じじぃの「科学・芸術_859_人類宇宙に住む・恒星間旅行」

Interstellar Travel - Documentary HD #Advexon

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=c_BcZB26xYI

interstellar travel

『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』

ミチオ・カク/著、斉藤隆央/訳 NHK出版 2019年発行

不死 より

地球にそっくりの惑星が、宇宙に見つかったとしよう。そこには、酸素と窒素を主成分とする大気、液体の氷、岩石質のコアがあり、サイズはほぼ地球とほぼ等しい。人類の移住先として理想的な候補のようだ。ところがこの惑星は、地球から100光年離れている。つまり、核融合反物質で推進するスターシップでも、そこへ行くのは200年かかるのだ。
1世代がおよそ20年だとしたら、これは、10世代の人間がスターシップで生まれ、それ以外の故郷を知らずに生きることを意味する。
気が遠くなるような話かもしれないが、中世の偉大な建築家が、死ぬまでに自分の作品の完成を見られないと知りつつ大聖堂を設計していたのを思い出してほしい。聖堂の完成を祝うのは孫たちかもしれないと彼らにはわかっていた。
あるいは、人類が新たな住みかを求めて7万5000年ほど前にアフリカを出たとき、彼らはその旅を終えるのに何世代もかかりそうなことに気づいていたはずだ。
だから、何世代にもわたって旅をするという考えは、ことさら新しいものではない。
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映画『2001年宇宙の旅』で宇宙飛行士たちは、巨大な宇宙船で木星へはるばる旅をするあいだ、ポッドで冷凍冬眠に入っている。身体機能は停止しているので、世代間宇宙船に付きものの難題とは無縁だ。乗客は冷凍されているため、ミッションの設計者は、物質が大量に消費だれる問題や人口を一定に保つ手段について案じる必要がない。
しかし、これは本当に可能なのだろうか?
冬に北国で暮らしたことがある人なら、氷に閉じ込められてカチカチに凍った魚やカエルが、春になり氷が解けると、何事もなかったかのように現れるのを知っている。
われわれはふつう、こうした動物は凍る過程で死ぬものだと考える。血液の温度を下げると、細胞の内外に氷の結晶ができて大きくなり、やがて内側から細胞膜を破裂させたり、外部から細胞を押しつぶしたりするおそれもある。母なる自然は、この問題を単なる手段で解決する。不凍液だ。冬のあいだ、氷の凝固点を下げるために、車のラジエーターによく不凍液を入れる。これと同じように、自然界はブドウ糖を不凍液の役目を果たすものとして用い、血液の凝固点を下げている。つまり、動物が氷のかたまりに閉じ込められていても、血管のなかの血液はまだ液体で、基本的な身体機能を保てるのだ。
人間の場合、体内でブドウ糖がこれほど高濃度になるのは危険で、死んでしまうおそれがある。そこで科学者は、別の化学物質の不凍液で、ガラス化というプロセスを試している。これは、複数の化学物質を混ぜて凝固点を下げ、氷の結晶ができないようにする手法だ。興味深いように思えるが、結果は今のところ芳しくない。ガラス化には、往々にして有害な副作用がある。実験で使われる化学物質の多くは有毒で、なかには致死性のものもあるのだ。現在のところ、冷凍されたあとに解凍され、生きてその体験を語った人はいない。したがって、きちんんと仮死状態を実現できるのは、まだだいぶ先の話だ(それでも起業家は、死を免れる手段として早くもこれを宣伝している。彼らが言うには、不治の病を患っている人は、高い料金を払えば自分の体を冷凍してもらい、数十年後、その病気が治せるようになってから蘇生してもらうことができるのだという。だが、この手法がうまくいくと実験で証明されたことは一度もない)。科学者は、いずれこうした技術的な問題は解決できると期待している。
したがって理論上、仮死状態は、長旅にかかわる問題の多くを解決するのに最適な手段なのかもしれない。今は現実的な選択肢ではないが、将来は恒星間のミッションを生き抜く重要な手段となる可能性がある。
しかし、仮死状態にはひとつ問題がある。小天体の衝突のような予期せぬ緊急事態が起きたら、人間が損傷を修復しなければならないこともあろう。ロボットが起動して一次修理はするかもしれないが、事態が深刻なら、人間の経験と判断が必要になる。すると、技術者の一部を蘇生せざるをえない場合もあるわけだが、蘇生に時間がかかりすぎ、人間の介入がすぐに求められるときには、この最終手段では命取りになるだろう。これが、仮死状態を利用した恒星間旅行の弱点なのである。技術者の小集団だ世代交代しながら冬眠せずに起きていて、旅のあいだずっと待機していないといけなくなる。