じじぃの「科学・芸術_956_アイルランド・島の成り立ち」

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動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JqkdB6nQJqI

Giant's Causeway

アイルランドを知るための70章』

海老島均、山下理恵子/編著 赤石書店 2004年発行

移り気な天候 島の成り立ち より

アイルランドの位置は北緯51度30分から55度30分。札幌よりもずっと北にある。だからだろうが。「寒そうですね」とよくいわれる。ダブリン空港における平均気温は札幌と大差はないが、夏は東京で通常25度以上、札幌でも20度を超えることを考えるとかなり涼しい。一方、冬はもっとも寒い月でも0度前後、東京より少し寒いくらいで、札幌よりはずっと暖かい。国内観測値として最北端に位置する北アイルランドのマリンヘッドでさえ、月の平均気温はめったに氷点下にならない。つまり年間を通して暑くもなく、寒くもないわけだ。大西洋からの湿った暖かいメキシコ湾流の影響で、それほど寒くならない気候が保たれているといわれる。
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こうした天候がアイルランドを緑深い「エメラルドの島」としたといっても過言ではない。アイルランド島地殻変動によってグレートブリテン島から離れ、氷河作用によって地形が形成されたといわれる。太古の時代の海は暖かく、炭酸カルシウムを含む海洋生物の堆積によって石灰岩ができた。このため、現在のアイルランド西部の大地にはむき出しの石灰岩が存在する。粗削りで、起伏に富んだ石灰岩の景色が印象的なのがカウンティ・クレアのバレン高原やカウンティ・ゴールウェイのアラン諸島など。岩の割れ目には可憐な高山植物がたくましく咲いている。海岸線は波と風に浸食され、海に切り立つカウンティ・クレアのモハーの断崖やアラン諸島のイニシュモア島にあるドン・エンガスのような独特の景観を生んだ。世界遺産として登録されているカウンティ・アントゥリムのジャイアンツ・コーズウェイも地殻変動と氷河活動の結果として生まれたという。石の六角柱が並ぶ不思議な風景で、伝説の巨人フィン・マックールにちなんで、この名がつけられた。泥炭層(ピートボグ)も典型的な風景だ。不完全な状態で腐敗した太古の植物が湿った状態で蓄積し、燃料としても使われる泥炭となった。これも雨が多いアイルランドならではの景色といえる。
草木のはえない地形がある一方で、深い緑に包まれた大地もある。川、湖、谷がいたるところに点在する。恵みの雨が草木を育て、牧草地と水辺の風景がアイルランドの田園をエメラルド色に輝かせた。
移り気な天候に悩まされつつ、その天候によって育まれた自然のなかで生きるアイルランドの人びと。彼らの挨拶は天気の話題ではじまることが多い。「まったくひどい天気だこと!」とお決まりのセリフを口にしながら、そんなことは慣れっこだわといった余裕の笑顔をみせて、今日もアイルランドの1日が始まる。