じじぃの「科学・芸術_555_日本の企業・伊藤忠商事」

近江商人の心得(oumi shouninn no kokoroe) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=k1llYqO7xyM

伊藤忠商事の社風を研究 Goodfind
伊藤忠商事の社長は、一昔前まではいわゆる大企業の社長という感じの人物が多かったのですが、1998年に丹羽宇一郎氏が社長に就任してからは、個性とスピード感が増す経営にシフトしていきました。
多額の負債を抱えていた業績も、2001年には当時最高の705億円の黒字を計上するまでに回復。「スキップ・ワン・ジェネレーション」として、次世代の社長をあえて一世代下の幹部から7人抜きで抜擢するなど、社風にも大きなインパクトをもたらしました。
https://www.goodfind.jp/articles/803
『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略 葉村真樹/著 ダイヤモンド社 2018年発行
存在価値のない企業は消え去るのみ より
実は、企業としての社会での存在価値の有無というものは、組織として、そこで働く人たちを動かす上でも大きな違いをもたらす。人間のモチベーションというのは、個々人の欲求をいかにコントロールするかにかかっており、それが高次なものであるほど、人はより高いモチベーションを維持しうる。
マズローの段階欲求説に基づくと、「自己超越」が最も高次の欲求に位置づけられているが、これは個々の自己を超えた存在に向けて奉仕を行いたいという欲求で、「目的の遂行・達成を純粋に求める」という領域であり、見返りを求めずエゴもなく、自我を忘れてただ目的のみに没頭し、何かの課題や使命、仕事に貢献している状態だという。
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ソフトバンクが誕生するはるか以前、前回の東京オリンピック(1964年開催)の頃から実に半世紀以上にわたって、男子大学生の人気ランキングのトップ10の常連と言えば、総合商社である。三菱商事三井物産住友商事伊藤忠商事、丸紅といった企業は、人気ランキングの他の顔ぶれが時代によって、重厚長大産業から電機メーカー、金融機関、マスコミ、広告会社などと変遷する中で、常に高い支持を得ている。
総合商社は「日本にしかない業態」ともいわれ、いわば「ラーメンからミサイルまで」、幅広い商品・サービスについての輸出入貿易および国内販売を業務の中心にしていた。言ってみれば幅広い商品・サービスを対象とした卸売業者に過ぎない。
しかし、貿易立国であることが国の経済成長の柱であった戦前、そして特に戦後の高度経済成長期の日本においては経済成長の牽引役であり、大学生にとっても花形的存在であったのは必然であった。
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大手総合商社の1つである伊藤忠商事は「事業活動を通じて社会の期待に応えていくことが、その持続可能性(サステナビリティ)を保ち、さらに成長につながる」と説いた上で、その考えは創業者の伊藤忠兵衛が事業の基盤としていた近江商人の経営哲学「三方良し」の精神につながるものとしている。
「三方良し」とは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の3つを指し、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのが良い商売であるという近江商人の心得を言ったものである。そして、3つめの「世間良し」=社会貢献に対する意識というのは、伊藤忠商事に限らず、総合商社が普遍的に持つ価値意識と言える。これには、総合商社の歴史的な背景も多分にあると考えられる。
総合商社、特に三菱商事三井物産といった財閥系商社は、第二次世界大戦前後を通じて、国の成長戦略に関わる国策的な役割を担い、国内産業を発展させていく機体を背負ってきた。それには、その時代時代の潜在的なニーズを掘り起こしつつ、国益に結びつく事業を展開していくことを求められるのだが、総合商社は愚直にそれを実践してきたのに過ぎないとも言える。
そうして考えると、マズローの段階的欲求説で言うところの「自己超越欲求」の実現、すなわち、社会貢献というミッションを掲げるというのは、何もシリコンバレー企業の専売特許ではないことがわかる。
近江商人の「三方良し」を事業基盤とする伊藤忠商事だけでなく、日本の戦前戦後の成長を支えた総合商社は何かしら社会の期待に応えているという矜持(きょうじ)を持っており、それが今なお、自らの存在価値を見失わないで隆盛を誇り続けられている原因と言えよう。
ところが、それぞれの総合商社がどのようなミッション・ステートメントを掲げているかを見てみると、先に見た東芝やキャノンにも似た「誰にでも当てはまる」ものとなっており、ミッション・ステートメントとして見るべきものは何もないのが現実である。
例えば「三方良し」を事業基盤とする伊藤忠商事は「Committed the Global Good:個人と社会を大切にし、未来に向かって豊かさを担う責任を果たしていきます」を企業理念とし、「三方良し」を言い換えたに過ぎない。
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それでも、何度も存亡の機に直面しながら、今なお総合商社が隆盛を誇っていられるのはて、そのようなお題目とは無関係に、時代の変化の中で自らの存在価値を自問しながら、自らの存在価値を時代に合わせて変革させていったという事実に負う部分が大きい。
そして、その結果として、総合商社は世界でも稀有な業態として彼らの存在価値を強固なものとし、現在の地位を保っていると言える。重要なものはミッション・ステートメントの存在ではなく、常に自らの存在価値を考えて事業を構築していくという姿勢と実践であることを、この総合商社の例は示している。