じじぃの「科学・地球_203_スパコン富岳後の日本・はじめに」

「富岳」3期連続世界一 スパコン性能ランキングで

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=31-0uZT28lg

スパコンランキング世界第1位になった「富岳」の前で記念撮影


スパコン世界4冠の「富岳」、そのすごさを丸っと解説!

2020年06月25日 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
理研富士通、共同開発快挙
理化学研究所富士通と共同で開発したスーパーコンピューター「富岳」が快挙を成し遂げた。
高性能計算技術に関する国際会議「ISC2020」で22日発表された演算速度を競う世界ランキングで1位を獲得し、日本勢として約8年半ぶりに世界首位を奪還した。また世界主要ランキングの4部門で世界で初めて同時に首位となり、総合的な性能の高さを証明した格好だ。速度と使いやすさを重視した富岳の今後が注目される。
https://newswitch.jp/p/22744

中公新書ラクレ 「スパコン富岳」後の日本――科学技術立国は復活できるか

小林雅一(著)
はじめに――日本の科学技術が世界を再びリードする日
第1章 富岳(Fugaku)世界No.1の衝撃
第2章 AI半導体とハイテク・ジャパン復活の好機
第3章 富岳をどう活用して成果を出すか――新型コロナ対策、がんゲノム医療、宇宙シミュレーション
第4章 米中ハイテク覇権争いと日本――エクサ・スケールをめぐる熾烈な国際競争
第5章 ネクスト・ステージ:量子コンピュータ 日本の実力

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『「スパコン富岳」後の日本ー科学技術立国は復活できるか』

小林雅一/著 中公新書ラクレ 2021年発行

はじめに――日本の科学技術が世界を再びリードする日 より

国際社会における日本の競争力低下が取り沙汰されて久しい。中でも科学技術力の弱体化はしばしば指摘されるところで、確かに日本の論文発表数や世界大学ランキングの順位などは近年停滞、ないしは下落傾向にある。加速する少子高齢化や人口減少なども相まって、今後日本が衰退の道を辿るのは必至と見る向きも多いが、それは本当だろうか。
そうした悲観論者に問いたい。ではなぜそのような国が今、世界ナンバーワンのスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を作り出すことができたのだろうか?
日本の理化学研究所(以下、理研)と富士通が共同開発した「富岳」は2020年、スパコンの計算速度などを競う世界ランキングで2期連続の王座に就いた。巨額の開発資金そして大規模な設計チームの並み外れた頭脳と集中力が求められるスパコン・プロジェクトは、その国の経済力や科学技術力など国力を反映すると言われる(詳細は第1章)。
実際、過去4半世紀以上に及ぶ世界ランキングで首位に認定されたのは日本と米国、そして中国のスパコンだけ。しかも直近では日本の富岳が1位である。これを見る限り、日本の科学技術力は今なお健在で、世界でもトップクラスに位置していると見るのが妥当ではないか。確かに往年の勢いはないが、だからと言って今後も衰退の一途を辿ると決めつけることもできまい。
問題は競争力の低下に歯止めをかけ、再び上昇に展示させるには、どうすればいいかということだ。単に人口が減少するという理由だけで、それができないと断じるのは早計に過ぎるだろう。
本書は富岳のようなスパコンの中核をなす「半導体」、そしてその活用対象として今、最も期待されている「AI(人工知能)」という2つの分野に焦点を当て、日本が再び科学技術立国として歩み出すための道を探る。
半導体は古くて新しい分野だ。
かつて1980年代、日本は「DRAMDynamic Random Access Memory)」とよばれる記憶用部品を中心に世界の半導体市場を席巻した。半導体は「産業の米」と言われ、この分野を完全に掌握した日本はソニーウォークマン」に代表される便利で洒落た電気製品を世界市場に出荷して巨額の貿易黒字を稼ぎ出した。当時、日本は「ハイテク・ジャパン」や「電子立国」などと世界から称賛された。
しかし、その後の日米半導体協定などを境に「日の丸」半導体、ひいては日本のエレクトロニクス産業は競争力を失っていった。その後、90年代のインターネット・ブームを境に、世界のハイテク産業を支配したのはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される米国の巨大IT企業だった。
今、その彼らがあらためて半導体技術に力を注いでいる。折からのAIブームに乗って、「ディープラーニング」と呼ばれる機械学習を高速にこなすAIチップの自主開発に乗り出したのだ。その理由は、AIを使った製品やサービスを生み出すソフトウェア開発競争が飽和し、今後はむしろ半導体のようなハードウェア技術がこの分野における競争力の源泉になると見られるからだ。
ここに日本の勝機が生まれようとしている。日本の半導体産業には底力があり、その卓越した設計能力は今なお健在だ。理研富士通が自主開発し、富岳に搭載した超高速プロセッサ「A64FX」はAI処理も得意とする。これは世界的にも高い評価を受け、米国のスパコン・メーカー「HPEクレイ」も今後このプロセッサを自社製のマシンに搭載することを決めた。
A64FXには、80年代から日本のエレクトロニクス・メーカーが技を磨き、その後も脈々と受け継がれてきたベクトル型プロセッサ、あるいは「SIMD」と呼ばれる技術が活かされている。こうした日本の伝統的技術が今、AI時代に装いも新たに蘇ろうとしているのだ(詳細は第2章)。
それは単にスパコン開発に止まらない。AIチップのような最近の半導体製品は「ARM(アーム)」と呼ばれる標準アーキテクチャ(基本設計)に従って。スマホタブレットなどモバイル端末からウェアラブル端末、あるいはデータセンターに設置されるクラウド・サーバーや今後の自動運転車などIoT(モノのインターネット)製品までさまざまな分野に用途を広げている。
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本書は富岳に象徴される日本の科学技術力を主なテーマとしているが、各章には開発現場の責任者や関係各界の研究者、専門家らに取材したインタビューも含まれている。これらは月刊『中央公論』に昨年から今年にかけて連載された「スパコン世界一『富岳』の正体」と題する記事を大幅に加筆・増強した内容だ。本書全体を通して、「科学技術国」日本の復活を考えるヒントとしていただければ幸いだ。