じじぃの「人の死にざま_1146_正宗・白鳥」

正宗白鳥 - あのひと検索 SPYSEE
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ある無神論者の悲劇/正宗白鳥
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正宗白鳥 ウィキペディアWikipedia)より
正宗白鳥は、明治〜昭和期の小説家、劇作家、文学評論家。本名は正宗忠夫。
【経歴】
山県和気郡穂浪村(現在の備前市穂浪)に生まれる。
昭和期になると、活動の主点を評論に置く。1936年(昭和11年)1月の読売新聞に小林秀雄が「作家の顔」という小論文を掲載した。その中に、同年に正宗がトルストイについて書いた評論に対する非難が掲載されており、小林と正宗との間に「思想と実生活論争」が起こった。
1935年(昭和10年)、外務省文化事業部の呼びかけに応えて島崎藤村徳田秋声らと日本ペンクラブを設立。

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『人間臨終図巻 下巻』 山田風太郎著 徳間書店
正宗白鳥(まさむねはくちょう) (1879 - 1962) 83歳で死亡。 (一部抜粋しています)
20代のとき白鳥は、「バイブルは吾人が恐入るにも当たらない、凡書である」と書いた。
40代のとき、「トルストイはキリストとは比較にならない厚みにのある人間なのだ。(中略)キリストの光明はお伽噺の光明で、トルストイの暗黒は大地と人心の底に渦を捲いている現実の暗黒である」と書いた。
ところが、70代にはいると白鳥は「……私は断末魔の際、南無阿弥陀仏と唱えるだろうか。イエス・キリストに救いを求めるだろうか」と書いた。
……懐疑主義正宗白鳥は、不可抗の力にひかれて、徐々に回心の道をたどりはじめたのである。
その白鳥は、昭和37年夏ごろから食欲不振がつづくので、8月27日、日本医大第一病院に入院し、胆管に異常があると診断されて手術した。
手術後も依然食欲不振であったが、「食べないのが一番いいんだが、食べなくては餓死するから」といって、お粥(かゆ)に梅干という食事を流しこむようにとり、背、胸の痛みを訴えながらも、病院の廊下の散歩を欠かさなかった。彼は自分が膵臓ガンにかかっていることを知らなかった。
10月にはいって、その流動食も口にはいらず、白鳥は体重30キロの、骨盤と手足ばかりのような姿になった。
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10月27日、白鳥は妻の顔を眺めて、「一文もないのだから、早く家に帰りたい」といった。正宗家の経済は、死の床にある白鳥が、入院費のことで気をもまなければならない状態にあったのである。妻が残金17万円の札束を一枚一枚数えてみせたところ、白鳥は首をふるしぐさで、ゲンコで妻の顔をポンポンとぶった。(当時、大学卒公務員初任給約1万6千円)
――その妻は、51年前、三々九度の盃を交わしたとき、新妻の唇にふれた盃にふれた自分の唇を、白鳥が指でぬぐったという妻であった。同時に、晩年の数年、毎日曜の夜、妻がバイブル・クラスの集まりにかようのを、雨の日も雪の日も、毎夜駅まで白鳥が迎えにいってやった妻であった。
彼女は夫のために祈りつづけた。
「神様、忠夫(白鳥)の命を取りとめ、長くとは言いませぬが、御心ならば生かしてください。必ず神様を信じます。今はあなた様のみ、今は絶体絶命の時、忠夫に信仰を持たせますよう、全身全霊をもってあなた様の御慈悲をたれて下さい」
欲日28日の午前9時半ごろから、白鳥は口をあけて意味不明のことをつぶやき、妻の手を手さぐりに探しはじめた。その手や足、顔が徐々に黒ずんでいって、11時妻に手をとられたまま息絶えた。
死の2年前に、白鳥は「一つの秘密」と題する怖ろしい文章を書いている。
「人間は誰でも一つや二つは絶対に、死ぬまで人に打明けたくない秘密があるものだ」
それを自分も持っている。それは犯罪とか破廉恥とか、そういう次元のものではない、と、彼はいい、
「それは私自身の身心に関係したことなのだが、それを打ち明けるよりは、むしろ死を選ぼうという気持ちになる。私の心理が異様なのか。その秘密を思い出すと、自己嫌悪自己侮蔑に身震いするのである。死後、審判の座に引据えられたときにも、こればかりは除外されたかった。(中略)そういう秘密に悩まされない人は幸いなるかな。(中略)私が持っている一つの秘密にしても、近親者の誰もが看破しえないのである。(中略)人間老境に達すると、記憶が薄らぎ、過去の悲喜哀歓の経験もまぼろしのようになるものだが、私の秘密は、昔ながらの毒気を持って出現するのである」
彼はついにこの秘密に口を閉じたまま、あの世へ去った。

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