じじぃの「科学・芸術_497_ネット愛国・朝鮮人」

在日コリアンの証言 ヘイトスピーチの実態 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gYBKHI8iuhQ

各地に次々と設置される従軍慰安婦

『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』 安田浩一/著 講談社 20012年発行
在日特権」の正体 「在日コリアン=特権階級」は本当か? より
はっきり断っておくが、私には経営者としての孫正義も、ソフトバンクという企業も、ことさらに擁護する理由はない。自らを”平成の龍馬”にたとえる孫のメンタリティには、むしろうんざりすることのほうが多い。
だが、在特会の攻撃はあまりにも理不尽に感じるのだ。彼らが「叩き出せ」「追い出せ」と矛先を向ける孫正義は、一度、自らの意思で日本から飛び出している。彼が「もっと日本人に評価してほしい」と願って米国に渡った心情を、在特会の面々は理解できるのだろうか。少なくとも、彼には教師になるといった夢を実現させりための”権利”などなかったのだ。
その後、孫は日本に帰化し、それでも自身の出目を隠すことなく、あえて通名を捨てて本名を名乗り続けている。「孫はもともと韓国人です!」「週刊誌報道で孫の日本人差別は明らかとなった」などと街頭で勝ち誇ったように叫ぶ者は、国籍に自身の進路をを阻まれた孫の心情を理解できるだろうか。
普段は「マスコミは朝鮮人に支配されている」などとネット発の怪しげな謀略論を振り回す彼らも、自分たちの主張に沿った記事が報じられたとたん報道にべったり依存する点にも違和感がある。
街頭において「だから朝鮮人は嘘つきなんだ!」といった怒声が飛んだときには、なにか暗い情念のようなものを感じざるを得なかった。
朝鮮人」が、そんなに気に入らないのか。
怒声の主は福岡支部を仕切っている副会長の先崎玲だった。大分での街宣で、「慰安婦なんてのは要するに股をおっ広げて、カネもらってただけでしょう!」とアジっていた”ちょい悪(ワル)”の中年男である。
後日、私は福岡市内で美容室を経営している先崎のもとを訪ねた。なぜそこまで「朝鮮人」に敵意を燃やすのか、直接に聞いてみたかったのである。
彼は副会長という責任ある立場の人間だ。これまできちんと話をしてくれた幾多の在特会員以外に、それなりの覚悟と理論武装はできているはずだと思っていた。ところが、先崎は私の顔を見るなり激怒した。怒りと憎しみに満ちた目で私をにらみつけると、大声で叫んだのだった。
「誰が、ここの場所を教えたんだっ!」
在特会では幹部の大半が本名や自宅を秘匿している。なのに私が先崎の店を訪ねたことが癇に障ったらしい。名前や店の場所を教えた人間を教えろと、やたらしつこい。
副会長のくせに肝っ玉の小さな男だと思った。
先崎は「ちょっと来い」と凄むと、ビルの非常階段の踊り場に私を連れ出した。そして自分の顔を私の鼻先に近づけて怒鳴った。
「何しに来たんや、オマエは!」
――取材です。
「警察呼ぶぞ」
――どうぞ。
「オマエはチョンだろ? 答えろ! 朝鮮総連に雇われてるんだろう。カネもらっとるやろう、朝鮮人から」
――妄想はいい加減にしてください。
「なにが妄想だ、こらあ! やっぱりチョンだろう! 総連から金もらっていると言え!」
ずっとこんな調子である。取材上の経験から言えば、こういう場合、本当に腹の据わった”大物”は取材者を怒鳴りつけるような馬鹿な真似は絶対にしない。だから、すぐに恫喝してくる連中は、実はそれほど怖くはない。ただ、そんなことよりも私の関心を喚起させたのは、彼がしつこいくらいに私を朝鮮人だと思っていたことだ。いや、先崎だけではない。在特会の少なくない会員から、私は「オマエの国籍を教えろ」「本当は朝鮮人だろ」「いつ帰化したんだ」と何度も詰問されている。彼らにとって考え方の異なる者はすべて「朝鮮人」なのだ。「朝鮮人」や「在日」は一種の記号である。彼らはその記号に脅え、憎悪し、詰(なじ)ることで優越的な立場を獲得する。
2011年まで在特会の地方支部の幹部を務めていた30代の男性は、私にこう打ち明けた。
「入会して驚いたのは、本気で朝鮮人を恐れていた人が多かったことです。真顔で『朝鮮人根絶やしにしないといけない』と訴える人が、かなりいた。活動で知り合った女性は『日本を支配しているのは在日』だと本気で信じていましたからね。その一方で、朝鮮人は満足な教育も受けていない劣等民族などと罵っているわけですから、考えて見れば、そんな民族に支配されている日本人というのは、相当に情けないことになる。しかしそうした矛盾に気がつかないほどに、僕自身も一時期は在特会の雰囲気に感化されていたのは事実です」
朝鮮人を「恐れる」理由は、はっきりしなかったという。
「攻撃しやすいターゲットを見つけたことで舞い上がっていたのかもしれません。在日朝鮮人はかわいそうな弱者であり、差別してはいけないのだという。”決まりごと”に縛られてきた僕たちにとって、タブー破りの快感があったことは間違いないと思います。歪(いびつ)な感覚かもしれませんが、僕自身タブーを突破することで、世の中の権威や権力と闘っているのだという思いもありました」
街頭で「朝鮮人を叩き出せ」と叫ぶ。「日本人のための日本をつくろう」と訴える。
「はっきり言えば……酔いました。自分は大きな敵と闘っているのだという正儀に酔ったんですよ。いまとなってみれば、なぜに在日を憎んでいたのかは自分でもよくわかりません」
おそらくは先崎もそうなのだろう。「在特会に入るまでは、政治活動とは無縁の美容師にすぎなかった」(在特会関係者)という先崎は、ネットによって在日コリアンへの憎悪を膨らませた。彼は人生半ばにして「正義」を獲得したのだろうか。