じじぃの「科学・芸術_583_紙の歴史・製法」

Do you know How Paper was Invented? Watch History of Paper to know more! 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=dT4FwLaYD6k
木材からの紙の製造方法

紙の歴史と製法
後漢蔡倫が、それ以前に使用されていた、甲骨、木簡、竹簡、さらに絹布に替わるものとして105年に紙を皇帝に献上したと後漢書に記録されているが、このときに利用した素材は魚網や、衣服ボロなどであったらしい。
紙の発明は、突然蔡倫によって発明されたというよりは、多くの試行錯誤による改良によるもので、かならずしも、紙の発明者を蔡倫として限定すべきではないという見解も多い。技術的ではないが、蔡倫の紙の発明については、井上靖:「紙の道」が興味深い。さらに近代製紙が始まったのは、ずっと遅れて19世紀のことで、ドイツのケラーが木材を利用する方法を開発したことに始まる。現代の機械製紙は下図のように、[パルプ]→[調成]→[抄紙]の流れで紙が製造される。パルプの原料はセルロースを含む植物繊維であり、一般には木材が使用されてきたが、近年ではパルプ原料の50%以上は古紙となっている。
http://www.mechatroidea.com/sekkei-seizu/s010-paper-01.html
『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』 ルイス・ダートネル/著、東郷えりか/訳 河出書房新社 2015年発行
筆記 より
紙は西暦100年ごろに中国で発明されたが、ヨーロッパまで伝わるのに1000年以上の歳月がかかった。だが、木材パルプからつくる現代の紙は、驚くほど近代になって導入された技術なのだ。19世紀末まで、紙は主としてぼろぼろになった亜麻布(リネン)の端切れをリサイクルして製造されていた。リネンは植物のアマの繊維から作られた布だが、繊維質の植物であれば原理上は紙にすることができる。アサ、イラサク、イグサなどの硬い草である。しかし、需要が増え、印刷機によって書籍や新聞が大量に発行されるようになると、ほかに適した線維がないか真剣に探し求められた。木材は確かに良質な製紙用繊維の優れた供給源となるが、太くて堅い木の幹を、どうすれば骨の折れる作業工程を経ずに、軟らかくて細い繊維からなるきめ細かドロドロのスープ状のものに変えられるだろうか?
紙をつくる繊維は非常に軽いが丈夫で、セルロースからできている。化学的にはこれはあらゆる植物で細胞同士を結ぶ主要な構造分子として機能する長鎖の化合物であり、とくに茎と脇芽に多く含まれている。セロリを噛んでいるとき歯のあいだに挟まるのが、セルロースの髄質の筋だ。しかしセルロースは、頑丈な木の幹や灌木のながでリグニンと呼ばれる別の構造分子によって補強されており、これがセルロース繊維を束ねて木にしている。木にはそれによって重みに耐える丈夫な柱となる中心部分と、太陽の前い枝を広げて葉をかざすための理想的な材料が与えられているわけだが、僕らにとってセルロース繊維は嘆かわしいほど手に入りにくいものとなっている。
従来は、植物繊維は幹や茎を押しつぶし、湿漬――数週間ほど淀んだ水に浸して微生物に繊維を分解し始めさせる――してから軟らかくなった茎を強く叩いて、猛烈な力でセルロース繊維をほぐしていた。幸いなことに、それよりずっと効率のよい製法にまっすぐ進むことで、多くの時間と労力を節約できる。
木材でセルロースとルグニンを結びつけているものは、加水分解という化学的切断プロセスに弱い。これは石鹸づくりで鹸化の際に使用するのと同じ分子操作で、まったく同じ方法でそれを達成できる。その目的のためにアルカリを集めることだ。木や植物で使える最良の部分は茎や幹、枝で、根や葉には必要なセルロース繊維はたくさん含まれていない。それらを細かく刻んでなるべく多くの表面積が溶液の作用にさらされるようにしてから、沸騰した苛性アルカリ溶液入りの容器に数時間浸す。これで重合体(ポリマー)の維持していた化学結合が崩れて、植物繊維はやわらかくなって分解する。苛性溶液はセルロースとリグニンのどちらも攻撃するが、リグニンのほうが早く加水分解するので、紙をつくるための貴重な線維を傷めることなく一方で、リグニンは劣化し溶解する。セルロースの短い繊維が、リグニンによって茶色くなったドロドロのスープの上に浮いてくるだろう。
第5章で見てきたアルカリ――カリ、ソーダ灰、石灰――はどれでも使えるが、歴史の大半を通して好まれてきたのは消石灰水酸化カルシウム)だった。消石灰なら石炭岩を熱することで大量に生成できるが、カリは木灰を水に浸けるため大量生産するのにかなり努力を要するためだ。しかし、ソーダの人工合成方法がわかれば、化学的パルプ化のために圧倒的に望ましい選択肢は苛性ソーダ水酸化ナトリウム)となり、これを使うことで加水分解は強力に推進される。パルプ化用の容器に消石灰と苛性ソーダを混ぜることで、この反応をしかに引き起こすのである。
回収されたセルロース繊維をうらごし器に集め、リグニンのくすんだ色がなくなるまで何度かすすぐ。できあがった紙の色を薄くしてきれいな白にしたければ、この時点でパルプを漂白する。次亜塩素酸カルシウムまたは次亜塩素酸ナトリウムはどちらも強力な漂白剤となり、塩素ガス(海水を電解して生成)をそれぞれ消石灰もしくは苛性ソーダと反応させることでつくることができる。この漂白効果の裏にある化学現象は酸化だ。色付きの化学物内の結びつきが崩れて分子が破壊されるか、色のない形態に変わるのである。漂白は製紙だけでなく、繊維生産にもきわめて重要なので、復興期に化学産業を拡大するための重要な原動力の1つとなるかもしれない。
このスープ状のセルロースを少量、目の細かい金網か四方を枠に固定した布のふるいの上に注ぎ、水が落ちてゆくにつれて線維がぐちゃぐちゃのマット状になるようにする。これを加圧して残っている水分を絞りだし、平らで滑らかなシート状の紙にしてから乾くのを待つ。