じじぃの「人の生きざま_601_マーシャル・ニーレンバーグ(生化学者・遺伝暗号)」

遺伝情報の伝達(蛋白質合成) 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=psh1rJ08Fks
タンパク質の合成 (an.shimadzu.co.jp HPより)

マーシャル・ニーレンバーグ ウィキペディアWikipedia)より
マーシャル・ウォーレン・ニーレンバーグ(Marshall Warren Nirenberg、1927年4月10日 - 2010年1月15日)は、アメリカ合衆国の生化学者、遺伝学者で、遺伝暗号の翻訳とタンパク質合成の研究で、ロバート・W・ホリー、ハー・ゴビンド・コラナとともに1968年度のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
【研究】
1959年までに、オズワルド・アベリー、フランシス・クリック、ジェームズ・ワトソンらの研究によって、遺伝情報を保持する分子はDNAであることが明らかとなっていた。しかし、DNAがどのように複製し、DNAの情報がどのようにタンパク質に伝わり、またその過程でRNAがどのような役割を果たすのかは分かっていなかった。
ニーレンバーグはアメリ国立衛生研究所のハインリッヒ・マッシーとともにこの問題に答えようとした。彼らは、ウラシルのみで構成されたRNAを作り、このRNAを、DNA、RNAリボソームほかタンパク質合成に必要な細胞装置を含んだ大腸菌の抽出液に加え、さらに余分なDNAを分解するDNA分解酵素と5%の放射標識アミノ酸、95%の通常のアミノ酸を加えた。すると、放射標識されたフェニルアラニンを含む抽出液で、得られたタンパク質に放射標識が見られた。この実験によって、遺伝暗号UUUはフェニルアラニンを意味することが明らかとなった。これはコドンの解読の第一歩であり、伝令RNAの役割を始めて示した実験である。

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『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』 立花隆利根川進/著 文春文庫 1993年発行
アメリカで学んだ第一世代 (一部抜粋しています)
――理学部の化学科の出身でしたね、もともと生物に対する興味から分子生物学に入っていかれたわけじゃないんですか。
「ぼくは高校で生物をとってないんです。だから生物学の知識なんて、はじめは何もなかったですね。たとえばね、この人間の体がみんな細胞でできてるなんてことは、大学に入って一般教養の生物をとるまで知らなかったくらいなんですよ。それ聞いたとき、へえーっと思ってね。すぐに友達にその話したら、お前そんなことも知らなかったのかって、すごくバカにされましたけどね(笑)。こんな話書かないでくださいよ」
――いやあ、その話いいですね。ノーベル賞利根川さんが細胞を知らなかったなんて傑作ですよ。ぜひ書かせてください。
「それ聞いたとき、おお、そうかあ、生物学ではもう相当えらいことまでわかっとんのやなあと感心したくらいでね(笑)。ぼくの生物学の知識というのはそんなものでしたね」
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――挫折感というか、虚脱感というか……。
「うん、なんとなく何をやっていいのかわからないみたいな、何にも手がつかないみたいな、そういう空気がありましたね。やっぱり」
――資本家のために働いてもしょうがないというような気持が出てくるのは、そういう空気の中でなんですか。
「まあ、そういうことなんでしょうね。やっぱり安保というのは、当時の一般学生にずいぶん大きな影響を与えたんですね。あれで人生の方向を変えたやつがぼくの周囲にもけっこういましたね」
――それで、サラリーマンになるのはやめたけど、化学もやりたくないという気持ちで、結局どうしたんですか。
「人に相談にいったんです。化学科の中に、生物化学教室というのがありまして、そこに大学院の博士課程を終ったばかりで研究室にまだ残っていた山田さんという人がいたんです。とても魅力ある人だから会いに行こうと友人にさそわれて会いに行ったんです。この人が面白い人でしてね。いまでも付き合いがあるんですが、いろんなことを教えてくれた。その話の中に、ニーレンバーグの遺伝暗号解読の話があった。 要するにDNAの情報がどうアミノ酸の配列に対応しているかが、当時の分子生物学の中心的な問題の1つだったわけですが、その対応関係を実験的にはじめて明らかにしたのがニーレンバーグです。DNAの塩基配列3つが1つの暗号になっていて1つのアミノ酸に対応しているということを、非常にエレガントな実験で示した。彼はこれでノーベル賞をもらっている」
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どの塩基配列がどのアミノ酸の暗号になっているのかを解読するのは容易なことではなかった。現実の生きた細胞では、DNAには膨大な数の塩基配列がならんでおり、それが同時進行的にさまざまのタンパク合成を行っている。すべてがいっしょにくたになっているので、塩基配列アミノ酸が対応しているということは分かっても、どう対応しているかは調べようがなかったのである。
ではニーレンバーグはどうしたのか。
DNAがタンパク質を合成するといっても、その実際の仕組みは複雑である。実際のタンパク合成は、細胞の核の外の細胞質の中にあるリボソームという小さな器官の中で行われる。材料となるアミノ酸は細胞質の中にある。
遺伝情報は核の中のDNAにあり、タンパク合成は核の外で行われるのだからその間をつなぐものが必要である。それがRNAである。DNAが持つ遺伝情報の中から、1つのタンパク合成に関する部分だけがメッセンジャーRNA(mRNA、伝令RNAともいう)に転写され、その中から1つのアミノ酸に関するものだけが、それぞれに対応するトランスファーRNA(tRNA、運搬RNAともいう)によって読みとられる。
ニーレンバーグの時代は、以上のプロセスがまだよくわかっていなかった。