じじぃの「歴史・思想_492_大分断・アメリカ社会の変質と冷戦後の世界」

Gravitas Plus: The Belt & Road initiative

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Rjx1iuY9D2s

The U.S.-China Strategic Competition: Clues from History

February 2020 Harvard Kennedy School Belfer Center
Harvard’s Thucydides’s Trap Case File has reviewed the past 500 years for instances in which a rising power threatens to displace a major ruling power To date, it has identified sixteen cases that meet the criteria.
The purpose of the case file is not to develop a database for statistical analysis. Rather, it is to analyze historical analogues in order to illuminate a phenomenon: the dynamics in the rivalry between rising and ruling powers. Nonetheless, the fact that in four of these cases there was no war lends support for the view that if war occurs between the U.S. and China in the year or decade ahead, their leaders will not be able to blame Thucydides or some iron law of history.
https://www.belfercenter.org/publication/us-china-strategic-competition-clues-history

『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』

エマニュエル・トッド/著、大野舞/訳 PHP新書 2020年発行

第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界 より

冷戦後の世界を俯瞰する

ここからはアメリカの地政学的変化を見ていきましよう。2019年はベルリンの壁崩壊から30周年の年でした。この30年で特筆すべきことは、結果的に地政学上の構図にほぼ変化が見られないという点です。今でもロシアと中国というブロックが存在しています。ちょっとした変化としては、それまでは西洋ブロックに所属していたイランがロシア・中国のブロックに新たに加わった点です。また周辺国では例えばベトナムは中国を脅威と見るようになり、アメリカに接近しました。しかしながら全体を見渡した時、戦略的な同盟関係においては大きな変化は見られないのです。それにはもちろん理由があります。
まず、中国は今その力を高めている勢力で、アメリカを対抗相手と見ています。ロシアは特殊な軍事力を保持しているため、核危機が訪れた際には中国はロシアを通すことでアメリカに反撃できます。ただ、これらの力関係というのは、それよりももっと重要な経済的な関係性とは大きくずれたものなのです。経済面で考えると、物事は大きく変化しました。
アメリカが敵視している国はまず中国。なぜならばアメリカにとって中国は、経済的にも戦略的にも、そして思想的にも我慢ならない相手になったからです。中国は、経済的には輸出に頼らざるをえないなど脆弱な側面がありつつも、今、新しいタイプの全体主義を作り出しています。そして、その全てがアメリカの価値観と真っ向から対立するものなのです。
ロシアは軍事力では中国より優位ではありますが、日本より多少人口が多いだけのこの国は、自国の領土を管理するのに苦労しています。また、人口学的な視点から考えると、アメリカよりも中国を脅威と感じているはずです。
そして次にアメリカは、彼らがヨーロッパの統制を失ってしまった理由の1つであるドイツも敵対視しています。アメリカがドイツに世界経済活性化のために責任を取って欲しいと要請をするたびにドイツは拒否します。ドイツはもはやアメリカに従わなくなっているのです。アメリカはドイツの力を完全に甘く見ていたため、共産主義からの脱却の際に失敗しました。対ロシアという名目の元でNATOの拡大をすることで、アメリカは永続的な形で覇権国家になれると思っていました。しかしながら、結果的にはヨーロッパ圏でドイツが力をつけ、ヨーロッパ自体がアメリカの統制下から出てしまったのです。今やヨーロッパはドイツに主導権を握られているのです。そもそもアメリカ帝国というのは、第二次世界大戦の敗戦国である日本とドイツを統制下に置くことでしたが、そういう意味ではアメリカは帝国の半分を失くしてしまったと言えるでしょう。日本は中国という脅威があるために、まだアメリカの傘下に留まっているわけです。
とはいえ、日本とアメリカの力関係も変化したと私は見ています。ヨーロッパでの潮流や中国の台頭により、アメリカの立場は弱くなっています。そんな中で、今までなかったほどにアメリカが日本を必要としているという状況があると思うのです。

米中覇権戦争が持つ3つの側面

中国とアメリカの間で起きているのは単なる貿易戦争ではありません。トランプが大統領に当選した1つの理由は、アメリカの労働者たちが中国との競争に苦しんでいるからということもありますが、中国が地政学的な側面においても非常に攻撃的になってきているという点にも注目すべくでしょう。そしてこの紛争は3つの側面を持っています。1つ目は貿易、2つ目が軍事、そして3つ目が文明です。なぜならば、全体主義で警察によって監視されている中国は民主主義を脅かす存在と見なされているからです。
問題は貿易戦争以上のものであり、むしろ地政学的な問題でしょう。世界1位のアメリカが中国にその地位を乗っとられるのをただ待っているわけがありません。これは良い悪いといった問題ではなく現実なのです。さらに注目すべき点は、中国が最大の力を得るためにはロシアの軍事力を必要としている点です。中国はロシアの防衛システムを手にすることで南シナ海での活動が可能になります。そんな中、現在アメリカはロシアと中国、両国と紛争状態にあるのです。もしアメリカが本当に中国の脅威と向き合いたいのであれば、ロシアに対する態度を変える必要があるでしょう。そしてロシアと接近することで中国の潜在軍事力を大きく弱めることが可能になります。

アメリカとロシアが手を組む可能性

昔、フランスはオーストリア帝国への対抗策として、プロイセンと同盟を組んでいました。しかしそこで同盟関係の反転が起きます。フランスはオーストリアと、プロイセンはイギリスと同盟を結ぶのです。そして7年戦争に突入し、フランスは敗戦します。
このように歴史においてはある時突然、戦略的な変化が訪れることがあります。キッシンジャーニクソン共産主義圏を壊すために中国に歩み寄ったことなどもそういう例の1つです。そして現在、どうもこの戦略的な構図が通常とは異なる様相を見せています。無責任で、経済的にも非現実路線を行く2つの権力が中国とドイツです。そして世界は、この構図の再編成への準備を整えたように見えます。そこではアメリカとロシアが世界平和を保つために同盟を組むでしょう。
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とにかく、いろいろな不可解な要素もあり、断言はできませんが、これから10年、20年で、本当の意味での冷戦の終結の可能性について検討するべきなのかもしれません。冷戦というのは、何よりもまずロシアとアメリカの対立でした。そんな2ヵ国が、いつか協力し合う関係になるというのが本当にありえないことなのか、今一度検討してみてもいいのかもしれません。もちろん、「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」といった新聞を読む限り、それとは真逆の見方が一般的には展開されているのもよくわかっています。トランプはロシアやウクライナとの関係を持っていることで批判を浴びています。