じじぃの「科学・地球_207_スパコン富岳後の日本・ファウンドリ・台湾TSMC」

Taiwan's TSMC to start building chip plant in Japan in 2022

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JItgoZNzfiw

台湾TSMCが熊本に工場を建設

台湾TSMCが熊本に工場を建設する本当の理由

2021年10月18日 Yahoo!ニュース
TSMCが熊本に工場を建設
半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCが、日本に新しい工場を建設する方針を明らかにしたことを受け、萩生田経済産業大臣は10月15日、経済安全保障の観点から手厚く支援して行く姿勢を示した。「必要な予算の確保と、複数年度にわたる支援の枠組みを速やかに構築したい」としている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb9002b5ef76a8d71b231cfbb37972b51e9913f1

中公新書ラクレ 「スパコン富岳」後の日本――科学技術立国は復活できるか

小林雅一(著)
はじめに――日本の科学技術が世界を再びリードする日
第1章 富岳(Fugaku)世界No.1の衝撃
第2章 AI半導体とハイテク・ジャパン復活の好機
第3章 富岳をどう活用して成果を出すか――新型コロナ対策、がんゲノム医療、宇宙シミュレーション
第4章 米中ハイテク覇権争いと日本――エクサ・スケールをめぐる熾烈な国際競争
第5章 ネクスト・ステージ:量子コンピュータ 日本の実力

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『「スパコン富岳」後の日本ー科学技術立国は復活できるか』

小林雅一/著 中公新書ラクレ 2021年発行

第4章 米中ハイテク覇権争いと日本――エクサ・スケールをめぐる熾烈な国際競争 より

近年のトランプ政権下で始まった米中貿易戦争は、やがて中国のIT企業「ファーウェイ」や動画サービス「ティックトック」などをめぐるハイテク派遣争いへと発展し、2021年に発足したバイデン政権へと引き継がれた。それは両国の狭間で身を屈めてチャンスを窺う巨大経済圏EUや日本を巻き込み、国際政治と先端技術が複雑な絡み合う「テクノ・ポリティクス」時代の幕開けを告げている。
これを象徴するのが、スーパーコンピュータの開発競争だ。スパコンが次なる「エクサ・スケール(1000ペタ級)」に向けて世代交代の時期を迎える中、「富岳の世界ナンバーワンは短期間に終わる」との見通しも当初囁かれたが、間もなく相反する見方も出てきた。米中のハイテク覇権争いの影響などから、両国による次世代スパコンの開発プロジェクトが滞る気配があるのだ。これらエクサ級のスパコンが実現されない限り、優に440ペタ以上の性能を誇る富岳の世界王座は当面揺るがない。
『ニューヨーク・タイムス』の報道によれば、世界初のエクサ・スケールに到達するスパコンの有力候補と見なされたオーロラの開発がかなり遅れているという。オーロラは米エネルギー省の発注を受け、米インテルとHPEクレイが共同で開発を進めている次世代スパコンだ。
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このオーロラ以外にも、米国にはエクサ・スケールをめざして開発中のスパコンが2台ある。テネシー州オークリッジ国立研究所に納入予定の「フロンティア」とカリフォルニア州ローレンス・リバモア国立研究所に入る予定の「エル・キャビタン」だ。が、いずれの完成時期も(開発が順調に進んでも)21年後半~22年であることから、少なくも米国勢が21年中にエクサ級の次世代スパコンを稼働させるのは微妙な情勢となってきた。

エクサ級CPUの開発をインテルに委託

インテルは年間売上額では世界最大の半導体メーカーで、かつては基本ソフト「ウインドウズ」を提供するマイクロソフトと共に「ウィンテル陣営」を築き、世界のスパコンやIT産業をリードしてきた。細菌はスマホやIoTなどモバイル端末が勢いを増す中、インテルはARM陣営に押され気味だが、それでも今なお半導体開発における優れた技術力を有している点に変わりはない。
しかしエネルギー省が次世代スパコンの開発をインテルに任せたのは、それだけが理由ではない。もう1つの大きな理由は、同社が半導体製品の設計から製造まで全工程をカバーするオールラウンド・プレイヤー(垂直統合型メーカー)であることだ。
第2章でも紹介したように、1980年代に世界市場を席巻した日本の半導体メーカーが「日米半導体協定」などを境に衰退した後、90年代に世界の半導体産業は「設計(開発)」と「製造」が分離する水平分業方式へと移行していった。このうちCPUやGPU、SoCなど半導体製品の設計(と販売)のみ手掛けるメーカーは「ファブレス」、逆に製造に特化したメーカーは「ファウンドリ」と呼ばれる。
このように水平分業化した主な理由は、半導体の製造工場における「クリーンルーム」など巨額の設備投資や維持コストなどを単独企業では賄いきれなくなってきたことだ。結果、新興メーカーの多くは半導体の設計のみを行うファブレス企業となり、毎年何十億ドル(何千億円)もの巨額投資を要する半導体製品の製造(大量生産)の部分は、世界でも限られた数のファウンドリに任せるようになった。
これらファウンドリの中でも、世界最大の売上額を計上すると共に、最先端の製造技術を有するのが台湾のTSMC(台湾積体電路製造)だ。米国のエヌビディアやクアルコムAMD、あるいは(本来、半導体開発が専門ではないが)アップルなど名立たるメーカーはいずれもファブレスとして、CPUやGPUなど半導体製品の設計に徹し、その製造はTSMCに委託している。

また理研富士通が共同開発した富岳のCPU・A64FXも、その製造はTSMCが受託した。

今や、このような分業方式が世界の主流なのだ。

米国政府はサプライチェーンを国内に回帰させたい

そうした中で、米エネルギー省はエクサ・スケールのオーロラ開発をあえて海外ファウンドリに依存しない国内の垂直統合型メーカー、インテルに発注することにした。ここには、ある種、地政学的な理由が働いたとされる。仮にTSMCにプロセッサの製造を委託したとすれば、今後もしも中台関係が悪化し、中国が台湾の貨物船舶を海上封鎖するなどの事態が生じた場合、米国のスパコン開発は停止してしまう。
このケースに限らず米国政府は、CPUのような基幹部品の完全内製化をめざしているとされる。半導体技術は単にスパコンに止まらず、今後のAIや5GをはじめIT産業の要となるテクノロジー周りであるだけに、海外メーカー半導体の製造を任せれば、それらを介して機密情報が中国など対抗勢力に流出したり、情報通信システムがサイバー攻撃を受けたりする恐れがあると見ているからだ。
特にスパコンは核実験のシミュレーションや通信ネットワークの暗号解読など、安全保障上の最重要事項に関わってくる。これら機密情報の漏洩を防ぐためにも、米国政府はいったんオフショア化(海外展開)した半導体など重要部品のサプライチェーンを国内に回帰させたいのだ。
米エネルギー省がオーロラの開発をインテルに発注した動機はそこにある。インテルに任せれば、TSMCのような海外メーカーに頼ることなく、米国内で設計から製造まで一貫して行うことができるからだ。
ただ、そこには製造技術上の限界が待ち受けていた。インテルはエクサ級の次世代スパコンに搭載される高速プロセッサを「設計」することはできても、それを「製造」する技術を持ち合わせていない。そうした最先端の製造技術を自社工場に導入して生産ラインを立ち上げる点で、TSMCサムスン電子など海外勢に遅れをとってしまったのだ。
CPUやGPUなど半導体製品(部品)の製造技術の指標とされるのが、「プロセス・ルール(最小加工寸法)と呼ばれる微細化の限界値だ。これはプロセス技術とも呼ばれる。
TSMC半導体の「製造」に特化したメーカーだけあって、常に製造技術で世界最高であることを心がけている。だから現時点で最先端となる「5~7ナノ・メートル」のプロセス技術を早期に導入することに成功した。

米国の制裁で停滞する中国の半導体技術

米国政府による厳しい技術禁輸措置を受け、中国のメーカーや研究機関などは次世代スパコンに搭載されるプロセッサなどの自主開発を加速すると見られている。しかし彼らが仮に、エクサ級のCPUを自主開発(設計)できるレベルに達したとしても、それを「製造」することができない。なぜなら中国には、台湾TSMCや韓国サムスン電子に匹敵する最先端工場が存在しないからだ。
確かに中国国内には、2000年に設立された国策企業「中芯国際集成電路製造(SMIC)」というファウンドリが存在する。同社は中国最大の半導体メーカーにして、CPUなどロジックLSIの受注額では世界5位だが、台湾TSMCなぢ先頭グループに匹敵する最先端のチップ製造技術は未だ有していない。
TSMCは早々と自社工場の製造ラインに、最先端となる5~7ナノ・メートルのプロセス技術を導入することに成功している。富岳のCPU・A64FXは、それらのうち7ナノ・メートルの技術で製造された。おそらくエクサ・スケールのスパコンに搭載される次世代CPUも5~7ナノ・メートル、あるいはさらにミクロの微細加工技術が必要とされるだろう。
これに対し、SMICが現時点で半導体製品を量産できる段階にあるプロセス技術12~14ナノ・メートル。これではエクサ級のCPUを製造することは到底不可能だ。