じじぃの「カオス・地球_253_人類の終着点・フクヤマ・ロシアによるウクライナへの侵攻」

【台湾とウクライナ 挑戦する権威主義】(日本語ライブ配信) 読売国際会議2022 1月フォーラムⅡ

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=wn3YGLgaHXc

フランシス・フクヤマ 「歴史の終わり」から35年後 デモクラシーの現在地


ロシア・中国が「民主主義は時代遅れ」と公言「“歴史の終わり”から35年後の危機」【フランシス・フクヤマ

2024.2.25 ダイヤモンド・オンライン
1989年に発表した論文「歴史の終わり?」で、西側諸国の自由民主主義が、人間のイデオロギー的進化の終着点なのではないかとの見方を示した、政治学者のフランシス・フクヤマ氏。
彼は、冷戦終結後も争いが絶えない今の状況をどのように見ているのか。2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。
https://diamond.jp/articles/-/339309

朝日新書 人類の終着点―戦争、AI、ヒューマニティの未来

【目次】
はじめに

1 戦争、ニヒリズム、耐えがたい不平等を超えて

 エマニュエル・トッド 現代世界は「ローマ帝国」の崩壊後に似ている
 フランシス・フクヤマ 「歴史の終わり」から35年後 デモクラシーの現在地
2 「テクノロジー」は、世界をいかに変革するか?
 スティーブ・ロー 技術という「暴走列車」の終着駅はどこか?
 メレディス・ウィテカー×安宅和人×手塚眞 鼎談 進化し続けるAIは、人類の「福音」か「黙示録」か
3 支配者はだれか?私たちはどう生きるか?
 マルクス・ガブリエル 戦争とテクノロジーの彼岸 「人間性」の哲学
 岩間陽子×中島隆博 対談

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『人類の終着点―戦争、AI、ヒューマニティの未来』

トッド、フクヤマ、ロー、ウィテカー、ガブリエル/著 朝日新書 2024年発行

1 戦争、ニヒリズム、耐えがたい不平等を超えて より

フランシス・フクヤマ 「歴史の終わり」から35年後 デモクラシーの現在地

【「歴史の終わり?」から、リベラリズムの終わり?】
――フクヤマさんは1989年、ベルリンの壁崩壊後の数ヵ月前に、「歴史の終わり?」という論文を発表して、脚光を浴びました。この論文のタイトルには「?」(クエスチョンマーク)がついていました。
その後1992年には『歴史の終わり』という書籍も発表して、米国および世界の思想史で大きな節目となり、大きな注目を集めました。その理由は、多くの人がその時代の本質的な要素を内包していると感じたからだ、と私は思います。
もちろん、ソ連の崩壊もありました。論文の言葉を引用します。「冷戦の終結や戦後の歴史の特定の時期の終わりを目の当たりにしているだけではなく、歴史の終わりを目撃しているのだ。すなわち人類のイデオロギー的な進化と人間の統治の最終形態としての西洋の自由民主主義の普遍化なのだ」と。
あなたの当時の意図はどうであれ、この本は「西洋の勝利を正当化するもの」だと受け止められました。世界で大きな出来事が起こるたびに、この論の妥当性についてよく聞かれるとあなたは認めています。
2022年のロシアによるウクライナへの侵攻を目にして、「これは冷戦後の最後の一幕だ」とか「歴史の終わり論の終わり」だと、言う人もいるでしょう。あなたはこの出来事に関して、どのように考えていますか。
   
あなたのおっしゃることは、多くの点で正しいと思います。2023年の世界において、「自由民主主義がいかなる場所においても成功をおさめ得る唯一の代替手段だ」と言う人はいないでしょう。長い目で見れば、その主張は正しいかもしれません。しかし過去15年間、グローバル民主主義は後退しています。

権威主義的な2つの大きな勢力、ロシアと中国が自らの国家像を打ち出そうと試みています。両国とも「自由民主主義は時代遅れ」とか「死につつあるイデオロギーだ」と公言しています。現在の世界が大きな課題を抱えているのは、間違いありません。1989年や1992年よりも、楽観的にはなれない状況です。

――先ほど中国の話題が出ましたが、『歴史の終わり』を発展して以来、中国は自由民主主義になることはなく、非自由主義的で非民主主義的な体制が続いています。世界中の多くの人が、「民主主義や自由という価値が、中国の挑戦に対して耐え得るのかどうかが不透明だ」と感じています。中国は冷戦後システムの最大の授益者であり、最も成功した独裁国家と言えるでしょう。昨今の中国の挑戦に対して、あなたはどうお考えですか。
   
中国の改革の当初から、「それが自由民主主義に対する一番もっともらしく見える代替案だ」と私は主張しました。権威主義的な政治システムに、準市場経済が混じり合っています。それに、これほど短期間で成長した国は他にありません。その規模を考えると、信じられないくらいです。それが歴史的な達成であることは、間違いありません。

一方で、これが持続可能なモデルなのか、はっきりしていません。今後10年から20年間、中国を脅威とみなし続けることになるのかについても、明確ではありません。なぜなら、政治モデルと経済モデルに大きな問題があると思うからです。

実際に中国の成長率は、大きく鈍化しています。そしてその鈍化は、独裁的な意思決定システムの失敗と、直接関係があるように思えます。習近平氏は、鄧小平が始めた「自由経済改革」を支持しているとは思えませんし、その結果、中国経済は不調に陥っています。

経済以外の文化的、政治的な要素で、人々が真に称賛する中国のシステムがあると思えませんし、中国の文化は、自国以外に広がってはいません。「中国に住みたくてたまらない」と思う人は多くないでしょう。

経済的に大きく成長したとはいえ、社会的システムの面では優れているかどうかわかりません。今後数年、中国の動向を注視する必要があります。過去30年に比べると、今後10年はそれほど良い状態にはならないでしょう。

――2019年6月当時、私は朝日新聞のワシントンDCの特派員でした。トランプ政権に最も勢いがある時期でした。そのとき一時的に日本に帰国して、大阪でのG20サミットも取材しました。サミット前日、『フィナンシャル・タイムズ』がプーチン大統領の独占インタビューを掲載しました。そこで彼が「自由主義的な価値は時代遅れだ」と述べていたことに、私は衝撃を受けました。その数年後、プーチン氏のロシアはウクライナへの侵攻を開始しました。執拗(しつよう)で強固なプーチン氏の自由主義への攻撃と、ウクライナへの侵攻はどのように関係しているのでしょうか。
   
プーチンは、ソ連崩壊を決して受け入れることができないでしょう。彼はそれを「20世紀最大の悲劇だ」と形容しました。彼の外交政策は、可能な限り「ソ連を取り戻すこと」です。

そして、ソ連が失ったものの中で最も大事なのは、ウクライナです。彼は明確にそう述べています。これは、彼の行動が暗示している類のものではありません。彼は、公然と言ってのけたのです。「ウクライナは死活的な領土で、ロシアの一部であり、ロシアから除くことはできない」と。

「1991年以後の欧州の安定を覆す」という彼の野望を行動で示すのが、彼の外交政策です。これが「単に領土をめぐる問題ではない」と考える理由です。ウクライナへの侵攻は、欧州全体の政治的な秩序に対する紛争なのです。