じじぃの「人の生きざま_449_ヒクソン・グレイシー」

ヒクソングレイシーのあの呼吸法が見たい! 動画 YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=xGz_5yIQggM
Rickson Gracie vs Takada - 1997 動画 YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=HZlPArormgk
ヒクソン・グレイシー ウィキペディアWikipedia)より
ヒクソン・グレイシー(Rickson Gracie、男性、1959年11月21日 - )は、ブラジルの柔術家、総合格闘家リオデジャネイロ州出身。ヒクソン・グレイシー柔術所属。グレイシー柔術七段。
グレイシー柔術創始者エリオ・グレイシーの三男である。
日本においては、総合格闘技の試合で高田延彦船木誠勝など著名なプロレスラー、格闘家を相次いで破った。バーリ・トゥードルール、いわゆる「なんでもあり」の試合、グレイシー柔術の技術を使っていたとはいえ、相手をテイクダウンし、マウントパンチで攻撃、最後は絞め技や関節技に持っていくというスタイルを使っていた。

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『泣き虫』 金子達仁/著 幻冬舎 2003年発行
PRIDE (一部抜粋しています)
決戦前夜の眠りは浅かった。自分は、何を武器にして戦ったらいいのか。殴りに行ってはダメだと言われた。蹴るのもダメだと言われた。400戦無敗と言われる男に通用する武器が、自分の身体の中になにか隠されているのか。再び意識が冴え始めて、眠りはますます遠のいていく。運命の日の朝を、彼は最悪の気分で迎えた。
「勝ちに行く、とか、戦いに行くって感じの気分じゃなかったなあ。こういう試合の朝って。怖さとワクワク感が入り交じっているのが普通なんですけど、ワクワク感の方はまったくありませんでたからね。あったのは怖さと、ああ、今日はリングにあがらなきゃいけないんだっていう重苦しい義務感だけ。嫌な朝でした」
体調は依然として最悪だった。それを忘れさせてくれる高揚感もなかった。高田が最後までこだわったテレビの放映も、結局は地上波のゴールデンタイムで放送してくれる放送局は現れず、まだ加入者もさほど多くなかったCS放送での、日本では珍しかったペイ・パー・ビューでのオンエアということになっていた。
どこで、どう歯車は狂ってしまったのか。
97年10月11日、夢にまで見たヒクソンとの一戦を、高田は、思い描いていたのとはまるで違った形で迎えようとしていた。
向かい合ったヒクソン・グレイシーが、高田の目には輝いて見えた。
「ピッカピカでしたね。オーラが出てて、伝わってくるのがわかるんです。ぼくはそれを、これから対戦する男としてではなく、リング下やテレビで見ている人間のようなつもりで、すごいなあって感じてた。当事者ではなく、第三者であるかのように」
レフェリーの島田裕二がリング中央に2人を呼び寄せた。互いの息づかいまで感じることのできる距離で、初めて両者が向き合う。頭をきれいに剃りあげ、真っ白いトランクスを身につけたヒクソンは、顎をグィッと突き出し、見下すような眼差しを向けてきた。静かな挑発ともとれる行為に、しかし、高田は反応しなかった。透明なマウスピースを葉巻のようにくわえた彼は、島田がルールの説明をしている間、うつむき加減に視線を彷徨わせていた。
彼は、途方に暮れていた。
ヒクソンは」ものすごく輝いてる。でも、リングの中は真っ暗な感じなんです。真っ暗闇のジャングルに、何の武器も持たずに放り出されたような感じ。向こうからすれば、勝手知ったるジャングルで、サバイバルのための武器も全部持ってる。こちらは手ぶら。しかも初めてのジャングル。ただただ不安でしかない」
頭の中では、セルジオ・ルイスから授けられた言葉がしつこいぐらいに鳴り響いている。殴るな。蹴るな。グルグル動き回れ。寝るな――。
控え室に届けられた前田からの手紙も、不安を払拭するにはいたらなかった。
ゴングが鳴った。
両腕を前方に突き出し、腰を引いた奇妙なファイティング・ポーズをとった高田は、ヒクソンの周りを時計回りにグルグルと回った。30秒が過ぎ、1分がたっても両者は組み合う気配を見せない。異様なまでの緊張感と意外な展開に、場内にため息にも似たどよめきが走る。
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リング中央でレフェリーから「コーション」を言い渡された高田は、再び時計回りにヒクソンの周りを動き回ろうとした。だが、高田がもうロープをつかめないことを知っているヒクソンは、躊躇しなかった。リングをわずか半周回ったところで、高田はヒクソンにとらえられ、リングに叩きつけられた。
「あとは、見ての通りです。気がつくと、彼のポジションになっていました。いまから思えば、あれがヒクソンの凄さなんでしょう。あれだけたくさんの柔術家がいる中、どうして彼が達人と呼ばれるのか。ハッと気づくと1本取られているっていうか、蛇のように柔らかく動き回るんです。いまはともかく、あの時点での彼はやっぱり本物でした。技術も、ハートも、本物。言ってみれば天上にいる人、相撲でいうところの大横綱みたいな存在でしたね」
この試合は1ラウンド5分のラウンド制で行われていた。リング上で叩きつけられた時点で、残り時間は1分少々というところだった。馬乗りの体勢を許した高田は、懸命にヒクソンの胴体にしがみつき、終了のゴングを待とうとした。だが、牙を持たない獲物を獰猛な狩人は逃がさなかった。1ラウンド4分47秒、ヒクソンの腕ひしぎ十字固めが決まった。高田は敗れた。