じじぃの「科学・地球_490_温度から見た宇宙・生命・地球外生命・火星」

KisMars隕石ALH84001

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=WXiAtCteSGQ

ALH84001に含まれる鎖状構造 (電子顕微鏡画像)


アラン・ヒルズ84001

ウィキペディアWikipedia) より
アラン・ヒルズ84001(Allan Hills 84001、略称:ALH84001)は、南極大陸で採取された、火星起源の隕石の破片。
内部から細菌のような生命体の化石らしきものが確認され、地球外生命の痕跡ではないかと取り沙汰されたが、現在に至るも結論は出ていない。

電子顕微鏡による観察の結果、ALH84001には鎖状の構造をした、生物形態の残骸と考えられるものが含まれていることが発見された。この直径は20nmから100nmであり、極小細菌の一種であると推定された。これについては様々な議論が行われたが、現在に至るまで生物の痕跡であるという確証は出ていない。

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『温度から見た宇宙・物質・生命――ビッグバンから絶対零度の世界まで』

ジノ・セグレ/著、桜井邦朋/訳 ブルーバックス 2004年発行

第4章 極限状況下の生命 より

地球外生命

小惑星が規則的な軌道に収まる以前には、恐竜を絶滅させた時のような衝突が頻繁に起こった。これらの衝突の中で最大のものが、45億年前に起こっている。生成の最終段階にあった地球に、同じ程度の大きさの小惑星が、かすめるようにぶつかった。この衝突により、地表が大きくはぎとられ、宇宙空間に放りだされた。
放りだされた残骸の大部分は衝突によって液状化し、軌道運動を始め、冷えて月となった。信じがたい話だが、この説の正しさは、アポロ宇宙飛行士が回収した月の岩石によって確認されている。また、この衝突で地球の自転軸は傾いてしまった。この「ビッグ・スプラット」と呼ばれる衝突が月を作り出し、地球を傾けて季節を作りだし、さらに、地球の自転にも影響を及ぼして昼と夜が規則的に入れ替わるようになった。
極めて多量のエネルギーが、初期にくり返し起こった衝突で解放され、このエネルギーの多くが、熱として地球に残った。この蓄えられた熱と自然の放射能が、今でも地球内部の主要な2つのエネルギー源である。これが火山活動やプレートの移動、それに地球を変化させるあらゆる熱活動をひき起こしている。衝突による当時のクレーターはどこにも見られない。その理由は、熱が地球の表面を作り変えてしまったからだ。これを対照的に、水星、火星、それに月は、衝突の証拠を見せている。金星の表面は、地球と同様に熱により作り変えられているので、このような証拠を見せてはくれない。

最初の6億年から7億年にわたる地球の温度は、いつ、どこで生命が発生したのかを決定するカギである。最古の化石は、地球と月ができてから約7億年後にまでさかのぼれる。進化を研究する人の大部分は、この期間が、生命が誕生するのに適当だったと考えている。
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太陽系が形成された46億年前から地球上に最初の生命が現れるまでの7億年の期間には、火星は生命に適した環境であったようである。現在死滅している火星の火山活動は、大きな温室効果をもたらし、液体の水が存在するのに十分な二酸化炭素を生成した。
もし地球の生命が火星で火星で誕生したのなら、この生命はどのようにして地球にまで来たのだろうか、そして、この旅の間どのようにして生き長らえたのであろうか。火星の物質が今でも地球に到来することはわかっているので、小惑星の衝突がずっと激しくもっと頻繁だった時には、こうした旅の機会は、ずっと多くあった。生存の問題については、再び好極限性微生物が登場する。火星から地球への旅はやさしいものではないが、ある種の非常に強靭な生命体なら実際成し遂げたかもしれない。もしかしたら、岩石の割れ目にはまり、太陽紫外線からさえぎられていたのかもしれない。
地球外生命に対する関心は、1996年8月7日、首都ワシントンでNASAが開いた記者会見によってかき立てられた。この会見は、南極大陸で見つかった重さ約2キログラムの火星からの隕石、ALH84001の同定結果に関するものであった。
南極は、隕石を見つけるのに最適の場所である。その理由は、氷河の明るく白い表面に対して隕石が際立って見えることにある。氷のゆっくりとした流れは、氷河が山に対しせり上がる場所に隕石を集積していく傾向があり、そこが自然の隕石集積場となっているのである。
数千の隕石が、南極のアランヒル、略してALHという絶好の場所ですでに見つかっている。しかし問題の隕石は、他の隕石に比べて少し違っていて、少しだけ古いようであった。この隕石の歴史は、今では完全にわかっている。45億年前に融けた岩石からできたこの隕石は、その5億年ほど後に加勢が大きな小惑星とぶつかった時、多分、熱的な衝撃を受けた。そしてその後30億年少し前までにわたって、水がこの隕石ALH84001の割れ目の中を流れていた。
1600万年前、多分他の隕石が火星に衝突して、隕石ALH84001を火星から放りだした。そして、今から1万3000年前に地球に落ちたのだった。この隕石がどいうやって地球にやって来たかがわかっただけでは、まだ問題の半分しかわかっていない。
隕石は、大気中に飛び込んだ時、約500度C以上加熱される。これらの隕石は夏の夜に”流星”となって見える。ありがたいことに、熱は隕石の奥深くまでは伝わらないので、岩石が割れない限り、隕石の内部は温度上昇を切りぬける。

ALH84001が人々を驚かせたのは、この隕石の中のソーセージ状の構造が、地球上の最小のバクテリアに似ていたからである。この隕石の岩石中には、しばしばバクテリアにより作られる化合物が含まれていた。この証拠は、かつて火星上に生命が存在していたことを示しているのだろうか。

地球外生命が地球に到来するという考えは、SF小説の格好の題材だ。こうした考え方は、生物学、化学、それに物理学の法則に背くことはない。しかし、これらの法則を支持する人の多くは、宇宙旅行について考える際にもこれらの法則を当てはめようとしている。地球温暖化を初めて計算した人として前章に登場したアーレニウスは、今から1世紀以上も前に、地球外から到来する生命について考えていた。彼は、熱に耐性をもつ微生物が宇宙空間のいたる所に浮遊しており、それが落ち着いた場所に留まると発芽するという考えに思いいたった。アーレニウスは、こうした仮説を「パンスペルミア」つまり「胚種広布説」と名づけた。
20世紀には、このパンスペルミアという考え方が再び取り上げられ、現代分子生物学の大家であるフランシス・クリックレスリー・オーゲルの2人により、強力に推進されている。彼らの説明では、太陽系外に存在する文明が送りだした無人宇宙船に、これらの種子が搭載されていたというのである。