じじぃの「服従の限界!奇想天外な科学実験」

『奇想天外な科学実験ファイル―歴史を変えた!?』 アレックス・バーザ/著 鈴木南日子/翻訳 エクスナレッジ 2009年発行
服従の限界 (一部抜粋しています)
タイトな白いTシャツを来た神経質そうな男性が、体を乗りだし、毎気に向かって「生徒さん、答えはなんですか?」と尋ねた。
返事はない。数秒後、男性は大きな声で「生徒さん、答えをお願いします」と促した。
突然、壁の向こう側から叫び声がした。「回答は拒否します。ここから出してください」
「まず質問に答えてください。さもなければ、ショックを与えますよ」と男性は言った。
「絶対に回答はしません。ここに閉じこめておくことはできないはずです。出してください。出せと言ったら出すんだ!」
男性は座ったまま振り返り、すがるような目で後ろに立っている白衣の研究者を見上げた。「彼は答えないんじゃないでしょうか」
研究者は穏やかに答えた。「もし生徒がある程度の時間内に答えなかったら、それは回答が間違っていたと見なしてください」
「でも。向こうで叫んでいるじゃないですか。彼はあそこから出たいんですよ」
「続けてください」
「彼の様子を見に行ったほうがいいかもしれません。心臓が弱いって言っていたし・・・・」
「あなたが続けないと、実験は成立しないのです」
男性はため息をつくと、また前を向いた。そして、自分の前の計器パネルを見つめる。パネルには30個のスイッチが並んでいる。各スイッチには電圧が記載され、左端が15ボルト、それから順に15ボルトずつ電圧が上がり、右端は450ボルトになっている。315ボルトのスイッチの下には、「非常に激しい衝撃」という警告が書かれている。男性はこの315ボルトのスイッチの上に、そっと指を置いた。しかし彼は指を離し、ふたたび振り返って、研究者の顔を見上げた。
「人殺しの責任は取りたくありません」
「責任は私にあるのです。やってください」
どうしていいのかわからないという様子で、男性は頭を振った。目はうつろで、恐怖心がかいま見える。男性は型をすくめ、また元の位置に戻ると「仕方がない」とつぶやいた。
男性は前に乗りだし、マイクに向かって「生徒さん、その答えは間違っています」と言うと、スイッチを押した。身の毛もよだつような叫び声が壁を震わせた。
あなただったら、他人の命令に従って、罪のない人を拷問したり、殺したりするだろうか? こう聞かれたら、ほぼ全員が否定するだろう。しかし、ほぼ全員が間違っている。スタンリー・ミルグラムが1960年代前半にエール大学で行った服従実験では、ごく普通の人々でも、時に白衣を着た人に命令されると、恐ろしい行動をとることが証明された。
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2人はくじを引いて生徒役と教師役を決めるのだが、偽のボランティアは必ず生徒役になった。そのあと研究者は生徒を電気椅子につなぐ演技をした。手首にゲル電極を取り付け、身動きできないように拘束する。不安そうな表情で、生徒はショックによって持病の心臓病が悪化しないか尋ねる。研究者はその懸念を退け、こう告げる。「電気ショックは非常に大きな痛みを伴いますが、組織に損傷を残すことはありません」
次に研究者は、教師役の被験者を隣の部屋へ案内する。そこのは電圧パネルが設置されており、研究者は機械の操作を説明する。そうして教師はパネルの前に座り、研究者は被験者の後ろに離れて腰掛け、実験が始まった。    ・
実験を行う前、ミルグラムは電圧パネルの最後のスイッチまで行く人は1人もいないだろうと考えていた。意見を聴いた精神科医も、全員ミルグラム同様、最高の電気ショックを与える被験者は1000人に1人だろうと予想していた。
しかし被験者たちが実際にとった行動は、これらの予想を打ち砕いた。なんと3分の2の被験者が、最後まで研究者の指示に逆らわなかったのだ。彼らは苦しみ、汗をかき、震えていたが、それでもスイッチを押しつづけた。生徒が叫びだし、心臓が弱いのだと訴え、外へ出してくれと苦しそうに叫んでも、被験者たちはスイッチを押した。300ボルトのスイッチを押したあと、生徒が不気味に沈黙し、明らかに気絶したか、死亡したと思われるときでも、被験者たちはまだスイッチを押しつづけた。
彼らは連続殺人犯でもサディストでもない。平均的なアメリカ国民だ。しかし彼らは、白衣の男性に指示されれば、無実の人でも進んで殺す。数年後、CBSのテレビ番組『60ミニッツ』のインタビューで、ミルグラムは複雑な表情を浮かべながら、次のように述べた。
  この実験で1000人の人々を観察し、実験結果から得た印象および情報に基づいて判断しますと、もしナチスドイツで見られたような強制収容所アメリカ国内に造った場合、どの中堅都市でも強制収容所の職員を十分確保できるでしょう。
ミルグラムはこの実験をさまざまに応用し、服従の限界を探った。そして、犠牲者との距離が服従の度合いに大きく影響することを発見した。犠牲者の姿が見えず、声も聞こえない場合、服従の度合いは100パーセントで、壁をたたく音が聞こえるだけだと65パーセントだった。しかし犠牲者にショックを与えるには、彼の手を金属板に押しつけなければならない場合だと、30パーセントまで下がった。もちろん30パーセントでも、驚くほど高い数字だ。性別などのほかの要素は結果にほとんど影響しておらず、女性の被験者も男性の被験者と同じくらい進んで犠牲者にショックを与えることが証明された。
ミルグラム服従研究の結果を聞くと、人間の性(さが)に失望する。平均的な人々は、それがどんなに残酷で不公正だろうと、進んで命令に従うというのだ。しかし、同時期にシカゴで行われた類似の実験結果と比べたら、人間の株はさらに下がるだろう。シカゴの研究者たちはアカゲザルを檻に入れた。サルがエサを手に入れるには、鎖を引っ張らなければならないのだが、ここに仕掛けがあった。鎖を引くと、隣の檻にいるサルに高周波ショックが加えられるのだ。隣人の苦しむ姿を目撃すると、過半数のサルが二度と鎖を引かなくなった。ほかのサルに苦痛を与える代わりに、サルたちは自分が飢えに苦しみ、なかには12日間も絶えたサルもいた。言い換えればサルたちは私たち人間にはできなかったこと、つまり「ノー」と言うことができたのだ。

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どうでもいい、じじぃの日記。
『奇想天外な科学実験ファイル―歴史を変えた!?』という本を見ていたら「服従の限界」があった。
映画などでスパイに電気ショックでの拷問をかけたりするシーンがある。
白衣など着て、いかにも権威のあるような人に電気ショックでの拷問を命じられた場合、どこまであなたは電気ショックを与え続けられるかというもの。
拷問を受ける生徒役はサクラだ。
「実験を行う前、ミルグラムは電圧パネルの最後のスイッチまで行く人は1人もいないだろうと考えていた。意見を聴いた精神科医も、全員ミルグラム同様、最高の電気ショックを与える被験者は1000人に1人だろうと予想していた」
戦争中だったらまだしも、この平和な時代に電気ショックでの拷問で悲鳴が聞こえたら、そこで実験を止める。と思うだろう。
「なんと3分の2の被験者が、最後まで研究者の指示に逆らわなかったのだ。彼らは苦しみ、汗をかき、震えていたが、それでもスイッチを押しつづけた」
のである。
「明らかに気絶したか、死亡したと思われるときでも、被験者たちはまだスイッチを押しつづけた」
似たような実験をおサルさんにした。
「ほかのサルに苦痛を与える代わりに、サルたちは自分が飢えに苦しみ、なかには12日間も絶えたサルもいた」
のだそうだ。
俄かには信じられない。
あなたは、深夜、あなたの車以外走っていない車道で人をはねた。
たぶん、あなたははねられた人を病院に運ぶなど、適切な処置をとるのだろう。