じじぃの「脳科学・アストロサイト・アルツハイマー病の治療?面白い雑学」

eneration and Use of iPSC derived Microglia to Study Neurodegenerative Diseases

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Vv6BTARh0uo

柔らかくしなやかな脳の働きとは?

   

科学的に「頭を良くする方法」はあるのか? 鍵はアストロサイトの活性化にある!(毛内 拡)

2021.03.18
脳細胞のはたらきの観点から言うと、科学的にみて"頭が柔らかい"状態というのは、脳細胞同士のコミュニケーションが円滑で効率が良いことを指します。脳細胞の情報伝達(シナプス伝達)は、常に一定ではなく、状況に応じて強めたり弱めたりすることでその効率が長期にわたって変化することがわかっています。この現象は「シナプス可塑性(かそせい)」といいます。
「可塑性」というのは通常聞き慣れない言葉かもしれませんが、英語で言うと「plasticity」と言います。これは、プラスチックと同じ意味の言葉です。私たちの身の回りにあるプラスチック素材のものは、柔らかく、自在に形を変えることができます。それと同様、脳のシナプス伝達も状況に応じて変化できるのです。
さらに最新の研究では、グリア細胞という脳細胞の一種であるアストロサイトがシナプス可塑性の調節をおこなうことで、脳の情報処理に関与している証拠が見つかってきています。
https://gendai.media/articles/-/80776

『面白くて眠れなくなる脳科学

毛内拡/著 PHP研究所 2022年発行

PartⅢ 脳の可能性は無限大――「誰でも頭が良くなる装置」は実現できる? より

光や音で脳を洗い流す

他に人工的にグリア細胞を活性化する方法はあるのでしょうか。
経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)と呼ばれる方法は、頭蓋骨の上から非常に弱い電流を10~30分間流す方法です。刺激中はまったく何も感じないといいますが、刺激後は気分がスッキリしたり、パフォーマンスが向上したりすることが報告されています。

うつ病の緩和や、アルツハイマー病の進行抑制や、脳卒中後のリハビリの促進などさまざまな良い効果が続々と報告されています。また、健常者でも集中力がアップし、学習効果が向上したり、記憶力が良くなるなどの効果もあり、医療だけでなくスポーツや教育などさまざまな分野への応用が期待されています。
しかし、いまだに医療行為として許可を受けていないのは、なぜ効果があるのかがまったくわかっていないからだといいます。
私たちが行った研究では、10分間の脳の微弱な電気刺激によって、脳の電気活動には大きな変化はない一方、グリア細胞のアストロサイトが活性化されていることを、マウスを使った実験から明らかにしました。この活性化は、ノルアドレナリンによって引き起こされていました。
また脳刺激後からシナプス可塑性が生じ、3時間程度持続しましたが、そのメカニズムにアストロサイトが不可欠な働きをしていることをマウスを用いて実証しました。これまで、これらの電気刺激は、ニューロンへの安全性だけを考慮に入れていましたが、今後はグリア細胞も含めて安全性を議論する必要があります。
電気刺激を安易に行うことは難しいでしが、目や耳への光や音を使った刺激であれば簡単にできるかもしれません。アメリカの研究者が行った研究では、1秒間に40回の光や音刺激を行うことで、脳を活性化させられる可能性が示されました。
アルツハイマー病の患者では、集中力などの認知機能と関係が高い脳波である速波が低下していることが知られています。速波は、1秒間に40回程度の波で、ガンマ波とも呼ばれています。
これまでに、アルツハイマー病モデルマウスを用いた研究から、ガンマ波と同じ1秒間に40回の高頻度で光の点滅を繰り返すと、アルツハイマー病と関係があるアミロイドβが脳に溜まるのを阻止することができるだけでなく、既に沈着してしまったものを半分まで減らすことができることが報告されました。

グリア細胞に働きかける治療法

また、光と音を組み合われることで、相乗効果が生まれることも確かめられています。実際、これらの光や音によって、これまで弱まっていたガンマ線が回復したのです。さらに、弱まっていた記憶力の改善効果も見られました。

このような効果の背景には、じつはグリア細胞の関与があることが判明しています。ここで活躍していると考えられるのは、ミクログリアと呼ばれるグリア細胞です。ミクログリアは、脳内で免疫を担当している細胞で、不要なタンパク質などを除去する能力を持っています。アルツハイマー病モデルマウスで、アミロイドβが減少した理由として、このミクログリアによる作用が考えられます。

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これまで脳刺激法の主なターゲットはニューロンでしたが、グリア細胞を標的とした治療法が注目を集めています。