じじぃの「歴史・思想_223_人工培養された脳・不死(HeLa)細胞の培養」

The immortal cells of Henrietta Lacks - Robin Bulleri

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=22lGbAVWhro

Cancer Cells vs HeLa Cells

Normal Cells vs Cancer Cells vs HeLa Cells

February 14, 2017 Creative Bioarray
Cells in human beings or animals are numerous. Through years of researches, cells can be identified into many classes according to their different characteristics. So there are many differences between different cells. In this post, we are going to discuss the differences between normal cells and cancer cells, differences between cancer cells and HeLa cells.
https://blog.creative-bioarray.com/normal-cells-vs-cancer-cells-vs-hela-cells/

『人工培養された脳は「誰」なのか』

フィリップ・ボール/著、桐谷知未/訳 原書房 2020年発行

不死の肉体――組織を体外で培養する方法 より

自分の皮膚をニューロンに変えるバイオ錬金術を受ける前から、わたしの一部がペトリ皿のなかで生き続け成長できるのは、奇妙で不思議なことに思えた。生体組織が最初に生体外で育てられたとき、そのわざが不死を約束する超自然的な魔術に見えたのも当然だろう。
20世紀初頭の出来事で、生物学者の多くも、そういう展開になるとは考えていなかった。新聞記者たちが予測する永遠の命とは、実験室で育てられた新しいさまざまな体の部位で使い古しの部位を交換し、無限に命を維持できるというものだった。そういうことをもっともらしく信じさせる科学者もいたので、このときばかりはジャーナリストたちも、死を”条件次第の過程”、細胞培養を”不死”と表現する扇情的な見出しをつけた。
科学が神話の領域に入り込んだときに起こる典型的な事例だった。つまり科学者は、他のどんな人にも劣らず、空想的な言い回し、引喩や連想を受け入れやすい。区がつけば、テクノロジーは大昔の夢を増幅させ、事実と虚構のあいだの境界がどこにあるのか、誰にもわからなくなっている。
こうして、組織から成るヒトの性質があらわになったことをきっかけに、古い分類や革新が揺らいであいまいになり、人間存在の基本的事実とされてきたものをいくらか再考せざるをえなくなった。自分たちが誰で、何者なのかが、はっきりしなくなってきたのだ。
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ロックフェラー医学研究所(現在のロックフェラー大学)に所属するフランスの外科医、アレクシス・カレルの臓器移植の研究が一助となり、組織培養は、ヒトの細胞を含むあらゆる種類の細胞に対する一般的な処置になった。とはいえ、新聞の見出しは目前に迫る不死を公言しているというのに、まだまだヒトの培養組織を生かし続けるのはむずかしかった。
しかし、1951年に、状況は一変する。ボルティモアのジョンズ・ポプキンズ病院のアメリカ人医師ジョージ・ゲイは、ヘンリエッタ・ラックスという名の31歳の患者からがん細胞の摘出したとき、その細胞がこれまでに見たどのサンプルとも違っていることに気づいた。ラックスはその年の後半に子宮頸がんが亡くなったが、彼女のかん細胞は培養基のなかで、見たところ再現なく増額を続けていた。並外れた生命力を見せたこのいわゆるヒーラ(HeLa)細胞(このように提供者の名前を慣習的に匿名化した略語で識別される)は、やがて世界じゅうのヒト細胞に関わる実験の標準株となった。特に、生きた人々を危険にさらさずに薬物を試験する際に使われた。ゲイは、ウイルスを培養する宿主組織としてヒーラ細胞を使い始めた。ウイルスは、コロニーをつくるための細胞がないと存続できないからだ。1954年までには、そういう研究からポリオウイルスのワクチンが生まれていた。生物学者ジョナス・ソークの発見によるものだ。
ヒーラの物語は新聞記事やテレビのドキュメンタリーや書籍で何度も語られているが、最も力強く包括的な作品は、レベッカ・スクルートの『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』だ。題名が示すとおり、この物語には隅から隅まで進歩的な修辞が混ぜ込まれてしまったので、全体の文脈を明らかにする眺望の利く地点を見つけるのはむずかしい。ハンナ・ランデッカーは、どこに危うさがあるかを明確にしている。こういう物語は、「簡単には理解できない何かをどうにか説明するための反応だろう。つまり、人間の命が持つ可能性の条件が、根本的に変化した」とランデッカーは言う。ヒーラは、「ヒトの体細胞の思いも寄さない自律性と可塑性の生きた証拠」だった。
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そもそもヒーラ細胞は、ふつうのヒト細胞ですらなく異常ながん細胞だというのに、なぜそんなに役に立つのかと、不思議に思うかもしれない。

しかし、細胞が使われる目的にとって、それはあまり問題にならない。たとえばワクチンを探求するためや、1980年代から行なわれているHIVとAIDSの研究にとっては、ウイルスの宿主として、がん細胞は完璧に機能する。同様に、薬剤候補は、ふつうのヒト組織にとって有毒なら、ヒーラにとっても有毒かもしれない。
それでも確かに、ヒーラを他の細胞から際立たせ、これほど活発でたくましい細胞株にした何かがある。それはヒーラが持つテロメアに関係があるらしい。染色体の末端にあるDNAの構造で、複製されるたびに分解され短縮されていく。一般的にがん細胞はテロメアを修復する酵素をつくるので、こういう形の細胞の老化を防止できる。とはいえ、ヒーラ細胞はとりわけこのわざに熟達しているようだ。