じじぃの「科学・芸術_964_アイルランド・ケルティック・タイガー」

アイルランドを知るための70章』

海老島均、山下理恵子/編著 赤石書店 2004年発行

好景気にわいた時代 「ケルティック・タイガー」とは何であったのか より

1994年8月、当時世界的大投資銀行だったモルガン・スタンレー社の情報誌にアイルランド経済についての論文が載った(アイルランド経済――アルティック・タイガ)。筆者はケヴィン・ガーディナーという社員だった。この当時は「東アジアの虎」と呼ばれた新興工業国シンガポール、香港、台湾、韓国が世界の注目を集めていた。1980年代後半から1990年代前半にかけてこれらの国々が急成長したのである。それよりも勢いの強い急成長をする虎がヨーロッパに現れた。それはアイルランドである、と彼は紹介した。ケルトに虎はいないのになぜだなどと難癖をつける人もいたが、経済の躍進をうまく表現しているため「未曾有の好景気にわくアイルランド」を意味する語として以来広く用いられるようになった。
これがどれほど広く、また重要なものとして使われたか、その例をあげてみたい。たとえb歴史年表がある。2003年に刊行されたあるアイルランドの年表は氷河期の終わりからはじまっているが、1995年の記述は「共和国における空前の好景気――アルティック・タイガー――はじまる。2001年までつつく」とだけである。この年にはほかに何の事件もなかったかのごとくである。
同じく2003年に刊行された浩瀚アイルランド百科事典にも早くも”Celtic Tiger”という項目があり次のように解説している。
 「1987年からアイルランド共和国の経済は「良循環」に入り、急成長、低インフレ、失業減少、国際収支黒字が持続的な高度成長をもたらしている。1990年代を通してアイルランドの成長率は欧州連合EU)加盟15ヵ国および経済協力機構(OECD)加盟国29ヵ国のなかでもっとも高く、かの4つのアジアの”虎”経済の1997~98年の崩壊以前の成長律をも凌駕している。そのような高成長率は不平等の増大という犠牲の上に達成されていると批評家たちはいうが、海外の解説者、分析家そしてとくにアイルランドのメディアはアイルランドをヨーロッパの”ケルティック・タイガー”経済と呼び、EUのほとんどすべての経済分野をリードしているとみている」
このテーマを扱った経済書はもちろんたtくさんある。ここで別の種類の例をあげたのは「ケルティック・タイガー」という言葉がどれほど早くまた広い範囲で周知のものとして使われていたかをみるためである。
次のような解説も多くみられる。
10年の間にアイルランドは西ヨーロッパ最貧国の1つからもっとも繁栄する経済へと変貌し、優秀な人事の絶えざる流出が止まり知識産業社会になった。この成功をもたらしたのは、世界市場への経済開放、低率課税、そして教育への投資である。
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さらに、EU加盟国としての利点がある。加盟当初最貧国であったため、社会資本の充実、インフラ整備に多額の補助を受けた。また、ユーロを流通させているアイルランドにとって、EUは全体として1つの国内市場である。これはアイルランドを拠点とする外国企業にとっても同じであるから、EU以外の外国企業にとっては非常な利点になる。多国籍企業にとって法人税の低さはとくに魅力的である。法人税の高い国の同系統企業から佑仕入れてアイルランドで製造販売すれば、納める税ははるかに少なくなる。実際にそのような疑いをもたれる取引が行なわれているらしい。
最後に、皮肉なことだが、アイルランドは英語国であり、これが海外資本、とりわけ米国資本にとっては(日本企業にとっても)非常な利点になっている。