老若2匹のマウスの血液循環
Thomas Rando, MD, PhD Stanford Medicine Profiles
Director, The Glenn Laboratories for the Biology of Aging, Stanford University School of Medicine (2011 - Present)
https://med.stanford.edu/profiles/thomas-rando
『寿命はなぜ決まっているのか――長生き遺伝子のヒミツ』 小林武彦/著 岩波ジュニア新書 2016年発行
赤ちゃんも老化している!? (一部抜粋しています)
加齢によってホルモンが低下することにも意味があるのです。そのため、ホルモンの低下だけを抑えたとしても、老化そのものを抑えることはできず、体全体のバランスが悪くなり、かえって寿命を縮めることになりかねません。「若返り」治療は、老化の意味やメカニズムを理解した上で行わなければ逆効果になります。時の流れに逆らうのはそう簡単ではないのです。
男性の場合は、女性に比べてホルモン量の低下による更年期の体調不良などの症状は一般的にあまろ大きくありません。しかし症状が顕著でないぶん、それが更年期だと気づかず対応が遅れることがあるので注意が必要です。
こうしたホルモンが老化に与える影響も重要ですが、やはり個体の死に結びつく老化としては、細胞の老化が大きな要因となっています。なんといっても、個体は細胞でできています。そのため細胞の老化が個体の老化に直接つながるのです。
しかし、細胞は日々たくさん死んでいますが、それで個体が死ぬことはありません。理由は先に述べたように、常に細胞が新しく作られているからです。逆に言えば、新しい細胞を作る、つまり幹細胞の動きが悪くなると個体は死んでしまいます。若い人に比べて高齢者は傷や怪我の回復に時間がかかるのも、幹細胞の分裂能力の低下が理由の一つとして挙げられます。
アメリカのトーマス・ランド博士のグループが2005年に『ネイチャー』という有名なイギリスの科学雑誌に発表した研究成果があります。ちょっとグロテスクな話ですが、彼らは若いマウスと年老いたマウスの血管をつなげて血液が相互に循環するようにしました(図.画像参照)。
その結果、治りにくかった老年マウスの傷が治りやすくなるなど、いくつかの点で「若返り」の症状が見られました。これは若いマウスの血液に幹細胞を活性化する物質(おそらくホルモンのようなもの)が含まれており、それが老年マウスの幹細胞を再活性化させたのでしょう。若い娘の血を吸って若さを保つドラキュラ男爵の話などは、事実ではありませんがまったく根拠がないわけでもないのかも……と思ってしまうような現象です(冗談です)。
こう考えると、ほとんど分裂しない神経細胞と心筋細胞を除いては、幹細胞の寿命が個体の寿命に与える影響は大きいことになります。分化している細胞が死んでも、幹細胞が補完されれば問題がないのです。したがって、幹細胞の寿命を考えることが、個体の寿命を考えるうえで重要なことでしょう。