じじぃの「科学・芸術_250_小説『一九八四(1984)年』」

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Stalin and Mao

トランプの2017年は小説『1984年』より複雑怪奇 2017年1月31日 ニューズウィーク日本版
ドナルド・トランプ米大統領に就任してから1週間で、英作家ジョージ・オーウェルの小説『1984』の売上げが急増、米アマゾンの書籍ベストセラーになった。今の時代を読み解く1つの手段として、多くの人が1949年に出版された書物を頼りにしているのだ。
小説の舞台は1984年の「オセアニア」。世界を分割統治する3つの超大国の1つで、残された地域の領有権をめぐって互いに戦争を繰り返す。1950年代の核戦争以降は、核兵器を使わない戦争を永久に続けることで合意する。戦争状態を保てば、支配層が国内を統治するのに都合がよく、3大国の共通の利益に適うからだ。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/20171984.php
『世界文学大図鑑』 ジェイムズ・キャントンほか/著、沼野充義/監修 三省堂 2017年発行
ビッグ・ブラザーがあなたを見ている 『一九八四年』(1949年) ジョージ・オーウェル より
ディストピアとは、ユートピア(理想的な、完璧な世界)とは対極にある悪夢のような社会像を描くジャンルである。1516年にトマス・モアの『ユートピア』が登場してから数世紀にわたって、さまざまな作家が専制国家(共産主義国家もファシズム国家も)、貧困、拷問、大規模な迫害、人心のコントロールといった題目を取りあげ、ディストピアを再現してきた。
作家たちはディストピアの世界を利用して、人間がいだく不安の中核を探り、なんの抑制もなく物事が進んだ場合に起こりうる未来の姿を描き出した。たとえばマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』(1985年)では、軍事政権が支配する世界を描き、そこでは女性はさまざまな権利を剥奪され、ただ子どもを産むだけの存在と見なされている。
ディストピア文学はおもに想像上の未来に焦点を絞り、新たなテクノロジーと社会の変化により生じる恐怖を描くものが多い。20世紀には、核爆弾や劇的な気候変化のシナリオが引き起こす脅威が、ディストピアの強力な供給源となった。
ジョージ・オーウェルの『一九八四年』は、最も有名な近代ディストピア小説である。この作品の出発点は、スターリン主義台頭に対する恐怖である。オーウェルは民主的な社会を信奉していたものの、一政党が全権を掌握するソヴィエト連邦が出現したことを、社会主義とはほど遠いと考えていた。1936年のスペイン内戦で、スターリン支持派が味方であるはずの党派を攻撃して、反フランコ勢力が分裂するさまも目撃していた。
オーウェルはすでに、そのような背信行為の暗然たる様子を中編小説『動物農場』(1845年)で描写していた。また、新たな作品のためのある種のひな型と言えるものも入手していた。それはロシアの作家エヴゲーニイ・ザミャーチンが『われら』(1924年)で描いた世界で、そこでは個人の自由はもはや存在しない。
『一九八四年』が描いているのは、プロパガンダを通して市民を操り、政治権力を維持するために真実を偽りと見なす全体主義社会である。ここで描かれているディストピア社会では、『動物農場』の最初に起こる革命で約束されたような希望が存在せず、また個々人が大きな社会システムの単なる歯車となっていて、はるかに暗澹たる様相を示している。
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国家が人民を操縦し、統制するさまざまなあり方は『一九八四年』の重要なテーマである。全体主義システムでは、個人の選択や生活様式の大部分が包括的な統制機関の命ずるままになる。
オセアニアの支配組織は、個人的な関係を弱め、信用と相互依存を根絶することによって、権力の掌握をつづけようとしている。秘密裏にであれ公然とであれ、国家が精神的にも肉体的にも威圧できる手法や、人間の感情を打ち抜き、精神を壊すその試みをオーウェルはていねいに描いている。そのことについてジュリアは「だれだってかならず自白する。どうしようもない」と述べる。ウィンストン・スミスの経験を通して、こうした国家機関がいかにひとりの人間に対して影響を与えるかを示すことで、読者はスミスの苦しみを体感するだけでなく、こうした組織に対して可能なかぎりの方法で抗いたいと思う強烈な願いも味わうことになる。
『一九八四年』に関する批評は出版直後から非常に好意的で、暗い先行きを描いたその独創性が評価された。以来、作品は65の言語に翻訳され、世界じゅうで読まれている。また、マイケル・ラドフォードが監督をつとめ、ジョン・ハートがウィンストン・スミスを演じた1984年公開の大規模な映画版でも、多くの観客を新たに獲得した。
『一九八四年』で描かれるディストピアの核心にある問題は、わたしたちを支配する者が過度な統制力を得てしまうことである。グローバル化が進む現代の監視社会では、オーウェルの警告がかつてないほどの共感を呼んでいる。