じじぃの「歴史・思想_502_日本の論点2021・国際金融都市構想・東京・シンガポール」

Top 10 Financial Centres 2020

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=KUHONhlsuT8

東京国際金融センター「構想」

東京国際金融センター「構想」は、「実現」フェーズに移行中。課題と解決への糸口は?

2021年1月18日 リフィニティブ
世界中の多くの都市の中から、東京が高い評価を受けていることは喜ばしいことだが、その一方で、国際金融センターとして、ニューヨークやロンドンと比肩するようになるには、またアジア地域においてシンガポールや香港と比較してみても、金融ビジネスの集積という観点では、まだ日本は多くの余地がある状況であろう。
特にアジア地域内での課題として、よく取り上げられるのは「税制」と「登録手続きの容易さ/煩雑さ」の2点。
まず、今回の金融センター構想に関する議論において、過去には避けられていた税制に関する議論が始まっていることは、大きなステップアップと言ってもよいであろう。ここで、ポイントになるのは「ヒト」であろう。菅首相所信表明演説において、「国際金融センターは新たな人の流れをつくる」という文脈の中で取り上げられていた。金融人材をいかに日本に呼び込むかという観点での構想であることがわかる。そして、税金についても、相続税をはじめとした「ヒト」に係る部分から議論が始まっている。
https://www.refinitiv.com/ja/blog/tokyo-global-financial-center-implementation

『これからの日本の論点2021』

日本経済新聞社/編 日経BP 2020年発行

論点5 4度目の挑戦、国際金融都市は実現できるか より

【執筆者】川崎健編集委員論説委員

10年おきに浮上しては失敗の繰り返し

国際金融都市構想――グローバルで活躍する海外の金融機関やファンドの拠点とそこで働く金融人材を日本に呼び寄せて、東京をニューヨークのウォール街やロンドンのシティと並ぶ国際的な金融センターにしようという計画だ。だが、この言葉を聞くと多くの人は「またか」と思うのではないか。政官民のあいだで何度も検討されてきたが、一度も成功した試しがないからだ。国際金融都市構想はおおむね10年おきに浮上し、いずれも計画半ばで頓挫してきた。
最初に浮上したのは、1985年だ。米国が財政赤字貿易赤字の「双子の赤字」に苦しむなか、国際協調によって為替相場をドル安に誘導する「プラザ合意」があった年だ。日本ではここからバブル景気が始まり、海外金融機関が相次いで日本に上陸した。東京都は湾岸の台場地区に国内外の金融機関を集める計画を打ち出したが、バブル崩壊によってこの計画は頓挫した。すでに東京に進出していた海外金融機関もテナント賃料の高騰を嫌って、香港やシンガポールなどアジアの他の都市に移ってしまった。
2度目は1996年、当時の第2次橋本内閣が打ち出した「日本版・金融ビッグバン」だ。英国のサッチャー政権が実施した「ビッグバン」ぶならい、株式売買手数料の自由化など大胆な規制緩和によって金融システムを改革し、国際金融センターとしての日本の地位をめざすという計画だった。

高い税率、優遇措置は困難か

だが(「一国二制度」の崩壊などで)、香港のヘッジファンド金融派生商品など複数の金融商品に分散化させて、高い運用収益を得ようとする代替投資の1つ)がすぐに東京に拠点を移してくれるかというと、話はそう簡単ではない。仮にファンドが香港から拠点を引き払ったとしても、移転先は東京以外にも選択肢がある。その最大の候補が、現在アジアで香港に次ぐヘッジファンドの集積地になっているシンガポールだ。他のライバル都市に競り勝って登場が新たな金融センターに選ばれるためには、やるべきことはたくさんある。

まずは、相対的な税率の高さをどうクリアするかだ。国際資産運用センター推進機構(JIAM)が2016年に海外運用会社82社に対して東京へ参入するにあたっての課題を聴き取り調査したところ、「税制」を挙げる回答が最も多かった。
ヘッジファンド運用者のような高度金融人材には高額所得者が多いが、その個人所得に対する税率が日本は相対的に高い。現状では、個人所得に課せられる税率は、香港で一律17%、シンガポールで最大22%である。これに対して日本は、所得税と住民税の合計で最高是率は55%に達し、大きな開きがある。
「日本は、観光や文化などレジャーが充実しているうえ、気候もよく、レストランも充実している。なにより家賃が相対的に安いため、総合的な生活環境は、香港やシンガポールよりも優れている」。先の香港在住の米大手ヘッジファンドの幹部は東京の魅力を並べたうえで、こう続ける。「最大のネックが税率の高さだ。5年程度の時限措置でもいいから、移転前の元の国の税率を継続して適用する優遇税制さえ導入してくれれば、すぐにでも東京に移るのだが」

カギは国内機関投資家の意識改革

さまざまな課題が残る国際金融都市構想だが、実現するために最も重要なことは何か。「税率の高さや参入手続きの複雑さは確かに問題だが、運用会社からすれば業務運営コストにすぎない。日本での資産拡大で、それらを補う収入増が期待できれば、東京を選ぶ海外運用会社は増えるはずだ」。運用会社の設立支援や事務の外部委託(アウトソース)を請け負っている日本資産運用基盤グループの大原啓一社長はこう指摘する。
海外からみた日本市場の最大の魅力は、約1900兆円という分厚い個人金融資産だ。その多額の個人金融資産が投資へ向かわず、多くが預貯金に滞留している。その大きな原因のひとつが、ヘッジファンドなどの運用会社にお金を預ける年金基金など国内機関投資家の保守的な姿勢だ。
逆に言えば、そこが、国際金融都市構想を実現するための最大の伸びしろだ。日本のアセットオーナー(資産の保有者となる組織)たちが多くの海外運用会社に門戸を開くようになれば、資産獲得のチャンスとみて有力な海外運用会社が東京に拠点を開こうとするだろう。国内機関投資家の意識改革こそが、何度も失敗を繰り返してきた国際金融都市構想を実現するための最大の近道になる。