じじぃの「人の生きざま_695_ジャック・ミラー(免疫学者)」

腸と胸腺 新旧二つの免疫組織の話 健康講話2009/3 動画 YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=liV78zX53Sc&feature=related
胸腺 (nanatsuba.co HPより)

Jacques Miller Alchetron
Born:Jacques Francis Albert Pierre Meunier 2 April 1931 (age 84) Nice, France (1931-04-02)
Institutions:The Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Melbourne
Alma mater:The University of Sydney
Known for:Discoveries of the function of the thymus and the T cell and B cell subsets of mammalian lymphocytes
http://alchetron.com/Jacques-Miller-255068-W
現代免疫物語―花粉症や移植が教える生命の不思議 岸本忠三・中嶋彰/著 ブルーバックス 2007年発行
胸腺の謎解いたミラー (一部抜粋しています)
1960年代に入ると、オーストラリアのジャック・ミラーが胸腺に強い関心を持ち始めた。胸腺という臓器も不思議な臓器だ。紀元前から存在は知られていたが働きは全くわかっていなかった。胸腺の秘密に挑もうとする研究者もそれまで現れたことはなかった。
リンパ球をがん化させて白血病を起こすウイルスの研究をしていたミラーは、ウイルスを感染させたネズミの新生児から胸腺を摘出してみた。すると、ネズミは白血病にかからなくなった。胸腺がなくなったため、そこで成熟するはずのT細胞が成熟できず、ウイルスが感染する相手をなくしてしまったせいだ。この点では何の意外性もない実験結果といえるだろう。
ところがネズミを長く飼育していくと重大なことが判明した。そのネズミは病気にかかりやすくなり、やせ細ってしまったのだ。「何か変だ」と感づいたミラーは次に、そのネズミに羊の赤い血球を注射してみた。
ネズミにとって、違った腫である羊の赤血球は外部の異物だ。免疫の働きが正常なら、羊の赤血球を攻撃する抗体が体の中に誕生するはずだ。だが、そのネズミは抗体を作ることができなくなっていた。
ミラーはさらに、そのネズミに他のネズミの皮膚を移植してみた。すると、また異変が見つかった。種が同じでも異なる個体の皮膚を移植されると、生き物はその皮膚を拒絶する。だが、このネズミでは、起きるはずの拒絶反応が起きなかった。
もう、気が付かれたことだろう。これらはすべて、胸腺を取り除きT細胞を成熟させないようにした結果、起きた出来事である。胸腺のないネズミでも骨髄はあるから、一応、B細胞もT細胞も生まれてはくる。しかし、胸腺がないので未熟なT細胞はヘルパーT細胞に成長できない。B細胞はヘルパーT細胞の助けを借りないと抗体を借りないと抗体を作ることができない。だから、このネズミは抗体を失ってしまったのだ。
また未熟なT細胞は殺戮細胞のキラーT細胞に成長するのも胸腺だ。胸腺がなくなると、キラーT細胞は生まれてこない。だから、皮膚を移植されたネズミは拒絶反応が起きなかったのだ。
以上が現代免疫学の基礎を拓いたミラーの研究成果である。だがミラー本人によると「最初は誰も私のいうことを信じてくれなかった」。彼は、ある研究者から「bullshit(でたらめ)という非難を受けたとも回顧している。「bullshit」の先頭は「B」、末尾は「T」。ミラーを非難した人物はB細胞とT細胞の関わりを否定するために、わざと痛烈な批判をこめてこの言葉を使った、と伝えられる。