じじぃの「科学・芸術_626_宇宙の時空構造・余剰次元」

Multiverse: One Universe or Many? 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=aUW7patpm9s
 Brane new worlds

宇宙の扉をノックする NHK出版
1964年にピーター・ヒッグスが提唱した“神の粒子”ともよばれる素粒子ヒッグス粒子」の存在が、2013年10月、ついに確定されました。
それにより、138億年前の宇宙の進化の最初期 ――ビッグバンのおよそ1兆分の1秒後 ―― に起こった相互作用が明らかになり、私たちの起源がついに証明されたのです。そして、2013年の自然科学部門のノーベル賞は「ヒッグス粒子」を選定、物理学賞はこの「ヒッグス粒子」の存在を予言したイギリス・エディンバラ大学名誉教授のピーター・ヒッグス氏(84)とベルギー・ブリュッセル自由大学名誉教授のフランソワ・アングレール氏(80)に贈られました。理論提唱から半世紀を経たいま、物理学は新たな大発見で沸いています。
世界のトップ理論物理学者として「ワープする余剰次元」理論を提唱するリサ・ランドール博士もこのヒッグス発見を待ち望んでいた一人。
http://pr.nhk-book.co.jp/lisa/
『宇宙の扉をノックする』 リサ・ランドール/著、向山信治、塩原通緒/訳 NHK出版 2013年発行
世界の次のトップモデル より
私たちが新しい理解を生み、新しい知識を創造するのに、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)はまたとない機会を与えてくれる。これまでずっと考えてきた深い疑問の答えがまもなくわかるのではないかと、素粒子物理学者は心から期待している。なぜ粒子はその質量を持っているのか? ダークマターは何でできているのか? 余剰次元は階層性問題を解決するのか? また別の時空の対称性が関わってくるのか? それともまったく見たことのない何かが働いているのか?
提案されている答えのなかには、超対称性、テクニカラー余剰次元といった名前のモデルがある。実際の答えは予想されているどんなものとも違っているのかもしれないが、少なくともモデルは私たちに、探すべき具体的なターゲットを与えてくれる。この章では、階層性問題に取り込んでいる候補のモデルのいくつかを紹介しよう。
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私たちが知っているもの以外に別の空間時限があるというのは、なんとも奇妙な考えだ。もし宇宙にそのような次元があるのなら、空間は、私たちの日々の生活で見えているものとはまったく違ってくるだろう。左右・上下・前後、あるいは経度・緯度・高度という3つの次元に加えて、誰も見たことのない方向へも空間は広がっているということになる。
明らかに、そんなものは私たちには見えていないので、その新しい空間次元は隠されているに違いない。たとえばその次元が小さすぎて、私たちの目に見えるどんなものにも直接的に影響を及ぼせないとしたら、それは隠されているといえるだろう。これが1926年に物理学者のオスカー・クラインが提案したことだ。人間の分解能はひどく限られているから、あまりに小さすぎる次元であれば識別できない。もしも次元が巻き上げられていて、そこを自分が通過できないすれば、私たちはその次元があることにも気づかない。ちょうど綱渡りしている人間が、自分の歩く道を1次元だと思うのに対し、綱の上にいるアリは、そこを2次元だと思うのと同じである。
もうひとつの可能性として、別の次元が隠されているのは、時空が歪曲しているからだとも考えられる。エネルギーがあるところではそうなるとアインシュタインが教えたようにだ。もし、その歪曲があまりにもひどければ、別次元の効果は見えにくくなる――私とラマン・サンドラムは1999年に結論づけた。つまりワープ(歪曲)した幾何も、次元が隠される原因のひとつとなりうるのだ。
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ワープした幾何では、私たちの感じる重力は弱いが、それは重力が大きな余剰次元に広がって薄められているからではなくて、私たちのいるところとは違うどこか、つまりもう片方のブレーンに、重力が集中しているからである。私たちの感じる重力は、余剰次元世界の別の領域ではとても強い力のように感じられるものの尻尾としてしか、あらわれてきていないのだ。
私たちが別のブレーン上の別の宇宙を見ることはかなわない。私たちとその宇宙とで共有されている力は重力しかないからで、その重力は私たちの近傍では弱すぎるため、容易に観測できるようなシグナルが伝えられないのだ。実際、このシナリオは「マルチバース」(多元宇宙)の1例と考えることができる。マルチバースでは、私たちの世界を構成している要素は別の世界の要素とは非常に弱くしか相互作用せず、場合によってはまったく相互作用しない。こうした推論はだいたいにおいて検証が不可能で、永遠に想像の域からで出ることがない。結局のところ、宇宙の一生のあいだに私たちのもとに光が到達しないぐらい離れたところに存在している物質であれば、そんなものはとうてい検出できない。ラマンと私が提案した「マルチバース」シナリオは、共有されている重力が実験的に検証できる帰結を導くという点で、特異なものである。私たちが別の宇宙に直接アクセスすることはない。しかし、高次元バルクを移動する粒子が私たちのもとにやってくることはありえるのだ。