The Story of Jesus - Japanese Language イエスの物語 (日本語版) (Japan, Worldwide)
Jesus & Bible
『図説 世界史を変えた50の指導者』
チャールズ・フィリップス/著、月谷真紀/訳 原書房 2016年発行
ナザレのイエス 聖書に登場するカリスマ指導者 より
ユダヤ教の教師、ナザレのイエスは強いカリスマ性とすぐれたコミュニケーション能力、知的探求心と深い共感力をかねそなえていた。弟子たちから信望を集め、弱者や貧しい人々、社会から見すてられた人々の味方として知られた。
イエスは活動をはじめた当初、旅の説教師だった。最初の弟子たちは家族と生計の手段となる仕事をすてさせ、従わせた。聖書の「マタイによる福音書」と「マルコによる福音書」によれば、イエスはガリラヤ湖(現在のイスラエル東北部)のほとりを歩いているとき、シモンとアンデレというふたりの漁師が網を打っているのに出会う。イエスは言った。「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」(「マタイによる福音書」4・19)。ふたりはすぐに仕事の道具である網をすててイエスに従った。
イエスのカリスマ性はその生涯の物語の随所に現れる。物語によれば、彼は人々と強く親密に心をかよわせることができた。志を同じくする人々だけでなく思想的に反対の立場をとる人々とも、一対一あるいは少人数に対してだけでなく大群衆に演説しているときも、それは変わらなかった。
イエスは実在したか
イエスが実在したという考古学上の、あるいは物理的な証拠は現存していないが、彼が紀元前6年頃から紀元27年頃まで生き、洗礼者ヨハネの名で知られる人物から洗礼を受け、ポンティウス・ピラトがローマ帝国のユダヤ属州総督だった紀元26~36年までのあいだにエルサレムで十字架にかけられたことは、歴史家たちのあいだでおおむね認められている。
クルアーン(コーラン)やタルムード[ユダヤ教の聖典]をのぞけば、キリスト教とは無関係の文書でイエスに言及しているものはわずか3つしかない。ふたつはユダヤ人歴史家のヨセフスの著作、ひとつは古代ローマの歴史家タキトゥスの著作である。初期のキリスト教についてふれているくだりで、タキトゥスは「[ローマ皇帝]ティベリウスの統治時代に、われらが同胞の行政長官ポンティウス・ピラトによって極刑に処されたクリストゥス」の名を記している。
共感型の指導者
イエスは教えのなかでくりかえし、隣人への愛と理解を強調した。マルコによる福音書によれば、イエスはよき人生のためのいましめとしてとくに大切なふたつのいましめを説いている。第一のいましめは「心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」(「マルコによる福音書12・30」)、第二が「隣人を自分のように愛しなさい」(「マルコによる福音書12・31」)だった。
イエスが説いた無私の愛は、その後何世代にもわたるキリスト教徒たちを動かした。そのひとりがタルソスのサウルで、ローマ市民だった彼はキリスト教に改宗すると初期のキリスト教会を多数創設した。使徒パウロの名で知られる彼は、イエスを生き方の手本と考えた。地上での生の最後にイエスは裏切られてエルサレムの当局に引き渡され、十字架にかけられたが、3日後に死からよみがえり弟子たちの前に姿を現した、とパウロは信じており、それがパウロのイエス観の中核をなしていた。
イエスの業績を見れば、彼のもっとも突出した影響力ある資質はつきつめれば意志の強さであることがわかるだろう。自分の運命と悟っていたと思われる生き方をつらぬこう――布教のために家とこの世の財産をすべてすて、地上の生をすてて肉体の死を果敢に受け入れる――とする意志。信徒たちがローマ帝国の迫害にあいながら新しい宗教を確立する原動力となったたぐいまれな業績、そして教えの影響力の広範さと永続性によって、イエスは人類史においてきわめて重要な人物、指導者としてもすばらしい模範になっている。