Shepard Fairey + The Obama Poster (Boing Boing)
Shepard Fairey
May 21, 2022 HYPEBEAST
●オバマ元大統領のキャンペーンポスターの原画が1億円弱で売却
Shepard Fairey(シェパード・フェアリー)の代表作の1つであるBarack Obama(バラック・オバマ)元大統領を描いた“HOPE”のアートワークが、『Heritage Auctions』にて73万5,000ドル(約9,400万円)で売却された。
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『世界を変えた100のポスター 下 1939-2019年』
コリン・ソルター/著、角敦子/訳 原書房 2021年発行
096 オバマの「希望」 より
Obama:Hope[2008年]
先見性のある政治家、バラク・オバマというイメージは1枚のポスターに集約されている。これがなければ、2008年の民主党大統領候補の指名は勝ち取れなかったかもしれない。このポスターは1000もの文化的遺伝子(ミーム)を生み、ポップカルチャーの一部となった。だが制作したアーティストは、選挙協力したまさしくその政権と衝突することになった。
2008年1月、「イリノイ州上院議員」のバラク・オバマは民主党のアメリカ大統領候補の指名を勝ちとろうとして苦戦していた。対立候補のヒラリー・クリントンが世論調査で水をあけていたので、オバマ選挙チームはいろいろな提案を受け入れていた。
急進的なアーティスト、シェパード・フェアリーはオバマを支持しており、指名選のためになんらかのデザインをしたいと考えていた。スケートボーダーであるフェアリーは、「アンドレ・ザ・ジャイアントには仲間がいるAndre Giant has a Posse」という、電柱などにゲリラ的に貼るステッカーを一番の自慢にしていた。そのため、自分の反体制派としての評判がオバマにとってマイナスになるのではないかと心配した。だが、オバマ陣営はデザイナーとして雇うことはないにしても、地域の活動家としての支援を歓迎するので遠慮は無用だと伝えてきた。
フェアリーはポスターのデザインを1日で仕上げた。それはステンシルを用い、赤と白、青で着色して制作したポップアートの肖像画だった。ベースにしたのはオバマが上を見上げている印象的な写真だ。このポーズは先見性を示した過去のアメリカの若いリーダー
ジョン・F・ケネディのポースを真似ている。また、このデザインはもうひとつの挑戦者、チェ・ゲバラのクラシックポスターを彷彿させた。3色の取り合わせは星条旗を思われただけでなく、オバマの人種的イメージを中和している。これこそがリーダーの肖像だった。進歩的だが愛国的、頼りになるが先見性がある。ポスターの下には唯一「進歩」の文字があった。
オバマ・チームは1ヵ所だけ変更を加えた。「進歩」を「希望」にしたのだ。フェアリーは初版の700枚を自費で印刷した。そのうち自分の活動のネットワークを通じて350枚を配布し、350枚をさらなる印刷の資金にするために販売した。2週間後のスーパーチューズデー[各地で予備選挙が一斉に行なわれる]までには、4000枚が刷られた。オバマが民主党の指名を勝ちとると、ポスターは一躍注目の的になり、有権者のオバマ人気を反映すると同時に押し上げた。オバマが大統領に選出された頃には、このデザインのポスターが35万枚、ステッカーが50万枚作られていた。
フェアリーの肖像画は新たな文化的アイコンとなり、現代のヴィジュアルボキャブラリー[アート制作における表現力]にくわわった。現在はポップスター、政治家を問わず無数のバージョンが存在する。ジョン・レノン、『バットマン』のジョーカー、ボディービルのアーノルド・リフト、ミスター・ビーン……。アプリやオンラインのオバマ・ポスターメーカーで、誰もが自分の写真をこの「希望」ポスター風に加工できる。
フェアリーはオバマの大統領就任記念ポスターをあたらしく作るよう要請された。2008年には、タイム誌の表紙に掲載される「パーソン・オブ・ザ・イヤー」のデザインを依頼されている。
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ところがその後、フェアリーがデザインのベースにした写真の著作権をめぐり、オバマ政権の司法省が訴訟を起こした。証拠の改竄を理由に、フェアリーを禁固刑に処すべきだと主張したのだ。結局のところ、フェアリーは2年の執行猶予と罰金2万5000ドルで実刑を免れた。「希望」が(拘束の)経験に勝利を収めたといったところだろう。