この道−小柴昌俊

東京新聞夕刊 【この道】 連載③ 小柴昌俊 2009/1/7(水) (一部抜粋しています)
アメリカのIMBグループは、カミオカンデのデータを基に観測結果を調べ直して、超新星ニュートリノの信号を見つけることができた。
ところがIMBの若い研究者が私の自宅に国際電話をかけてきて、「われわれがカミオカンデより先に信号を見つけた」というようなことを言う。
それで、私は電話口でその男にこう言ってやった。
「何を言っているんだ。こちらの論文の要旨がどういう経路でそっちに伝わり、その時刻で探して信号を見つけたことも、オレには全部わかっている。バカなことを言うと恥をかくぞ」。
それから30分ほどして、今度はIMBのボス格のひとりであるフレッド(フレデリック・ライネル米カルフォルニアアーバイン校教授)がグループミーティング中に電話をかけてきた。
フレッドは「バカなことを言うヤツがいて不愉快な思いをさせて悪かった。われわれの論文の最後にこういう文章をつけるから了承してくれ」と言って、IMBメンバー全員がいる前でこんな文章を読み上げた。
「われわれはモンブランの発表した時間で信号を調べたけれども信号はなかった。その後、カミオカンデの時間がわかったので調べたら信号が見つかった」。
私は「それでいいよ」と答えた。
フレッドはまともな男で、一流の科学者だ。
原子炉から出るニュートリノの観測に世界で初めて成功し、1995年にノーベル賞を受賞している。
私たちはアメリ物理学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に論文を出し、89年3月9日に文部省(当時)で記者会見して観測結果を公表した。
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LHCアトラス実験オフィシャルブログ 2008-12-26 (一部抜粋しています)
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10月19日のような大量放出事故が起こらないように、また問題が万一起こっても今回のような大きな被害がないように対策を立てつつあります。大きな問題が起こって、なかなか心理的にもきついところで、原因の究明に真摯に取り組み、改善方針を定め、実行にうつしていくというのは非常に大変なことだと思います。
 Evans氏を中心と下LHCのチームが、最高のチームであることを理事会は確信しました。
 ビームの入射が始まるのが早くても7月になるので、初めての衝突は夏以降になります。丁度1年遅れた感じですが、実験グループも測定器をより完璧にもっていくように調整しています。
    ・<注1> 欧州原子核研究機構(CERN)は、素粒子物理学において世界を先導する研究機関であり、ジュネーブに本拠を置く。現在のメンバー国は、オーストリア、ベルギー、ブルガリアチェコデンマークフィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャハンガリー、イタリア、オランダ、ノルウェーポーランドポルトガルスロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス。オブザーバ国(機関)は、インド、イスラエル日本、ロシア、アメリカ、トルコ、欧州委員会ユネスコ
http://lhcatlasj.exblog.jp/i3/
ニュートリノ天体物理学入門」 小柴昌俊ブルーバックス (一部抜粋しています)
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もっとさかのぼって、ビッグ・バンから10のマイナス45乗秒、つまり1秒の1兆分の1の、1兆分の1の、1兆分の1の、そのまた10億分の1くらいの時間内は、重力をも含めた、すべての力が統合された理論の支配する世界で、このころの全宇宙の直径は1ミリ以下だったでしょう。

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どうでもいい、じじぃの日記。
2002年、小柴博士が「天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献」によりノーベル物理学賞を受賞された。
受賞後に小柴博士がニュートリノを易しく書いた本「ニュートリノ天体物理学入門」を読んで初めてビッグ・バンなるものを知った。
それから、6年後の2008年、3人の日本人がノーベル物理学賞を受賞された。
欧州原子核研究機構(CERN)はスイスのジュネーヴ郊外にある世界最大の素粒子物理学の研究所である。
地下には全周27kmの円形加速器LHC」がフランスとの国境を横断して設置されている。
陽子ビームを加速し正面衝突させることによって、これまでにない高エネルギーでの素粒子反応を起こさせる実験だ。
日本人研究者は約100名だが、このCERNの実験はノーベル物理学賞を受賞された南部陽一郎博士のいくつかの理論を立証する実験の場でもあるのだ。
事故で本格的に「LHC」が稼働するのは今年の夏頃かららしい。
何が出てくるのか、待ちどうしい。CERNの日本人研究者も何かやってくれるだろう。
このCERNのプロジェクトになぜか、中国、韓国は参加していない。
東京新聞の夕刊に小柴博士の【この道】の連載が1月5日から始まった。
面白い。いろいろ駆け引きがあって、サスペンス小説を読んでいるみたいだ。
この連載記事にも、そのうちCERNの実験が出てくるだろう。
毎日が日曜日。早く夕刊がこないかな。