じじぃの「科学・芸術_901_チリ・アルマ望遠鏡(ALMA)」

Why ALMA? 第4回『アルマ望遠鏡は、タイムマシン』

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=NNG4dfwSwoY

特集・最新情報 - 観測成果 - アルマ望遠鏡

2019.09.10
●135億年前の星形成の痕跡を発見! ~最遠の「老けた銀河」探査~
宇宙で最初の銀河の探求は現代天文学の重要なテーマです。これまでにビッグバンから5億年後(約133億光年の距離)の銀河まで発見されました。
https://alma-telescope.jp/posttag/alma-discoveries?post_type=post

『チリを知るための60章』

細野昭雄、工藤章、桑山幹夫/編著 赤石書店 2019年発行

アンデスの巨大電波望遠鏡ALMA) より

チリ北部のアタカマ高地は、観測天文学者にとっての聖地である。
私(坂本成一)が初めてこの地に足を踏み入れたのは1994年のことだ。当時東京大学の博士研究員であった私は、学位研究のために行った北天の天の川の広域な電波観測を南天にも拡張しようと考えていた。そこで、日本で用いていた広域観測宣揚の小型電波望遠鏡の2号機をヨーロッパ南天天文台(ESO)のラ・シャ観測所内に設置させてもらうべく、共同研究者とともに当地に乗り込んだのだった。
初めて見るアタカマの空は、東京生まれの私に鮮烈な印象を残した。日中の空は澄み切った青。それが日が落ちるにつれて7色に表情を変え、薄明が収まると頭上には壮大な天の川が現れた。目が慣れてくると、人工の明かりのない観測所の中でも、星明かりで歩くことができた。吸いこまれそうに深い星空を見上げながら、宇宙の中の地球、そして自分を感じた。
アタカマ高地が天体観測に適しているのには理由がある。東にそびえるアンデス山脈は急峻で、アマゾンからの湿った空気はその東麓に雨を降らし、山を越えるころには乾燥する。西に広がる太平洋の沿岸にはフンボルト海流が南極から冷たい水を運び、雨を降らすための上昇気流を発生させない。この結果、世界でも最も乾燥した地域が生まれた。
晴天率が高く、乾燥し、かつ標高の高いこの地は、天体から届く光の観測だけでなく、水蒸気に吸収されやすい電波や赤外線の観測にも適している。高い標高にもかかわらず比較的平坦であることや、比較的安定した治安、優秀な現地労働力の入手性、そして関税免除をはじめとする政府の便宜供与などがこの地を望遠鏡銀座へと変えてきた。いまや、世界最大の電波望遠鏡であるALMA(アルマ)をはじめ、口径8メートルの光学望遠鏡4基を擁するESOパラナル観測所、ESOラ・シャ観測所、カーネギー研究所のラス・カンパナス天文台、米国国立光学天文台(NOAO)のセロ・トロロ汎用天文台など、世界有数の観測所がこの地域に集結している。
ここでALMAについて改めて説明しよう。これはアタカマ高地にある世界最大の電波望遠鏡である。とはいえ1つの巨大なアンテナではなく、直径12メートルのアンテナ50基とアタカマコンパクトアレイ(別名モリタアレイ)と呼ばれる直径7メートルのアンテナ12基と直径12メートルのアンテナ4基からなるシステムを組み合わせ、1つの電波望遠鏡システムとして運用するものである。建設と運用には、日本を中心とする東アジアと、北アメリカ、ヨーロッパ等が協力して当っている。
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2003年に建設を開始したALMAは、2013年に本格運用を開始し、開所式典を挙行した。得られた科学成果は期待通りのものであった。宇宙が生まれて間もない時期の「宇宙の再電離」のしくみや、銀河の衝突合体のメカニズム、銀河の中心に潜む超巨大ブラックホール、惑星の誕生現場の詳細構造などに迫る目覚ましい成果が挙がり、ほぼ毎日のように報道等でも取り上げられている。しかしこれらの期待された成果がALMAのすべてではない。このような大型装置の常として、まったく予想していなかったような大発見がこれからもたらされるに違いない。