Cosmic Inflation Explained
Are The Beginning And End Of The Universe Connected?
『数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて』
マックス・テグマーク/著、谷本真幸/訳 講談社 2016年発行
私たちの宇宙の起源 より
もちろん、アラン・グースの業績はこの賞だけではない。1980年頃、彼は物理学学者のロバート・ディッケから、アレクサンドル・フリードマンのビッグバンモデルには宇宙の最も初期に関して深刻な問題があることを学び、大胆な解決策を提唱したのである。彼はそれを「インフレーション」と呼んだ。前の2つの章で見たように、ビッグバンモデルは多くの観測事実を説明することに成功した。具体的には、膨張宇宙を記述するフリードマン方程式を過去に遡って大胆に適用することで、遠方の銀河が私たちから遠ざかっている理由、宇宙背景放射が存在する理由、水素やヘリウムなどの軽い元素が最初にできた仕組みなどを、正確に説明できたのだ。
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この観測者にとって、空間はその後もずっと無限大だ。たとえば、この観測者が宇宙がわずか40万歳だった頃の写真――宇宙背景放射の写真――を撮ったとすると、得られた画像は、図中の「宇宙が晴れ上がる面」(プラズマ中の陽子と電子が結合して透明な見えない水素原子に変化する面)に対応している。図から分かるように、これもU字型の無限大の面なので、観測者から見ると40万歳の宇宙もやはり無限大である。さらに、CとDはいずれも銀河が最初に形成される面(やはりU字型)上にあるので、CとDもこの観測者かた見ると同様である、等々。(A、B、C、Dはインフレーションのときの事象)
これらU字型の面を内部に無限個積み上げていくことができるため、この観測者からは、空間も(未来向きの)時間も無限に続いているように見えるのである。しかもそれでいて、この領域の外の観測者から見ると、最初は原子よりも小さい領域にすべてきちんと収まっていたわけだ。
領域の内部で空間が膨張するという事実は、その領域が外の領域を奪ってしまうことを必ずしも意味しない。実際、前にも説明したように、アインシュタインの理論では空間は膨張でき、他の場所から体積をとってこなくても堆積を増やすことができる。この無限大の宇宙は事実上、外部からは、原子より小さなブラックホールのように見えるかもしれない。実際、アラン・グースらは、この手品を自分で実際にやってみる可能性――についての研究さえしている。これが本当に可能かどうかについては、まだ明確な結論は出ていない。あなたに創造主になりたい欲求があるなら、ブライアン・グリーンの著書『隠れていた宇宙』第10章の最初の節「宇宙を創造する」を読むことを強くお勧めする。
本章ではインフレーションの議論を始めるにあたって、古典的なビッグバンモデルでは満足が得られない基本的な問題がいくつかある、ということを指摘した。そこで本章の締めくくりとして、インフレーションがそれらの問題に結局どのような答えを与えたかを振り返っておくことにしよう。
Q:ビッグバンはどのような仕組みで起きたのか?
A:最初に原子より小さい、インフレーションを引き起こす物質があり、それが、一定時間ごとに倍加する爆発的増加(指数関数的増加)を経ることで起きた。
Q:ビッグバンは1点で起きたのか?
A:それに近い。ビッグバンは原子よりもはるかに小さい空間領域で起きた。
Q:空間のどこでビッグバンの爆発は起きたのか?
A:その小さな領域で起きた。しかしまず、インフレーションによってそれがグレープフルーツ大に引き伸ばされた。そのときの膨張速度は非常に速かったので、その後も惰性で膨脹を続け、私たちが今日見ることのできる空間領域より大きくなった。
Q:無限大の空間が有限の時間にどうやって作られるのか?
A:インフレーションが永久に続く領域があることで、インフレーションが終った空間も永久に増大する。そこには銀河が無限個作られる。一般相対性理論によると、それらの銀河の1つに住む観測者は空間と時間を外部とは異なる仕方で認識し、「空間はインフレーションが終った時点ですでに無限大だった」と認識する。
このように私たちの宇宙の起源についての理解は、インフレーションによって根本的に変わった。フリードマンのビッグバンモデルで満足な答えが得られなかった疑問は、インフレーションという”ほとんど無の状態からビッグバンを作り出すことのできる単純な仕組み”によって答えが与えられることになった。さらにインフレーションは、求めた以上のものを与えてくれた。空間は単にとてつもなく広いのではなく、本当に無限大なのだ。そしてそこには、銀河、星、惑星が無限個存在する。