じじぃの「科学・芸術_536_ブラインドサッカー(視覚障害者サッカー)」

ブラインドサッカーasahi.com HPより)

音鳴る球、合図はポイ!…ブラインドサッカーのルール 2015年8月24日 朝日新聞デジタル
【ボールは音が鳴る】
 ボールの大きさはフットサルと同じ。転がると「シャカシャカ」と音が鳴り、アイマスクをした選手も位置がわかる。
【守備の合図はボイ!】
 選手は相手ボールを奪いに行く際、「ボイ」と声を出す。相手に存在を知らせて危険な衝突を避けるためのルールで、声を出さないと反則を取られる。
https://www.asahi.com/articles/ASH8S463JH8SUTTO006.html
『間違う力』 高野秀行/著 角川新書 2018年発行
てきとうでも「今、はじめる」ことが大事 より
「国際」とか「世界」と名がつくと、とたんに緊張してしまい、「ちゃんとせねば」と無理な一流志向に走るのが、私たち日本人の悪癖である。
アジアの人にはそれが希薄なわけだが、ヨーロッパの人もあまりないらしい。
10年ほど前、なぜか視覚障害者の行うサッカー、ブラインドサッカーに興味をもち、ときどき一緒に練習したり、海外遠征についていって半分取材、半分手伝いみたいなことをやっていた。
ギリシャ第2の都市テサロニキでブラインドサッカーの第1回世界クラブ選手権というものがひらかれた。
ブラインドサッカーは、当時は世界的にも歴史が新しかった。参加国も競技人口も少なかった。ワールドカップはすでに行われていたが、競技人口が極端に少ない国やまだ自前で資金や設備を調達できない国では、ナショナルチームが組めずワールドカップに出場することができない。そこで、国籍に関係なく参加できる国際大会を行おうということになったのだ。
しかし、現地に行ってみると、この大会はほんとうにいい加減なものだった。
テサロニキは有名な古代遺跡も少なければ風光明媚でもなく、まことに平凡で特徴のない地方都市である。外国人旅行者もおらず、英語もよく通じない。国際基準から程遠い。
会場もおそまつだった。更衣室が3つしかないのには呆れた。1つのコートで間断なく試合がおこなわれるため、試合を終えたチーム用に、2つとこれから試合をはじめるるチーム用にもう2つ、つまり計4つの更衣室がないと着替えができない。そんな基本的なことにも気づいていないのだ。おかげで、いつもあぶれたチームが外で着替えするはめになる。選手はみな、目が見えないから、不特定多数の人が入り交じる廊下や建物の軒先では、モノが見つからなくなったり、誰がどこにいるのかわからなくなったり、不便なことこの上ない。たいたい公共のスペースでパンツ1枚にならなければならない。
試合中も問題があった。
ブラインドサッカーは中に鈴の入ったボールを使う。鈴の音を頼りに選手が走る。だから、プレー中に、観客が声援を飛ばしたり拍手を送るのは厳禁である。鈴の音が聞こえなくなるからだ。以前、軽井沢で行われたワールドカップ前の日本代表の合宿は、「セミの音がうるさすぎる」という前代未聞の理由で中止となったという。音は命なのである。なのに、この会場の真横で、クレーン車が出て建設工事をガンガンやっている。
ブラインドサッカーがどういうものかまったく理解していない(全チームが抗議して翌日から工事は中止になった)。
また、ブラインドサッカー以外でも、同時に車椅子のバスケットボールなどほかの障害者競技も行われていたのだが、会場はちっともバリアフリーになっていない。段差だらけだ。
「日本じゃ、こんないい加減なこと、あり得ないよな」と日本人選手の一人が言ったが、別の一人はこう答えた。
「そうだよな。でも、ここでは大会をやってるからな。やらない日本よりはるかにいいよ」
そうなのである。日本では障害者の大会などというと「絶対バリアフリーにしなきゃ」とか「もしケガとかしたら大変。万全を期さないと」とか緊張してしまい、予算は跳ねあがるわ、スタッフも足りないわ、と今でも大騒ぎになる。ましてや国際大会なんてよほど切羽詰まった状況でもないと、なかなかやろうとしない。
でも、テサロニキではできてしまうのだ。これだけでてきとうならできると思う。たぶん、テサロニキは文化的に特徴がなく、観光客も来ないから、「なんでもいいから外国人旅行者を来させよう」ということで、大会のホストを気軽に引き受けたのだろう。
そして選手たちの顔を見れば、多少不便だろうが不快だろうが、試合ができることが嬉しくてしかたない様子が見てとれる。車椅子だって多少ガクガクするだけで、前進不可能なわけじゃない。
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平凡な地方都市テサロニキはこのままどんどんノウハウを蓄積していき、やがてはブラインドサッカー障害者スポーツの”聖地”として名を馳せる日が来るかもしれない。
ちゃんとしなくてもいい。気軽でもいい。てきとうでもいい。
でも今、はじめる。