代「人新世(アントロポセン)」に突入したといえそうだ。
人類は地球をどのように変え,それが私たち自身をどう変え,人新世の未来はどうなっていくのか,9つのポイントから考察した特集を2号にわたって掲載する。
http://www.nikkei-science.com/201612_060.html

地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実

NHK出版
[著]デイビッド・ウォレス・ウェルズ [訳]藤井留美 発売日 2020年03月
●知られざる「戦慄の未来」を明らかに。話題騒然の警告の書。
平均気温が4℃上昇した世界はどうなるのか?
現状の二酸化炭素排出ペースが続けば、今世紀末までに平均気温が4℃上昇するという予測が現実味を帯びてきます。4℃の上昇で、下記のことが起こります。
・地球規模の食料危機が毎年発生する。
・酷暑関連の死者が全体の9パーセント以上を占める。
・複数の気象災害が1ヵ所で同時発生することが増え、損害は世界全体で600兆ドルに達する。
・紛争や戦争が倍増する。
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000818132020.html

『地球に住めなくなる日』

デイビッド・ウォレス・ウェルズ/著、藤井留美/訳 NHK出版 2020年発行

第1部 気候崩壊の連鎖が起きている

気候崩壊はすでに進んでいる より

環境関連の報道にふだんから接している人は、50万年に一度という表現に意味はないことを知っている。それでも、地球温暖化が引きおこす自然災害が、祖父母世代さえ記憶にない、すさまじさであることは伝わるだろう。これが500年に一度であれば、ローマ帝国の歴史で1回起こる程度だとわかる。アメリカで言うと500年前はまだイギリスの清教徒たちは大西洋を渡っていない。彼らが新天地に集落を築き、革命で独立を勝ちとり、その子孫が奴隷を使って綿の一大産地を築き、南北戦争を戦い、工業化と脱工業化をくぐりぬけながら二度の世界大戦を経て、冷戦で勝利し、「歴史の終わり」が来たかと思うと、たった10年でイデオロギー対立が復活する……。これらすべてが起きているあいだに、たった一度だけ降る大雨ということだ。ハリケーン・ハービー級の暴風雨がヒューストンに上陸したのは、2013年以来三度あった。それでも場所によっては被害が甚大だったため、表現が「50万年に一度」と格上げされた。
    ・

地球の反対側の日本では、2018年7月の西日本豪雨で120万人に避難勧告が出された。

9月に発生した台風22号では、中国本土で245万人が避難している。同じ週、アメリカのノースカロライナ州サウスカロライナ州を襲ったハリケーン・フローレンスで、港町ウィルミントンは一時孤立状態になり、浸水で町じゅうに堆肥と石灰石が流れ込んだ。このハリケーンの影響で、各地に竜巻も発生した。6月、インドのケララ州では100年ぶりという大洪水が起きた。
    ・
大規模な自然災害が起きるたびに、その原因が議論される――人間が地球に悪いことをしたら、しっぺ返しを食らったのだという構図だ。巨大ハリケーンが穏やかな海で発生する仕組みを解明したいよ思う者にとっては、そうした問いかけは意味があるかもしれない。このハリケーンの威力の40パーセントは地球温暖化に由来するとか、17世紀だったらおの旱魃は半分程度だったとか……。しかし対策を考えるうえでは、こうした議論から有意義な洞察はえられない。世界各地で起きているハリケーン、熱波、飢饉、戦争は、地球温暖化が引きおこした犯罪ではない。温暖化は個々の犯罪の犯人ではなく、いってみればその裏にいる黒幕だ。私たちは、自ら引き起こした変化もひっくるめた気候のなかで生きている。
コロンブス以前のカリブ海で起きていたハリケーンの5倍の強さだとしても、気候変動のどこがどう作用したか論じるのは重箱の隅をつつくようなものだ。気候システムを私たちが壊したから、ハリケーンが生まれる数が増えるし、強くもなる。森林火災も同じこと。直接の出荷原因はバーベキューの火の不始末だったり、送電線の発火だったりするが、季節を選ばず発生してすぐに燃えひろがり、大規模でかつ長期にわたるのは温暖化のせいだ。気候変動は限られた場所ではなく、あらゆるところにいっせいに出現し、人間の手で阻止しないとぜったいに止まらない。

人間か関与する新しい地質時代という意味で、「人新世」という名称は一般に浸透しつつあるが、そこには自然の征服という含みもある。

人間が自然を破壊したという指摘(じっさいそのとおりなのだが)をのんきに受けとめてもかまわないが、少なくとも自然破壊を誘発した可能性は肝に銘じたほうがいい。最初は無知ゆえに、のちには見ないふりをして気候システムをいじくったあげく、こちらが破壊するまで気候とせめぎあうはめになった。「地球温暖化」という言葉を世に広めた海洋学者ウォーレン・スミス・ブロッカーが、地球を「怒れるけだもの」と表現したのはそういう意味だ。「戦争兵器」と呼んでもいいだろう。その威力を日々増強しているのは、ほかならぬ私たちである。