じじぃの「歴史・思想_130_動物と機械・よいAIとはなにか」

How do Viruses Reproduce?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=QHHrph7zDLw

New Family of Viruses

『動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来』

菅付雅信/著 新潮社 2019年発行

シリコンバレーの未来信者たちとその反動 より

シンギュラリティを教える大学

「シンギュラリティは必ず起きるよ、必ずね!」
シリコンバレーにあるNASAの広大な研究施設のいぅかくに位置するシンギュラリティ大学で同大学のCEOのロブ・ネイルは満面の笑みを浮かべてこう断言した。
2019年6月、現在のAI研究の最前線を見るべく、わたしたちはサンフランシスコの郊外シリコンバレーを訪れた。滞在期間中は、AIの研究者や起業家7名を取材したが、その中で2回、シンギュラリティ大学の中で取材する機会があった。シンギュラリティ大学とは、「シンギュラリティ」の提唱者であるレイ・カーツワイルと起業家ピーター・ディアマンディスが設立した教育機関だ。この場所では、「AIが人間の知能を上回る事態が起き――それを技術的特異点=シンギュラリティと呼ぶ――、人間はマシンとつながることのよってポスト・ヒューマンになれる」というカーツワイルの思想を基にした、未来志向の授業が行なわれている。日本でもスポンサー企業を集めながら何度かイベントを開催していたこともあるので、その名を聞いたことがある者も多いかもしれない。現在でもシンギュラリティ大学にはさまざまなグローバル企業から研修派遣でやってくる人が数多くあり、わたしたちが訪れたときは豊田市から来たというトヨタの社員がいた。このような多国籍・多人種の集まりでありながら、食事も皆で食べ、独自の一体感を醸し出している。その様子はまるでテックのコミューンだ。
しかし、なぜシンギュラリティ大学がNASAの施設内にあるのか? 「宇宙探索とイノベーションに焦点を当てているNASAは重要なパートナーであり、NASAと協力しているメンバーもいます」と、案内してきれた同校のマネージング・ディレクター、アドルフ・ハンターはその理由を説明してくれた。今後、シンギュラリティ大学はベイエリアに拠点を移す予定だというが、これからもNASAとの関係は需要だという。

「よいAI」とはなにか?

シリコンバレーと呼ばれる一帯は、日本のビジネス街とは全く様相が異なる。もちろんコンクリートとガラスで固められたビルも点在するが、多くの企業はカリフォルニアの茫漠たる郊外の、住居なのかオフィスなのかお店なのか一見よくわからないような平屋の建物にオフィスを構えている。AI Brain(AIブレイン)のオフィスも、「ここは住居? カフェ?」と見間違えるような、一軒屋空間を他のスタートアップとシェアした構えだった。建物の入口で「はて、ここかな?」と戸惑っていると、AIブレインのチーフサイエンティスト、スティーブ・オモハンドロが向こうからドアを開けて声をかけてきた。
AIブレインは、「社会が抱える課題を解決するためのAI」を開発するスタートアップだ。シリコンバレー以外にも、ソウル、深圳、ベルリンなどに拠点を構えている。オモハンドロは、イリノイ大学アーバナシャンペーン校でコンピューター・サイエンスの教授を務め、現在ふたつのスタートアップの代表も兼任している。彼は1980年代二ステファン・ウルフラムとともにアップル社の「The Computer of the Year 2000」というコンテストに応募し、優勝。そこでデザインしたタブレットは、GPSを備えたタッチスクリーン型のもので、奇しくもその22年後にアップルは「iPad」という名称でこれと同様のタブレットをリリースしている。
シリコンバレーの成長を間近で見続けてきたオモハンドロは、AIブレインにおいて、問題解決、学習、記憶という知能の3つの重要な側面を統合することで、自律的なAIを構築することを目標している。
「AIは次の数十年の間に社会に急速に浸透すると思います。ただしAIを設計する際には人間の価値観に合わせなければならない。しかし、社会によって大事とする価値観が違います。たとえば中国が『よいAI』と言ったとき、それは中国から見ても、他の国から見ても同じようによいものでしょうか? AIは単なる技術革命ではなく、人類の知性です。だからこそ、哲学的、心理学的、技術的、経済的といったさまざまな観点から課題を提起していかなければなりません」
同社の最高戦略責任者(CSO)であるミラン・リーはこう語る。そしてオモハンドロは「わたしたちは純粋なAI企業から、拡張知能の企業に移行しようとしています。なぜなら、AIは人間性を高め、助けるべきだという観点から製品を構築しているからです」と語る。
オモハンドロの最近の研究の1つは、認知症に焦点を当てたものだ。高齢者の3人に1人はアルツハイマー病で亡くなると言われているが、介護の費用がとても高価であるにもかかわらず、アメリカ政府のサポートは充分ではないという。社会の高齢化が進めば、認知症は今よりも大きな問題になる。課題先進国である日本では、それはより間近に迫った問題だろう。
「AIブレインでは、特に拡張知能に興味を持っています。わたしたちは、認知症の人が記憶力を高めるのにAIが役立つのではないかと考えているんです。AIエージェントによって、患者が退屈したり不安になったりすることなく、彼/彼女らをサポートすることができるでしょう。あるいは自閉症患者は感情をうまくコントロールするためにAIを使うかもしれない。これは社会のためにもいいですし、ビジネスチャンスとしても優れているように思えます。興味深いのは、認知症患者には独自の世界がそこにあること。彼/彼女らはわたしたちとは異なる世界をもっていて、物事を覚えていないこともあったり、新しい物語をつくりあげたりしている。AIは彼らのそのような生活を手助けできるはずです。AIは無限の忍耐力を持つことができるので、それぞれ患者のニーズに適応することができます」
オモハンドロは同時に、教育の事例を挙げる。子供はひとりひとり、成長のあり方が異なる。
「AIは、その人にとってのモデルを人間の教師よりも効果的につくれます。人生のあらゆるフェーズで、AIは個人の幸福に貢献できる可能性があるわけです。このようなシステムが、年齢や障害にかかわらず、人間のクオリティ・オブ・ライフを高めることができるはずです」