じじぃの「死ぬということ・第6章・合併症が怖い糖尿病!死の雑学」


糖尿病患者の寿命延びる 薬剤などの進歩で「主な死因」に変化、学会調査

2024/4/29 西日本新聞
日本で糖尿病と診断された人の寿命が、2020年までの10年間で男性が3・0年、女性が2・2年、それぞれ延びていることがわかりました。
https://www.nishinippon.co.jp/item/o/1206039/

中公新書 死ぬということ――医学的に、実務的に、文学的に

黒木登志夫【著】
【目次】
はじめに
第1章 人はみな、老いて死んでいく
第2章 世界最長寿国、日本
第3章 ピンピンと長生きする
第4章 半数以上の人が罹るがん
第5章 突然死が恐ろしい循環器疾患

第6章 合併症が怖い糖尿病

第7章 受け入れざるを得ない認知症
第8章 老衰死、自然な死
第9章 在宅死、孤独死安楽死
第10章 最期の日々
第11章 遺された人、残された物
第12章 理想的な死に方
終章 人はなぜ死ぬのか――寿命死と病死

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『死ぬということ――医学的に、実務的に、文学的に』

黒木登志夫/著 中央公論新社 2024年発行

「死ぬということ」は、いくら考えても分からない。自分がいなくなるということが分からないのだ。生死という大テーマを哲学や宗教の立場から解説した本は多いが、本書は医学者が記した、初めての医学的生死論である。といっても、内容は分かりやすい。事実に基づきつつ、数多くの短歌や映画を紹介しながら、ユーモアを交えてやさしく語る。加えて、介護施設や遺品整理など、実務的な情報も豊富な、必読の書である。

第6章 合併症が怖い糖尿病 より

1 症例

症例6-2 藤原道長
平安王朝時代、藤原道長(966~1027)は、朝廷の重要な官職を歴任し、摂政として天皇の補佐役を務めていた。3人の娘は、天皇に嫁ぎ、権力の絶頂にある一方、健康はむしばまれていった。藤原実資の日記『小右記(しょうゆうき)』によると、51歳のとき、「頻りに水を大量に飲む、(……)口渇き力なし、ただし食は例によって減ぜず」。53歳になると「御胸病発動し、重く悩み苦しみ給ふ」。翌年には視力が衰え、「二三尺相去る人の顔見えず」という状態になり、皮膚感染によって、62歳で逝去した。

人民が飢えに苦しむなかで、権力者は美食を享受し、権力闘争によるストレスが、道長を糖尿病に追いやったのであろう。

藤原道長は、糖尿病と心疾患、網膜症、感染症などの合併症に悩まされていたことがわかる。血管、神経、免疫など全身に及ぶ糖尿病の合併症は、1000年前から変わっていない。

2 世界の10%が糖尿病

世界糖尿病デー
11月14日は「世界糖尿病デー」である。1921年インスリンを発見したバンティング(Banting,F:1891年~1941)に敬意を表し、国連とWHOが彼の誕生日であるこの日に決めた。この日には世界中で、シンボルカラーであるブルーのライトアップが行われる。日本でも、東京タワーをはじめ、多くの施設が青色に証明される。

3 糖尿病を知る

(2)2型糖尿病
2型糖尿病は、食生活の乱れ、肥満、ストレス、喫煙などの生活習慣の乱れと加齢、遺伝などの背景により、徐々にインスリンの分泌が落ち、あるいはインスリン抵抗性になり、血糖が上がってくる。2型糖尿病は、全糖尿病の95%を占めている。

4 糖尿病が恐ろしいのは合併症

糖尿病が本当に恐ろしいのは、全身に張りめぐらされた血管や神経がじわじわと痛めつけられることである。血糖値が高い状態(180~200以上)が10年以上続くと、血管、神経が痛めつけられ、行く先々の臓器、組織が大きなダメージを受ける。

足の壊疽
高血糖により、手足の指などに痛みやしびれを感じる。進行して知覚が低下し、同時に血管が痛めつけられると、潰瘍と壊疽(えそ)により、組織が崩れて切断に追い込まれる。歌手の村田英雄は糖尿病による壊疽のため両下股を切断した。

虚血性心疾患と脳梗塞
動脈硬化のリスクは、境界型の段階でも上昇している。特に肥満、高血圧、脂質異常が加わったメタボリック・シンドロームになると、心筋梗塞脳梗塞のリスクは5倍以上になることが、九州大学の福岡県久山町での調査で明らかになっている。糖尿病患者の虚血性心疾患は、症状のはっきりしない無症候性のことがある。

(2024年10月17日に76歳で死去した俳優の西田敏行さんの死因は、「虚血性心疾患」だったことが明らかになった。日本人の死因の約5%を占め、前兆なく発症して突然死を引き起こすこともある)

糖尿病腎症
腎臓の濾過装置、糸球体の毛細管が傷つくと、腎臓の機能が悪くなり、ついには腎不全となる。こうなると、人工透析に頼るほかなくなる。透析患者には身体障害者手帳1級が交付される。2020年現在の透析患者、およそ35万人、その40%が糖尿病による腎障害である。2020年にあらたに腎透析に加わった糖尿病患者はおよそ1万6600万人に上る。腎透析の1年間の費用は約600万円、全額国が負担している。糖尿病による透析だけでも、8400億円の医療費がかかることになる。医療経済を考えても、糖尿病の合併症は大きな問題であることがわかるであろう。

糖尿病網膜症
糖尿病は網膜の血管を痛め、その結果失明することがある。中途失明者の13%(第3位)は糖尿病網膜症である(第1位は緑内障、第2位は網膜色素変性)。糖尿病は生活の質にも大きなダメージを与える。

5 糖尿病の経過

糖尿病患者の主な死因
意外なことに、糖尿病は死因ランキングで常に下位である。日本では死因の1%を占めているが、ワースト10には入らない(図、画像参照)。

糖尿病患者はどのような病気で死ぬのであろうか。日本で行なわれた大規模な糖尿病患者の追跡調査がある。1971年から2010年までの糖尿病患者4万5708人の予後を追跡調査した結果では糖尿病性昏睡による死亡は、0.6%にすぎない。糖尿病患者の主な死因は次のようになる。

 ・がん:38.3%
 ・感染症:17%
 ・循環器疾患:14.9%、うち脳疾患6.6%、虚血性心疾患4.8%、腎障害3.5%
 ・糖尿病性昏睡:0.6%

糖尿病患者は短命である。図に見るように糖尿病患者は平均寿命よりも、10年ほど短い。その差は男性で8.2年、女性では11.2年である。喫煙者と同じように、糖尿病患者も10年前後も寿命が短いのだ。なんとしてでも、病気をコントロールしてほしい。