じじぃの「科学・芸術_812_骨髄移植・急性白血病」

池江璃花子 回復目指し転院…白血病名医で知られる有名病院へ

2019/04/09 女性自身
2月12日に白血病であることを告白した競泳・池江璃花子選手(18)。
闘病の日々を送る彼女だが、自身のSNSは1ヵ月更新がストップ。彼女の病状を心配する声が相次いでいる。
つらい闘病生活のなか、池江選手は前を向き続けている。3月13日に更新したツイッターでは次のように決意表明していた。
東京オリンピックまで499日 1日遅れちゃった まだまだ諦めないぞー!!》
奇跡の復活を目指して、彼女の闘病は続く――。
https://jisin.jp/sport/1726828/

『医の希望』

齋藤英彦/著 岩波新書 2019年発行

社会と共生し、希望を与える医療 より

骨髄移植は臓器移植と対照的に、多くの人びとの努力が積み重ねって、日本で着実に普及してきました。いまや、社会と共生する医療システムになっています。
骨髄移植はまず1970年代の初めに、アメリカのシアトルにいたエドワード・ドナル・トーマス博士が確立しました。日本では、少しあとの1970年代半ばに名古屋大学と金沢大学で始まりました。1975年に血縁者間の骨髄移植が行われ、1982年には骨髄移植に健康保険が適用されました。その同じ年に、日本で最初の非血縁者間の骨髄移植が名古屋大学で行われました。
そのころから、自分の子どもが白血病になったお母さんたちが子どものため、ヒト白血球抗原(HLA)が適合した骨髄提供者(ドナー)を集めようとして、友だちや知人に呼び掛けて「〇〇ちゃんを救う会」が全国でできました。
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骨髄移植の対象疾患は急性白血病や重症再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、先天性代謝異常症などです。いまや、これら血液の重い病気の患者にとって、命を救う可能性のある治療法の選択肢になっています。患者は毎年、約2300人が骨髄移植を希望して登録します。そのうち、1200~1300人が移植に至ります。
造血幹細胞移植には、ドナーとレシピエントのHLAの型を合わせる必要があります。
血縁者間でHLA適合ドナーが見つからない患者は、約7割います。非血縁者間で適合することは非常にまれということで、社会システムとして骨髄バンク、さい帯血バンクができました。骨髄バンクのドナー登録者は徐々に増えて、48万人を超えています。
日本人のHLAは似ており、現在は少なくとも日本人の96%の患者に、HLAが適合するドナーは見つかります。ところがいろいろな人種がいるアメリカだと、多分その10倍くらい登録者がいないとだめなのです。アメリカの骨髄バンクドナー登録者は800万人を超えています。そのため日本では、アメリカよりも骨髄バンクは小規模で機能します。
問題は、骨髄移植にまでたどり着く患者の割合が、適合するドナーの見つかった人の5割にとどまっていることです。理由は、非血縁者間の移植医療はあくまでも、善意で自主的に提供していただくもので、強制はできないからです。
患者が移植を希望する時期に1人でも多くの移植の機会が得られるように、日赤にあるコンピュータでHLAが合うドナー候補を探します。毎年、移植を希望する患者2300人に対して2万数千人のドナーが適合します。ここから骨髄バンクの仲介業務(コーディネーション)が始まります。
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日本の骨髄バンクはドナー登録者が増えて、数としては成熟してきました。しかし、骨髄移植の数は2009年から、月約100例、年間1200~1300件で横ばいです。その理由は、さい帯血移植が出てきたのと、HLAが半分合ったハプロ移植(両親やきょうだいからの移植)の技術が進むことで成績が上がってきたからです。症状が急激に進み、骨髄バンクで4ヵ月待てない場合は、親子間のハプロ移植に切り替えていきます。
さらに、白血病の新薬が出てきました。昔は移植でしか助からなかった慢性骨髄白血病は治療薬のグリベックが登場して、移植が必要なくなりました。これも移植数の横ばいの一因になっています。
HLAが適合したドナーから、必要な患者に移植するまでかかる期間をコーディネーション期間と呼びます。これを短くするのが長年の課題です。骨髄移植の最終ドナーが決まってから、病院で移植できるまで70日以上かかります。また、骨髄移植チームのマンパワーは地域差があります。東北や北海道では、血液内科医が少なく、骨髄採取の際の全身麻酔に必要な麻酔科医も少ないのです。
ドナーの骨髄採取の安全性は、常に最優先しています。