じじぃの「人の生きざま_696_ピーター・ドハティ(免疫学者)」

MHC分子 (kawamoto.frontier.kyoto-u.ac.jp HPより)

Peter C. Doherty - Facts
●Peter C. Doherty
Born: 15 October 1940, Brisbane, Australia
Affiliation at the time of the award: St. Jude Children's Research Hospital, Memphis, TN, USA
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1996/doherty-facts.html
一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう! 河本宏研究室 京都大学再生医科学研究所
T細胞受容体は直接異物を見るのではなくて、MHCという分子の上のくぼみにはさまるようにくっついた異物の破片(抗原)を、MHCという分子とセットにして見るということです。つまり、T細胞受容体は、MHCという分子にある程度合う形である必要があります。
http://kawamoto.frontier.kyoto-u.ac.jp/public/public_009.html
現代免疫物語―花粉症や移植が教える生命の不思議 岸本忠三・中嶋彰/著 ブルーバックス 2007年発行
胸腺物語 (一部抜粋しています)
MHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子を介して敵の存在を知る複雑な仕組み。しかもMHC分子には2種類があり、それぞれに異なる表面分子を持つT細胞が対処する仕組み。ここには約40億年という気の遠くなるような生命の歴史の積み重ねの末に人類が獲得した防禦システムのエッセンスが詰まっている。
1996年秋、スウェーデンカロリンスカ研究所は「MHCの拘束性」を発見した2人の科学者にノーベル生理学医学賞を与えると発表した。米テネシー大学のピーター・ドハティとスイス・チューリヒ大学のロルフ・ツィンカーナーゲルの2人だ。
1970年代の初期、T細胞が外敵を認識する仕組みの謎にとりつかれた彼らは、オーストラリアのキャンベラにあるジョン・カーティン医科大学で一緒に実験を繰り返し、外敵の認識にはMHC分子が欠かせないことを実証した。この功績が20年以上もたって評価されたのである。
実験を振り返ってみよう。まず2つの系統のネズミを準備する。髄膜炎を起こすウイルスを感染させると、どちらかのネズミの体内でもウイルスに感染した細胞をキラーT細胞が見つけ攻撃する。
次に、どちらかのネズミの体内からウイルス感染細胞を取り出し試験管の中にいれ、さらに、もう一方のネズミの体内からキラーT細胞を取り出し、これも試験管の中に入れてみる。するとT細胞はウイルスに感染した細胞を攻撃できなくなった。T細胞が試験管の中で出合った細胞は、このT細胞がつい先ほどの攻撃していた細胞と同じウイルスに感染していたにもかかわらず、攻撃はしなかったのである。
なぜだろうか。T細胞が、それまで見ていた自分のMHC分子がウイルス感染細胞になかったからだ。そこにあったのはT細胞が初めて見る他のMHC分子。T細胞は「自己と非自己」をあわせ見ることができなかった。そのためウイルスに感染した細胞を敵とみなさず、攻撃もしなかったのだ。2人は1974年、免疫学史に残る研究論文を英国の有力科学誌ネイチャーに発表した。
ただ、彼らにはノーベル賞受賞の可能性が薄まったと思えた時期があったはずだ。というのは次に語るように1980年にG・スネルたち3人が、彼らに先駆けてMHC分子の発見に貢献したとしてノーベル賞を受賞したからだ。
     ・
だが科学の進歩は時に観客も、内部にいる科学者たちをも、あっと驚かせることがある。それは1987年、MHC分子の立体構造がエックス線解析の手法で、くっきりと捉えられたのだ。それによるとMHC分子は2本のらせんと数枚の平板が組み合わさった構造で、中央部に細長い裂け目ができていた。抗原提示の時、異物はここから顔を出していたことが、これで裏付けられたのだった。