じじぃの「科学・地球_480_量子的世界像・弦理論とは何ですか」

日本科学未来館『9次元からきた男』デモ映像

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=RYnTOmhKwyY&t=24s

3Dドームシアター作品 『9次元からきた男』


9次元を体感せよ! リニューアルした日本科学未来館の「9次元から来た男」を360度映像でチェック

2016年4月20日 ITmedia PC USER
●眼前で繰り広げられる「9次元」の世界―― 超弦理論を体感!
新たに加わった展示で一番の注目株が、3Dドームシアターで上映する映像作品「9次元からきた男」だ。
この作品は、「呪怨」「魔女の宅急便」などを手掛けた清水崇監督による作品だ。監修にはカリフォルニア工科大学教授の大栗博司氏を迎え、科学的な根拠を保証している。
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1604/20/news051.html

『量子的世界像 101の新知識』

ケネス・フォード/著、青木薫塩原通緒/訳 ブルーバックス 2014年発行

XV 量子物理学に残された謎 より

弦(ひも)理論とは何ですか

この第XV部で取りあげたほかの項目のほとんどと同じく、弦理論もまた、専門家でない人に向けて説明しようと思えば、それだけでも何冊も本が書けるような問題である。ここでは簡単に、この難解な理論の主要な特徴だけを拾ってみよう。
自然は真空を嫌うと言ったのはアリストテレスだが、現代の物理学者は特異点を嫌う。特異点とは、空間的にも時間的にも広がりを持たない、ものや事象のことである。それでも量子物理学は特異点を含んでいる。電子などの基本粒子は空間的広がりを持たないとされ、粒子間の相互作用は空間のある一点で、瞬間的に起こるとされる。これをどうにかしてやろうと、現代の理論研究者の一部が果敢に立ち上がった。彼らは特異点をただ毛嫌いするのではなく、追い払う方法を探している。そんな物理学者たちが考えた量子物理学(と重力)の拡張版が「弦理論」であり、これにしたがえば、粒子は一点に存在しているのではない。じつは粒子は振動する微小な弦で、ループ状か、両端を持った線分状になっている。この弦は想像もつかないほど小さく、その振動は想像もつかないほど速い。弦のスケールは、時間的にも空間的にも、いわゆるプランクスケール――実験で直接探ることのできる微小なスケールよりも、何十桁も小さなスケール(項目93を参照 プランク長さとは何ですか。量子の泡とはなんですか)――か、それよりもわずかに大きい程度である。そんな極微のスケールの世界について確実にわかっていると言えるのは、そこでは時空そのものが量子のダンスに加わって「量子の泡」になっているということだけだ。
弦理論によれば、質量や電荷やスピンなどがさまざまに異なる各種の粒子は、微小な弦がさまざまに異なるモードで振動する結果として生じる。バイオリンの弦をさまざまに振動させることにより、さまざまな音が出せるのと同じことだと思えばいい。弦理論は数学的なエレガントさと、量子論と重力理論を統一できるかもしれないという刺激的な可能性により、多くの優秀な頭脳を魅了してきた。それと同時に、弦理論には穏やかならざる面もある。たとえば弦理論では、宇宙における次元の数が、わたしたちの知っている4つ(時間も含めて)ではなく、10か11になるとされている。しかしいまのところ、弦理論はわたしたちに測定できる世界については何も言うべきことを持っていない。この理論には、現在の実験で検証できることが何もないのだ。このように非常に魅力的でありながら、あまりにも現実とかけ離れているために、一部の物理学者からは批判さえ出ている。弦理論があまりにも多くの才能を、物理学のほかの分野から無駄に流出させているというのだ。弦理論の数字ものならず、弦理論の「社会学」が論じられているほどである。

現在の実験で探ることのできる最小の次元が約10-18メートルで、弦理論の扱っている仮説上の減少がそれより17桁も小さい10-35メートルあたりの次元で起こっているというなら、そんな理論を実験で検証できるはずなどないではないか! この問いに対しては、いくつかの答えがある。
ひとつは、「実験で直接検証できなくともかまわない」というものである。もし弦理論がわたしたちの知っている物理世界のあれこれに完全に納得のいく説明を与えてくれて、自然の記述に単純さをもたらしたいとするわたしたちの切望も満たしてくれるのならば、たとえこの理論が新しいことを何も予測しなくても、わたしたちはこれを受け入れ、これを信じたくなるだろう、というのである。
また別の答えは、「だから駄目だとなぜ言えるのか」というものだ。どこへ連れて行かれるからわからないからといって、魅力的な道を進まないのはもったいない。この行進はやめるべきでない。これまでの物理学の画期的な進展の多くも、最初は現実世界と無関係のように思われた研究から発しているのだと、と。
そして第3の答えもある。いまは時間と距離のスケールのギャップが大きすぎて乗り越えられないように思えても、検証可能な予言を思いつく可能性だって十分にある。いつかどこかの弦理論研究者が「いま計算したら、ミュー粒子の質量は電子の質量の206.768倍になるべきだとわかったよ」と言いだすかもしれない。そうしたら、弦理論の株は安泰だと思えるし、その研究者はストックホルムへの招待を受けるに違いない。