じじぃの「科学・芸術_980_マレーナ&グレタ『グレタたったひとりのストライキ』」

Greta Thunberg Family Video - With Parents | Time Person of the Year

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=uoEXJ-d5a-c

Greta Thunberg Family


文藝春秋』 2019年12月号

BOOK倶楽部 どちらが「変」なのか? グレタ たったひとりのストライキ 【評者】池上彰 より

今年9月、国連で開催された気候行動サミットで演説したスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリ。16歳の少女は、居並ぶ各国代表を前に
「あなたたちが話しているのは、お金と経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。よくもそんなことが言えますね!」
と温暖化対策を急ぐように求めました。これ以降、とりわけEU諸国は温暖化対策を真剣に考え始めました。ひとりの少女が世界を動かしたのです。
この本は、グレタの両親と妹の4人が著作者。文章の多くはグレタの母親が書いていますが、グレタ本人の文章や、彼女が各地で行った演説の文章も収録されています。
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彼女の行動には賛否両論があります。日本では否定的な論調が多いようです。「子どもはストライキなんかしないで学校に行って勉強しろ」というわけです。
彼女には発達障害があり、アスペルガー症候群と診断されています。この本でも、このことが詳細に語られているのですが、「変わった子が極端なことを言っている」と受け止める人もいるようです。
彼女が国連で演説した際、温暖化を否定するトランプ大統領寄りのテレビ局FOXニュースの番組に出演したコメンテーターは、彼女を「精神的に病んでいる」と批判。テレビ局は謝罪に追い込まれました。
グレタの発作が最初に起きたのは5年前でした。拒食症の症状が出て、何も食べられなくなります。体重が急激に減少します。
自閉症の症状も出て、他人とコミュニケーションができなくなります。そのきっかけは、母親に言わせると、学校でプラスチックゴミによる海洋汚染のドキュメント映画を見たことだといいます。感受性が強い彼女は激しいショックを受けたのです。
ここからグレタ家の”戦い”が始まります。グレタの”病気”治療の戦いと地球環境を守るための戦いです。

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『グレタ たったひとりのストライキ

マレーナ・エルンマン、グレタ・トゥーンベリ/著, 羽根由/訳 海と月社 2019年発行

真実を知って未来をひらく より

「みんなと違う」は素晴らしい!

私は現実的なことはなにひとつできない。どうしようもない人間だ。
20歳のとき、パンにプラスチックの蓋(ふた)をかぶせてオーブンで温めようとしたことがある。インターネットバンクにログインできないので、請求書の支払いもできない。長い「やることリスト」を書いておかないと、とんでもないことになってしまう。すぐに、やらずにはいられないことに没頭してしまうからだ。歌手になっていなければ、私はただの役立たずだっただろう。
現代社会では、広く浅く知っていることを求められる。おまけに社交的でなかればならない。研究者レベルの知識を持っていたとしても、口頭でうまく説明できなければ、中学校すら卒業させてもらえないかもしれない。
こんな世の中では、ある特定の分野に秀(ひい)でていても、自分が興味を持てないことをする能力に欠けている人はどうなるのか? 生まれつきシャイな性格の人はどうなるのか? 人前で話すと体調が悪くなる人、ソーシャルスキルを欠く人はどうなるのか?
多数派と違いすぎる人は、学校でも生き残れないし、繊細さや聞く力や共感が必要な仕事にも就けないだろう。
私たちは大切なものを機器にさらしていなだろうか。自分が自分であることは芸術の基礎だ。芸樹がなければ、人も社会もじわじわと、粉々に壊れてしまうだろう。
だから、私たちは変えなくてはならない。

「スター」が未来を書き換える

いつか、私たちが地上から消えるときが来るだろう。
子どもたちも孫もそのまた子どもたちも、ここにいなくなるときが来るだろう。
どんなに重要な人物であっても、あいされていても、嫌われていても、遅かれ早かれ誰もが忘却のかなたへ旅立つ。そう考えるとつらくなる。最終的に重要なのは私たちの体験や善行や人道的行為だけではないことに気づくと、もっとつらくなる。私たちが受けた健全で人道的な教育には、エコロジカル・フットプリントが欠けていたとわかって……。
私たちが消え失せ、忘れられるときがきっと来るだろう。私たちの痕跡として残るのは、あらゆるところにある温室効果ガスふだけ。知ってか知らずか、私たちが大気中にまき散らしつづけたものだ。出勤途中で、大型スーパーマーケットの中で、H&Mの店内で、あるいは、テレビ出演のために東京に行く途中で。
ある種の温室効果ガスは、上空を何千年も浮遊するだろう。また、ある種の温室効果ガスは、草木に吸収されるだろう。ある種の温室効果ガスは、まだ発明されていない新たな装置や画期的理論を使って、回収され地中に埋められるかもしれない。
ひょっとしたら、海洋掃除機がもう発明されているかもしれない。二酸化炭素をたっぷり吸いこんだ海の水をきれいにする、夢のような機械。これはどうしても必要だといわれている。二酸化炭素排出の40パーセントは海に吸収され、海洋酸性化を引き起こすからだ。海洋酸性化は、地球上空の空気層で生じる温室効果よりはるかに危険だとされている。
新技術があれば、私たちは生きのびることができるだろう――だが、それはきっと私たちの想像とは違う方法のはずだ。なぜなら、私たちが残した生態系への足跡から生きのびられる人は、ごく限られているだろうから。
もし、この話があまりにも重くて絶望的だと感じるのなら、覚えておいてほしい。未来地図を描きはじめるのに必要なのは、たったひとりの卓越したスターなのだと。有名人の影響力については議論があるが、現状ではそれしか可能性はなさそうだ。私たちには時間がない。現代のような「つながる世界」の利点は、たったひとりのスーパースターがゼロ排出を目指して奮闘すりことで、状況が大きく変わっていくところにある。そのスターが、完全菜食主義(ヴィーガニズム)、飛行機の拒否、屋上の太陽電池など、考えられることはあるという印象を与えることで。
システムは個人では変えられない。だが、たったひとりの声でも、大きな運動につながる連鎖反応を起こすことは可能なのだ――もしその声が十分強いのなら。