じじぃの「科学・芸術_295_映画『世にも怪奇な物語』」

映画の名シーン「世にも怪奇な物語 動画 Youtube
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映画 悪魔の首飾り

解説・あらすじ - 世にも怪奇な物語 Yahoo!映画
怪奇文学の巨匠エドガー・アラン・ポーの原作を、ヨーロッパの名監督3人が映像化したオムニバス・ホラー。
女伯爵のゆがんだ愛が引き起こす悲劇を描くロジェ・ヴァディム監督作「黒馬の哭く館」、自らの分身と対面した男が皮肉な運命をたどるルイ・マル監督作「影を殺した男」、青年俳優が少女の幻影に誘われるフェデリコ・フェリーニ監督作「悪魔の首飾り」の3作から成る。ブリジット・バルドーをはじめ、豪華スターの競演も見どころ。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/%E4%B8%96%E3%81%AB%E3%82%82%E6%80%AA%E5%A5%87%E3%81%AA%E7%89%A9%E8%AA%9E/24334/story/
『映画と本の意外な関係!』 町山智浩/著 インターナショナル新書 2017年発行
信じて跳べ (Take a leap of faith.) より
クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(10年)で、妻モル(マリオン・コティヤール)が、夫コブ(レオナルド・ディカプリオ)に呼びかける。「Take a leap of faith(信じなさい)」と。
実は、この世界は現実ではなく夢なのだと信じている。夢から目覚めるには夢の中で死ねばいい。だからビルから飛び降りようと夫を誘う。そのときに彼女が言う「リープ・オブ・フェイス」を訳せば「信頼の飛躍」「忠誠の飛躍」「信心の飛躍」。妻は「私を本当に愛しているなら、ここから跳びなさい」と夫に迫るのだ。
「リープ・オブ・フェイス」は19世紀のデンマークの哲学者セーレン・キェルケゴール
の思想に基づいている。キェルケゴール自身はその言葉を使っていないが、著作の中で数々の「飛躍」について書いている。たとえば旧約聖書『創世記』のアダムとイブ。妻イブから智恵の実を食べるように言われた夫アダムはそれが神から禁じられていることを知りつつも、妻の求めに従った。妻の言葉に賭けて人類の命運を賭けて「飛躍」したのだ。
しかしコブにはできない。「これは現実ではない」という妻の考えは、実は彼がインセプション(他人に概念を植え付けること)したものだから、飛び降りたら死ぬだけだろう。そうしたらふたりの子どもはどうなるのだ。ためらっているうちに妻は落ちて死んでしまう。妻の死への罪悪感はコブを支配し、彼の夢には必ず妻が登場して彼を苦しめる。
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「リープ・オブ・フェイス」と似た言葉に「パスカルの賭け」がある。17世紀のフランスの哲学者ブレーズ・パスカルが言い出したことで、「理性によっては神の実在は証明できない。しかし、神が実在することに賭けても人は何も失うことはない。それで生きる目的ができるなら、神の実在に賭けたほうがいい」という考えだ。
ヌーヴェル・ヴァーグの監督エリック・ロメールの『モード家の一夜』(69年)の主人公(ジャン=ルイ・トランティニャン)は「パスカルの賭け」について考えている。彼の心は、敬虔なカトリックの女性フランソワーズと、無神論者で自由奔放な女医モードとの間で揺れ動くが、最後にある決断をする。
人が論理や確証を超えてある決断をするのは、言い換えると自分の直観に賭けることでもある。しかし直観とは何か。イマヌエル・カントは、人間には理性では説明できない認識、経験に先立つ先天的な認識があると考えた。その考えは超越論と呼ばれ、19世紀、近代合理主義への反発もあって流行した。アメリカの作家エドガー・アラン・ポー神秘主義的な詩や小説を書く一方で超越論に反発し、それを批判して「悪魔に首を賭けるな」という短編を書いた。その映画化が、オムニバス映画世にも怪奇な物語(67年)の第三話、フェデリコ・フェリーニ監督「悪魔の首飾り」である。
イギリスの俳優ダミット(テレンス・スタンプ)がイタリアにやってきた。マカロニウェスタンに出るためだ。当時、クリント・イーストウッドはじめ英米の俳優たちは彼のようにイタリアに出稼ぎしていた。ダミットは落ち目だが、神をも恐れぬ傲慢な男だ。酒に酔った彼はギャラ代わりにもらった真っ赤なフェラーリのオープンカーに乗って真夜中の高速道路に飛び出し、工事で道路が途切れた場所まで突っ走る。そこで手鞠(てまり)をつく少女に出会う。彼女は悪魔だった。ダミットは悪魔と賭けをする。途切れた高速道路を車でジャンプして反対側に着地できるかどうか。
見事にジャンプに成功する。ただ、ダミットには途切れた部分に水平に張られたワイヤーは見えなかった。この映画を観た後では怖くてオープンカーに乗れなくなる。
人生には自分を信じて飛躍すべき瞬間が何度かある。ただ、賭けである以上、負けることもあるのをお忘れなく。