じじぃの「人の生きざま_545_ピーター・シンガー(哲学者)」

効果的な利他主義者になる方法 動画 TED
https://www.ted.com/talks/peter_singer_the_why_and_how_of_effective_altruism?language=ja

思想・文化問題としての捕鯨・イルカ漁問題 Global Energy Policy Research
●「動物解放運動」という20世紀の潮流
欧米と日本の鯨・イルカをめぐる捉え方の違いは、思想・文化問題としてきわめて興味深い事例である。欧米には、神と人間と動物を峻別して人間以外の被造物は人間の利益のために存在するとみなし、動物を利用あるいは保護の対象にするという価値観がある。利用から保護へという欧米型捕鯨の転換は、そのことを象徴している。現在では、鯨やイルカは人間に近い知性をもった動物として保護の対象とされ、捕鯨やイルカ漁が「非人道的行為」として糾弾されるのである。
とりわけシー・シェパードに代表される反捕鯨運動は、倫理学者のピーター・シンガートム・リーガンを代表とする20世紀の動物解放運動の系譜に位置づけられるだろう。厳密には両者には相違点もあるが、動物の福祉や権利という観点から動物の感覚能力を認め、できるかぎり苦痛を与えず、やむなく苦痛を与えなければならない場合はその軽減をめざすという点で共通している。
http://www.gepr.org/ja/contents/20140217-01/
ピーター・シンガー ウィキペディアWikipedia)より
ピーター・シンガー(Peter Singer, 1946年7月6日 - )は、オーストラリアメルボルン出身の哲学者、倫理学者。モナシュ大学教授を経て、現在、プリンストン大学教授。専門は応用倫理学功利主義の立場から、倫理の問題を探求している。著書『動物の解放』は、動物の権利やベジタリアニズムの思想的根拠として、広く活用されている。ザ・ニューヨーカー誌によって「最も影響力のある現代の哲学者」と呼ばれ、タイム誌によって「世界の最も影響力のある100人」の一人に選ばれた。メルボルン大学出身で、在学中は、法学、史学、哲学を学んだ。
両親は第二次世界大戦の前にウィーンから移住したユダヤ人で母は医者、父は茶、コーヒーの輸入を営む。

                    • -

『動物に魂はあるのか 生命を見つめる哲学』 金森修/著 中公新書 2012年発行
動物と政治 (一部抜粋しています)
シンガーの『動物の解放』(1975)は<動物の福祉>の考え方により近いものだといえるだろう。彼は<動物の苦痛>の存在に配慮を示したベンサムの明示的言及を行いつつ、人間と人間以外の間の断絶を強くとり、人間だけを保護や配慮の対象とするという考え方を種差別主義(speciesism)と呼んで非難した。彼が特に問題にしたのは同時代の畜産と動物実験の実態のことだ。現代の畜産は19世紀人でさえ想像を絶するほどに大規模な<工場畜産>として遂行されている。動物は<安い餌を高い肉に変換する機械>(<動物機械論>の現代的敷衍)である。食肉用鶏(ブロイラー)は、わずか数週間の短い命を狭い小屋で大量の仲間と共にストレスに晒されながら生きる。ストレスのせいでお互い突きあい、共食いさえもするので、彼らは系統的に嘴(くちばし)の先端を切られる(断嘴)。ヴィールという仔牛肉生産の場合、仔牛はほとんど身動きできないような空間に閉じ込められ、ビタミン、ミネラル、成長促進剤などを加えた流動食で養われる(75年公刊時点での現状分析)。ただ、それらの畜産は人間が食べるという終着地点をもつ分、動物実験に比べるとまだましだといっていえないこともない。動物実験は、多くの場合その背後に人間の健康や長命のためという大義名分が控えているが、時として単に好奇心的な駆動に突き動かされているだけではないかと疑われるような研究計画も含まれている。そもそも、人間の健康が目的の場合でも、数人の健康という<快>と大量のマウスの虐待という<苦>を比べると、功利主義的にはその目標設定も妥当ではないという結論さえ、出て来うる。
      ・
一般に、動物と人間の関係はあまりにも深く、複雑なので、愛着や遺棄のように互いに背反するベクトルの片方だけを際立たせるというわけにはいかず、或る動向や判断が顕在化した途端に、それとは反対の動向を幾らでも拾い上げるできるという構造になっている。われわれは動物に対して神、悪魔、主人、友人、他者、同胞のいずれでもありうる。
第一、動物への配慮という心優しい動向の体現者であるはずのシンガーは、1980年代終盤からしばらくの間、或る違う文脈に位置する事件でとりわけ有名になった。彼は重い障害をもって生まれてくる重症障害新生児と健康なチンパンジーの<命の価値>を比べてみせるという思考実験を行い、どうしても二者択一が必要な場合、前者よりも後者を重視するという判断を著作や講演で何度も行ったのである。それは重症障害新生児のいわゆる選択的治療停止を合意するものであり、特に障害者運動の関係者たちから激しい弾劾を受けた。世界中のいくつかの大学でシンガーの講演が中止になったりもした。(ちょうどヴォルテールのように)「動物に優しい」ということが「人間に冷淡である」ということと重なりうるというこの逆説は、独立自在なはずの<人間圏>の成立基盤がなんら生物学的に自明なものではなく、まして文化的には自明どころではない浮動性の嵐の中にあるという事実を、否応なく露わにした。