じじぃの「科学・芸術_17_イスラム帝国から継承された科学技術」

THE HISTORY OF THE OTTOMAN EMPIRE - Discovery History Science (full documentary) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=1oean5l__Cc
オスマン帝国

『逆説の世界史 2 一神教のタブーと民族差別』 井沢元彦/著 小学館 2016年発行
オスマン帝国の崩壊と中東戦争 (一部抜粋しています)
イスラム帝国の衰退の理由を分析するのは容易ではないが、ここでは『逆説の世界史』で使っている方法論を適用するのが有効であると思われる。
それは比較である。まったく異質なものを比較することによって、双方の顕著な特徴が見えてくるというものだ。
この場合はキリスト教自体を用いたい。キリスト教イスラム教と同じく一神教であって、その意味では共通性がある。しかし、18世紀以降、西欧キリスト教世界は近代化、つまり科学技術の発展と資本主義の完成によって強大な社会を建設したが、イスラム教世界はこれを達成することができなかった。この点では両者は異質ということができ、比較と言う方法論の有効性が認められる。
ただここで、特に欧米人の読者には、念を押して置く必要があるかもしれない。
それは、イスラム帝国が政治・経済の面でも、かつていかに強盛だったかという点に関する認識である。
18世紀以降20世紀前半にかけて、欧米諸国は近代化で発展した国力によって、最大のイスラム帝国であるオスマン帝国を崩壊させ、イスラム教徒の居住区を分割し、植民地化した。
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世界史についてあまり知識のない人でも、ヨーロッパに「中世暗黒時代」があったことは知っていよう。ギリシャ・ローマ文化は白人の文化として、後のヨーロッパ諸国にダイレクトに伝えられたわけではない。この中世黒時代には、ギリシャ・ローマ文化は実質的に抹殺されていたのだ。
では、それを保存し、継承し、発展させたのはどこか?
お分かりだろう。イスラム帝国なのである。だからこそ既に述べたように、アルコール(alcohol)、代数学(algebra)、アルゴリズム(algorithm)という現代の科学技術に欠かせない単語は『コーラン』に用いられる言語と同じく、元はアラビア語であり、世界中の文明がスタンダードな数学として採用しているのはアラビア数字なのである。
さらに留意すべきことは、『新約聖書』はもともとギリシャ語で書かれていたということである。
それがローマ帝国の国語であるラテン語に翻訳されて、中世にはラテン語版が使用されていた。当たり前の話だが、中世に古典としての聖書を研究するのはギリシャ語の聖書が必要で、しかもギリシャ語を学ばなければならない。それをヨーロッパからの留学生に提供し、教授したのは一体どこの国の学者か。
もうお分かりだろう。イスラム帝国ムスリム学者なのである。
こうした高いレベルの学問だけでなく、民衆の基本的教養もヨーロッパはイスラム教世界にはるかに及ばなかった。
はるかに、というのは誇張ではない。中世ヨーロッパにおいて、文字が読める人々は少なかった。特に農民の識字率は極めて低かった。理由は簡単で、農民は文字を知る機会も少なく、学ぶ必要もなかったからである。領主の農民に対する命令は常に広場で読みあげられた。文書で刑事しても読めるものがいないからである。
一方、イスラム教世界においては、『コーラン』を学ぶことが貴族庶民を問わず必須の教養であった。子供の頃から『コーラン』を暗唱させられる。「暗唱できる」ということは、実際に文字を見た時に「読める」ことに繋がる。つまり、識字率を上げる効果があるのだ。